物語:うちゅうといううそ

うそ

4月1日。といえば、エイプリルフール。私はうそはつかない。けれども、ひとつだけついてしまった。彼と喧嘩をしたさいに、
「私は宇宙へいってしまうのよ!」
と、言ってしまったのだった。
「なんだそりゃ」
と、彼は喧嘩をしていることも忘れたように笑った。しかし、これはたしかにうそであった。しかし、私の夢でもあった。

小さい頃から宇宙へ行きたいと憧れていた。夜、星を眺めてはこのまま宇宙を冒険していたいと夜空の神様に願ったものだった。

まあそんなこんなで、私の儚いうそは消えた。エイプリルフールだもの。仕方なかったの。


4月2日になった午前の夜。いつものように窓辺で星を眺めていると、夜空の神様が現れた。夜空の神様は淡く光っていて、まるで星を散りばめたように繊細な光を伴っていた。夜空の神様は言った。
「エープリルフールのうそを叶えよう」
「はあ」
私は意味不明な状況に、ポカンとした。私はうそは好きではない。うそなんて言ったかな? と思い出すと、先程の彼との話を思い出した。
「私は宇宙へいってしまうのよ!」
と、言ったことを。


ちきゅうのララバイ

次の瞬間、私は宇宙にいた。無重力を遊泳していた。真っ黒な宇宙に一人浮かぶ孤独。ふぅっと回転されて、目の前に美しい青が現れた。地球であった。宝石、ふるさと、夢の雫。美しく愛おしいその星からは、美しい子守歌が聴こえてくるようであった。

ららら……るるる……
るるる……星の……
ららら……子守歌……

ゅめおち

……ゅめ?
目が覚めると、朝だった。宇宙へ行きたいという夢が叶ったゆめをみたなんて、どんなジョーダンかと苦笑しながら。
昨日喧嘩した彼はまだグースカピーと眠っている。起こさないでおいてあげよう。私はちょっとした平和な時間を過ごすことにした。


うらら

カーテンをあけると、窓の外は朝の光。喜びに満ちていた。春うらら。小さく深呼吸をして、コーヒーを淹れた。それから散歩のしたくをして、外へと出かけることにした。


とびらをあけよ

散歩へ行こうと、玄関のとびらを開けた。そこには、昨夜みた夢の、夜空の神様がいた。
「へっ?」
びっくりして、思わずとびらをまた閉めてしまった。外の様子を、音で確かめてから、またそおっと開けた。夜空の神様がいた。


いい行い

「ふむ」
夜空の神様は朝の玄関の前でつっ立っていた。何をしていたのかはわからない。
「そなた。宇宙へ行きたいのだな?」
「は、はあ」
「それならば、いい行いをしなさい。きっと道は開けるだろう」
「いい行い……? うそをつかない、とかでしょうか。それなら私はうそをつきません」
夜空の神様はふぅとため息をついた。
「それではしかたない」
そう言い残して、夜空の神様はふぅと消えてしまった。


うんがいい

「? なんだったのかな?」
夜空の神様が消えたあと、私は散歩に出かけた。

道を歩いていると、気分がいい。
草はそよぎ、花は笑う。その隙間には……ごみ? いや。何か四角いものが光っていた。拾ってみると、玉虫色に輝く一枚の券だった。
早速交番に届けた。交番の人に少し待つように言われて、待っていた。すると、交番の人に書類を書くように言われたので、言われるまま書いた。そしてサインをした。

数日後。電話がかかってきた。
「あなたは運がいいですよ」
「え? なんのことですか?」
よくよく聞くと、先日拾った玉虫色の券は、とても大切なもので、落とし主がお礼に宇宙旅行をプレゼントしたいという。

私は大喜びですぐに承諾した。彼に喜びを伝えると、彼は怪訝そうな顔をした。
「あんまりにも眉唾な話だ」
と、彼は言った。また喧嘩になってしまった。


うちゅうへ

私が宇宙へ行く日がやってきた。地球のみんなに手を振る。
「ありがとう! ありがとう!」
ただし、そこに彼の姿は見つからなかった。
そして私を乗せたロケットは無事に宇宙へと旅立った。地球は青くてとても美しかった。宇宙は真っ暗で少し恐ろしかったけれども、希望が満ちているようだった。


そしてはじめにもどる

地球を旅立ち、宇宙へいって、もうどのくらいになったのであろうか。宇宙では日にちなんて関係なかった。ただ遊んで宇宙旅行を楽しめば良かったからだった。
はじめは楽しかった。見たことのない星。小さくなってゆく地球。ながいながい宇宙の旅。
けれどもだんだんと、さびしくなってきた。地球にいるみんなは元気だろうか。それから、ときおり思い出してなぜか苦しくなるのは、喧嘩したままの彼のこと。

ふと今の日にちが気になった。コンピューターに聞いた。
「コンピューター、今日の日にちを教えてくれ」
『20XX年4月1日です』
「4月1日……」
エープリルフールか。私はひまつぶしに、大の苦手なうそをついてみた。

「私は宇宙のゆめを見ながら、平凡な生活をおくっているのです」

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