扉の前の星の粒

この扉、何だろう?

あなたは、そんな扉を見かけたことはないでしょうか。

街角で。草むらで。建物の中で。

あります? その扉、開けましたか? ……え、開けてない? そうですか……。いえ、いいんです、いいんです。ええ、そのままでいいんですよ。

ただ、ですね。


わが家にも不思議な扉がありまして。開けると、板が打ち付けてありまして。ちなみに、裏側は通路なのですが。家族と、この扉何だろうねえと首をかしげています。

どうも、真夜中は開けない方が良いなと思うのですよね。いえ、私の勘なのですけれどもね。あの扉。

宇宙。

なのですよ。

え? いや、だから、宇宙。宇宙ですよ。時空が歪んでるんです。いや、笑いごとじゃなくて、ですからね。証拠だってありますよ。

ほら。これは、星の粒。透明で、キラキラ光っているでしょう? これ、朝に必ずあるんです。

それに、ここだけの話ですけれども。夜中にアイスが無くなるんですよ。クッキーも。お砂糖がたっぷりとまぶされたクッキー、とっても美味しいんですから。これ、きっとハラペコ星人ですよ。

だから毎日、冷凍庫とちゃぶ台のかごに、アイスとお菓子をたっぷり用意してるんですよ。おもてなしってやつです。ペロリとなくなりますから。

そのうちに、ハラペコ星人と仲良くなれるかもしれません。え? いえいえ、恩返しを期待してるのではないですよ。それよりも、宇宙のお土産話を、沢山聴きたいですね~。宇宙言葉も、教えてもらいたいな~。

扉の向こうに招待されたらどうしましょう!? お出かけ用ワンピースを着ていかないと……! 向こうの星はどんなところかな? キラキラと輝いているのかな? 緑や花は綺麗かな?王子様に挨拶もしなくちゃ。まあ、美しい星の宝石もあるわ。

だけれども、宇宙と繋がるのは真夜中だけだから、早く帰らないと。扉が元の板に戻ってしまうわ。ああ、王子様、さようなら。さようなら。


……そして、地球のわが家に帰ったら。

家族はなにも気づかずぐーぐー眠っているのですよね。

最近、ぽっちゃりと太ってきた家族。不思議ですねぇ、隠れて何か食べてるのかしらねぇ。

ふふふ。

大好きな家族です。

どこかの星のどんなに美しい宝石よりも、私にとって一番大切な家族です。


だから。

この扉は、開けないでおきます。

どんなに光り輝く宇宙よりも、わが家のお茶の間で、家族と笑ってすごすのが一番です。


ハラペコ星人さん。お菓子、用意しておきますからね。

また食べに来て下さいね。


扉はしんとしていました。




……その真夜中。


扉がそっと開きました。

ハラペコ星の王子様でした。王子様はひどくがっかりとした様子で、アイスとクッキーをひとつ食べてはため息をつきました。そして、星の粒を振り落としながら扉へ戻りました。王子様の手には、それはそれは美しい星の宝石があり、それを見つめながら、もて余しながら、ハラペコ星へと帰りました。

扉はそっと閉まりました。


真夜中のお茶の間は、しんと静まりかえりました。

星の粒だけが、扉の前でキラキラと光っていたのでした。



この記事が参加している募集

#宇宙SF

6,030件

いただいたサポートは、本を買うことに使っていました。もっとよい作品を創りたいです。 ありがとうございます。