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テスト:第十一話

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放課後、私は第二理科室へ向かった。 16時40分。 腕時計で時刻を確認した。

藤野君はまだ来ない。 私は今日の宿題を取り出した。 漢字の書き取りを脳死したままだらだら書き連ねる。 漢字は好きだ。 親しみやすく感じる。

しばらくして、また腕時計に視線を向けた。 17時00分。 20分も待った。 彼はまだ来ない。 何かあったのだろうか。

私は少し胸がざわめいているのを感じた。 しかし、彼と初めて会ってからまだ一週間程しか経たない。 割とルーズな一面もあるのかもしれない。 でも、私を放置するなんて素振りを今まで見せたことがない。 あ、もしかして放置プレイなのか? これは・・・。 もしそうなら、割と彼は私を熟知しているかもしれない。 私が本来寂しがりであることを知った上で、不安を煽り、私が折れることを狙っての作戦なのか・・・。

藤野君の教室に向かう途中、私は冷静であるために分析を始めた。 心を乱されることは大の苦手である。 特に恋愛において、この乱れはある意味相手のペースに吞まれている証拠。 恋愛とは、駆け引きの連続。 詰まり、格闘技、勝負である。

教室内には藤野君の姿があった。 そして、もう一人いる。 女。 藤野君の元カノだった。 修羅場か? 私は反射的に教室の外の壁に張り付き、隠れた。 なんだ、まるでサバゲーでもしているようだな。 しかし、藤野君。 君は私との約束を忘れたわけではないだろう。 大方、元カノから私の元へ行くことを邪魔されたのだろう。 きっとそうに違いない。 だって藤野君の心理はいつだって私の手のひらにあるのだから。 そう祈りながら、耳を澄ました。

元カノが何やら藤野君に問い詰めている。

「私のこと、嫌いならそうはっきり言ってよ。はっきり言われないと私、諦められないから」

「嫌いってわけじゃないよ・・・カナミはいい奴だし。でも・・・」

「じゃあ何!?私よりあの言切先輩の方が好きなの? だったらそうはっきり」

「違うんだよ、カナミ」

「何が違うっていうの?どうしてそうはっきりしないの? ねえ、私の気持ち、考えたことある・・・? 私、あんたのこと好きなのよ? 今でも。 それなのに・・・・・・あんたに拒否されて辛いのに、前夜のことそれでも受け入れようとしてるのに・・・・なんでダメなの?」

「・・・・俺も、好きだよ。カナミ。 でも、俺じゃカナミを幸せにできないよ。 俺、セックスもできない男だよ? だから、他の人と幸せになってほしいんだよ。 ほんと、ごめん・・・」

「・・・・・・待つ。私、あんたがセックス恐怖症治すまで待ってるから!!」

「・・・・・カナミ・・・!」

カナミは教室を飛び出した。 そして、去っていった。 私に気づくこともないまま涙を零しながら逃げるように・・・。

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