変わる世界の刑務所事情 22.9.4 GLOVEより
実家の両親は新聞を読むのが習慣の人で、朝日新聞を購読している。
もっぱらスマホ世代の私は、大きすぎる紙面を持てあますのが嫌いであまり読むことはないが、唯一の楽しみがある。
それが国際ニュース専門記事の「GLOVE」だ。
アルゴリズムの発達により、気づけば広告には自分の興味あるものしか目にしなくなってきたご時世で、タイトルをぱっとみただけで、その瞬間までまったく興味のなかったコンテンツに読者を惹きつけるのだから、流石天下の朝日新聞と、記事担当者に感嘆を漏らさずにいられない。
行ったこともない、文化も知らない、名前も聞いたことがない世界がどんな営みをしているのか。毎週とまではいかないが、気になるトピックがあると気づけばページを繰っている。
今日のトピックは、「変わる世界の刑務所」だった。
ノルウェーの「世界で一番人道的な刑務所」
いま世界では、刑罰の見直しが行われ始めている。
懲らしめる、刑罰を与えることが目的だったものから、再犯防止にフォーカスを当て始めたらしい。
ノルウェー南部にある森では、8年がかりで154億円が投下され、森の中のウッドテラス風な刑務所が建築された。
グランピング施設かと見まがうばかりにカントリー風の洒落た宿舎と、配偶者とともに入所した場合にはコンドームまてあてがわれる環境に、これはもはや新規のホテル事業ではと、穿った見方をしてしまう。
かつてノルウェーでは出所後の再犯率が60-70%台と高水準だったのに対し、「世界一人道的な刑務所」と呼ばれるここから出所した元受刑者の再犯率は、なんと10%後半にまで落ち込むという。
「ここにいるのは、やがてあなたの隣人になる人だ。」- 本文より抜粋
死刑制度がないノルウェーでは、終身刑以外であれば社会復帰する人が多い。ともすれば、世の中に対する鬱憤を抱えた状態で新たな犯罪者を生み出す監獄より、最低限の自由を奪い、家族や恋人への寂寞と、会いたいという切望とを胸に新たなスタートを踏み出す人を育成すれば、それは自分たちの未来をより安全にする、最善の策と言えるかもしれない。
紙面右下に映る、工場で作業をする受刑者の口元には、趣味のDIYを楽しんでいる人と、キャプチャーが入っていたとしても、全く疑いようのないほど柔らかな笑みが浮かんでいた。
官民総力で再就職を支援するシンガポールの制度
一方アジアにも、ノルウェーと同程度に低い再犯率を維持している現状がある。
YRSG (Yello Ribon Singapore)と呼ばれる政府組織が、その数字の立役者だ。
昨年2021年には3000人を支援し、94%が就職に成功したという。
単に就職を支援するだけでなく、入社後のケアや、企業側のサポートまで行うという徹底ぶり。労働者が不足しがちな機械業や倉庫業を営む企業にとっては、不安もありながらも外国人労働者を雇う税収に比べれば、コスト面でのメリットは大きいという。
今まで急にトぶ(来なくなる)ことはあっても、警察沙汰になったことはないそうだ。
刑務所内に精密加工機械が導入されるなど、受刑中に専門スキルを磨き、就職も決めて、出所後の生活基盤を安泰にする試みは、一見人道的にみて素晴らしいと評価されるべきものだろうが、少し私は嫉妬のようなものを覚えてしまった。
人生の反発係数
どうでもいいが、この春に仕事を急遽やめることになった。
入社して4か月目のことだった。
前職から合わせると、短期離職はこれで2回になる。
まさか自分の経歴がこんな風になるとは思っていなかったし、それも自分が選んだ道なのでまあ仕方ない。
私のように、経歴に傷をつけてしまった人は一定数いるかと思うが、この状況からもう一度、日本従来のキャリアステップを踏めるようにとあがくのは並大抵ではない。
一度現場仕事でスタートした人が、後から高収入を求めてIT系に就職しようとしても、その教育費や自己研鑽はすべて自分の財布から出すことになる。
一方で、犯罪に手を染めて自由を奪われこそしたものの、寝食を保証され、出所後の仕事に向けた専門スキルや教育は無償で受けられる人々もいるというのは、なんとなく差を感じてしまう。
そのうち、IT人材の不足を補うために刑務所に入れば無償でプログラミングを学べる人も出てくるかもしれない。娑婆では月20万円と高額な教材費を払っている人がいるというのに。なんだか不公平な話に聞こえてしまう。
バネというのは反発係数があり、沈めば沈むほどその反発する力は強くなるという。
言葉は悪いが、堕ちるところまで堕ちる方がその後這い上がれるというのが真理だとするなら、ぬるま湯につかってないでいっそのこと、塀の向こうまで行ってしまった方が得ではないか。
そんな風に考えたものの、自由にネット環境が使えなくなるということだけはご免こうむりたいので、やはり今日もあくせく働いて、お世話になることなく就活を頑張るしかないと、ため息をついた。
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