アンデスの山を一緒に歩いたのは、何者だったのだろう
南米ペルー、首都リマから北に420km、そこにはワラスという街がある。ワラスはまさにトレッキング天国。ワラスを拠点に、様々なトレイルを歩くことができる。そのひとつ、ワスカラン国立公園には、最も有名な湖がある。ラグーナ69という氷河湖だ。
標高4600mにある湖。その色はあまりにも特徴的で美しい。多くの旅人がこの景色を求め、ハードな日帰りトレッキングをする。周囲にはアンデス山脈のブランカ山群、6000m級の山々がそびえ立つ。
ワラスの街で情報交換した旅人がこう言った。
「このトレイル、途中分岐があって、ピスコベースキャンプの方へ行ったらいいよ。そこで1泊して、2日目にラグーナ69へ行くのが最高に良いよ」と。
この湖はゆっくり満喫したい。そう思った私と友人は、情報通り、ピスコベースキャンプへのトレイルと組み合わせることにした。久しぶりのテント泊。1泊2日で歩いたこの旅で、不思議な出会いがあった。
◇ ◇ ◇
標高4600mのピスコベースキャンプで一夜を過ごした翌朝。
朝ごはんを食べている時、何か気配を感じた。そこには2匹の犬が、こちらの様子を伺っている。食べ物を狙おうとしているのか。こわい、こわすぎる。
野良犬には、街でも絶対に近づかないようにしている。ここで噛まれたりしたら大変だ。こちらも負けじと様子を伺い、威嚇をする。犬は一定の距離以上は近づいてこない。
朝ごはんを食べて出発すると、後ろから2匹の犬が付いてきた。嫌だなと思い、早足になろうとするも、空気が薄く、思ったより足が進まない。後ろを見ると、犬は元気よく歩いている。この地で暮らしているのかな。空気の薄さに慣れているようだ。
犬に追いつかれるのも時間の問題だった。1匹は私をサクッと抜いて、前を歩く友人の方へ向かった。もう1匹は、私を抜かない。後ろから様子をチェックしているみたいだ。
「私は遅いから、先に行きな」
犬に目で訴える。犬は何も言わず、じっと私を見ながら、鼻を斜め上に振る。
「お前が先に行け。」私には確実にそう聞こえた。
この先は、つづら折りの道を登り、一気に200m標高を上げる。高山病なのか、いつもより鼓動が速い。深呼吸をしながら、ゆっくりと登る。後ろの犬はまだ私を抜こうとしない。
なんだか心強い。最初はあんなに警戒していたのに、今は一緒に旅する仲間のようだ。
4800mの峠に到達する。友人と犬が待ってくれている。後は緩やかに下るのみ。登りと違って、スイスイ進む。犬は先を走ったり、戻ってきたり、2匹で戯れあったりしている。
遠くに、目的地であるラグーナ69が見えた。上から見るラグーナ69、日帰りトレッキングでは見ることのできない景色だ。このトレイルを歩いて良かった。記念に写真を撮ろう。
写真スポットには、先役がいた。犬が佇んでいたのだ。「どいて」と言っても一向に動かないので、一緒に写真を撮る。
いよいよ目的地が近付き、一気に駆け下りる。日帰りトレッキングのハイカーを見た時、この旅が終わった気がした。ハードだったけど、楽しかったな。
・・・そういえば、と周りを見回す。いつのまにか犬がいない。走って先に行っても、途中で私達を待っていたのに。最後に見たのは、写真を撮ったあの時だ。
もしかしたら、私が高山病で体調がすぐれないのを、見守っていたのかもしれない。元気になったから、安心して、いなくなったのかもしれない。
やけに意思を感じる犬だった。私が思っていることを理解しているかのよう。アンデスの山々に人生を注いだ人達の魂が入っていたのだろうか。非科学的なことは信じないのに、そんなこと思ってしまう。
そもそも存在していたのだろうか。私が夢をみていただけなのか。
「最後にお別れを言いたかったな。」
写真を見ながら、ラグーナ69を後にした。そこには確実に犬が存在していた。
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