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映像翻訳について思うこと③どんな力がついたか

社会人の傍ら映像翻訳を1年半学び、映像翻訳者として活動した2年間を振り返り、思ったことをまとめています。翻訳者デビューまでの過程や、翻訳者になってよかったことについては以下をご覧ください。


今回は、これまで勉強と実務で計4年程翻訳に関わってきた経験から、その中で培われた能力について書きます。


要約力・言語化能力

 本質的な所でいうと、要約力・言語化能力が鍛えられたと思います。

字幕翻訳にはいろいろな制約がありますが、それらを守りつつ自然な日本語になる訳を考える過程で「つまりどういうこと?」と、考える癖がつきました。そのセリフが本質的に何を意味するかを見極めるためです。

字幕における制約・特徴には以下のようなものがあります。

◇字数制限
字幕で表示できる文字数は基本的に「1秒あたり4文字」。

◇口調
それぞれの作品や登場人物のキャラクターにあった口調にする。日本語特有の、敬語・丁寧語なども使い分ける。

◇字面
目で見る情報なので視覚的にも分かりやすくする。漢字だらけやひらがなだらけなど、読みづらい字面は避ける。

表記ルール
漢字・ひらがなどちらで記載するかなどのルール。放送禁止用語や差別用語など、使用できない表現もある。

 字数制限が非常に厳しいため、ほぼ常に文字数との闘いになります。各字幕の文字数はセリフを読む時間の長さによって決まるので、特に早口な場面だと特に圧倒的に字数が足りないといった事態が発生します。

しかし、字数を削ることだけを考えると日本語が不自然になってしまいがちです。例えば、無理やり助詞を抜いたら言葉足らずな印象になるし、熟語をやたらに使うと漢字だらけで読みにくくなる上に堅い印象になってしまいます。とはいえ字数オーバーで読み切れないのは本末転倒なので、前提として字数は必ず守らなければいけません(場合によって数文字オーバーすることはある)。

一方で、自然でわかりやすいだけではなく、さらに作品やキャラクターに合った訳をつけなければいけません。

そこで、できるだけ原文の情報を落とさず、日本語にする力が必要になります。そのまま日本語訳にしようとするとほぼ確実に文字数オーバーになるので、文字数に合う別の表現に言い換えたり、情報の取捨選択をする必要があります。

しかし、そもそも原文の意図するところの本質を理解していなければ、正しく言い換えたり情報を取捨選択できません。本当に削ってもよい情報か、その表現に言い換えられるかを判断するためには、前後の繋がりや流れを加味しつつ情報を正しく優先順位づけする必要があります。

そして、正しく優先順位をつけるためには、そのセリフの本質的な役割を把握しなければなりません。そこで、原文を解釈する段階で「つまりどういうこと?」と、一つ一つのセリフを深堀りするようになりました。

そうすることで、ただ英語を日本語にする=「置き換え」や「直訳」ではなく、「翻訳」になるのだと思います。言葉(原文)のニュアンスを読み取ること、そしてニュアンスにあった表現(翻訳)を見つけることが大切だと思いました。

一つの具体例ですが、実生活でもこの力が役立ったと感じたことがあります。それは、友人の結婚式でのスピーチです。

翻訳を通じて培った「つまりどういうこと?」と考える力、ニュアンスにあった言葉を丁寧に探す力、そしてわかりやすい日本語を考える力が、その友人の持つ良い面を言語化するのに役立ったと感じています。

 他にも、物事の本質を捉えることにも繋がると思います。また、自分の考えや思いを人に伝える(=思考を言語化する)時にも役立つ能力なのではないかと思います。


作品解釈力


作品解釈とは、物語の構成や作り手(=監督や脚本家)の意図を正しく理解することです。

作り手の視点に立った字幕を作成するためには、作品の全体像を把握し、かつそれぞれのシーンが持つ意味を正しく理解する必要があります。

そのためには、物語の構成を理解した上で、主人公がその物語で達成したい目的は何か、どこが転機となるか、どこがクライマックスかなどを見極める必要があります。

翻訳学校の授業で作品解釈の基本的な知識を得て、実務でもこの点を意識することで、作品解釈力がついたと思います。


英語力

次に、間接的にではありますが、多少英語力が上がりました。

これは翻訳の勉強しているときにはあまり感じなかったことでした。というのも、当時は「翻訳」そのものを学ぶことを優先しており、あまり英語に特化した勉強をしていなかったためです。ですが、実際に字幕を作るようになると、課題と比べ物にならないくらいの量の英語に触れることに・・。そこで、量が増えたからこそより解釈にかける時間を短縮する必要性を感じるようになり、英語力底上げのモチベーションができました(英語に触れる量が増えたから伸びたというわけではありませんでした)。

会社員の仕事でも、メールや会議で日々英語を使っていましたが、出てくる単語や専門知識は限られているので、あまり困ることはありませんでした。しかし、翻訳ではいつどんな依頼が来るかわからないので、いろいろなジャンル(バラエティ、スポーツ、ドラマ、ドキュメンタリー、ニュース、ビジネス、IT系など)の英語に対応できる必要がありました。そこで、英語の基礎を再度鍛えようと英語学習雑誌の購読と、英語での読書を毎日行うことにしました。毎日生のニュース英語を聞き、読み、音読することで徐々にですが、基礎力UPに繋がりました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回、「映像翻訳について思うこと④なぜ距離を置こうと思ったか」に続きます。

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