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本好きなのに本が嫌いになりそう:『この本を盗む者は』感想

「ああ、読まなければよかった!これだから本は嫌いなのに!」

…と言った本嫌いの深冬と同じように、本好きの私は別の意味でそう思った。どんどん深みにハマって、本に吸い込まれるような感覚になる。読み終わった後には、本が好きすぎて辛い。このまま嫌いになれたらいいのに、とすら思う。本がない生活なんて考えられない。そんな気持ちにさせられた。

===あらすじ===

本の魔力と魅力を詰め込んだ、空想の宝箱!
「ああ、読まなければよかった! これだから本は嫌いなのに!」

書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。

“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。
(Amazon.co.jpより)


読書アカウントでよくお話する人が読んでて、気になってた。noteで読書感想コンテストもあるということで、そろそろ読んでみようということで、手に取った。

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読後は、本の世界か現実か分からないようなふわふわしたところにいた。ファンタジーが苦手だけど、物語の中でも本の世界に入り込んでいく話だから抵抗なく読めた。

私が本を読む時の頭の中って、この物語みたいになっている。自分も一緒に登場人物たちと動き、怒ったり、喜んだり、悲しくなったりする。夢の中で自分を第三者目線で見ている感じ。ソファに座ってジッとしてるはずなのに、なぜか風が吹いて、めまぐるしく周りが回って、匂いまで感じることができる。文字が動いて、走ってるみたい。

本嫌いな高校生の深冬。本が盗まれて、「この本を盗むものはー」から本の世界に入り込んでいく。真白(ましろ)という少女と一緒に、泥棒を捕まえる。ただそれだけじゃなくて、なぜ本の呪いがあるのか、これを解く方法は?そこから見えてくる、深冬家族たちの真実。

物語のさらに物語の中に入るって、何とも不思議な感じ。本棚から物語に呼ばれるような気がする。私の場合はミステリーが好きやから、殺人現場に行くとか、犯人と行動を共にするのは嫌やな。

面白かったのは本の世界に入り込んでも、自分が住む街と人がそのまま出てくるところ。

優しく穏やかな近所の老婦人がショットガンをジャキっと鳴らして、アーノルド・シュワルツネッガーみたいに銃を撃ちまくったり、学校の野暮ったい体育教師がキザな探偵だったり…自分が主人公でも絶対笑ってしまうだろうな。真珠の雨のシーンは、私ならマシュマロを降らしたいな(単に自分が食べたいだけ)。でもそれが降ったとしたら、ベタベタになりそう。

読みながら、色んな映画が頭に浮かび上がってくる。ジブリの『千と千尋の神隠し』のようなファンタジー、ゾンビの世界のような街、『アベンジャーズ:エンドゲーム』のような展開、王道のハードボイルドな物語。真白の存在は『インサイドアウト』を思い出す。

本の装丁も好き。本の階段に導かれていく深冬。その周りには深冬が住む読長町があって、真白が彼女の背中を見つめる。物語の中に出てきた、獣や狐も登場してる。この物語に登場するような「書物の街」があったら住みたい。行ってみたい。

私はこれを読んで、ますます本が好きになった。人によって本を読む理由は様々やけど、本は私の知らない世界を見せてくれて、自分の無意識の中に眠ってる想像力や好奇心を引き出してくる。

 もっと読みたい。
 もっと知りたい。
 もっと自分の考えてることを意識して大事にしたい。

個人的に、そんな欲求と情熱が掻き立てられる本だった。



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