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黒いホワイトシチューを作る女と、しょっぱいエビチリを完食する男。

「肉じゃがを美味しく作れたら、モテる」。

そんな記事をどこで見つけたのか、肉じゃがだけを必死に練習したことがあります。あれは確か、高3の夏。

努力の末に、肉じゃがは上手に作れるようになりました。でも、それ以外の料理、掃除、洗濯など、いわゆる「家庭的なサムシング」に対する知識と能力がズッポリ抜けている女。

それが、何を隠そう、この私です。

実家で暮らしていた頃は、すべてを母にお任せしていました。(ママ、本当にありがとう!!)なので、社会人になって一人暮らしを始めて、生活することの大変さにびっくり仰天。

でも、一番びっくり仰天していたのは、生活戦闘力0(ぜろ)の私を間近で見ていた、当時の彼かもしれません。


おふとん事件。

初めての一人暮らしに選んだのは、横浜の高台にあるアパートでした。当時勤めていた会社から自転車で通える場所に、当時のお給料で許される範囲で借りた、小さな、小さな部屋。

南向きで、陽当たり良好だった・・・はず。平日は夜遅く帰って、週末も仕事やバンドに忙しい時期だったので、ほとんど家にはいなかった。いま思い出すのは、頼りない間接照明に照らされた、薄暗い部屋のイメージだけです。

そんな生活でも、初めて手に入れた自分の"城"ですから。オシャレに仕上げておきたいわけです。で、どうも邪魔だなぁと思ったのが、お布団。季節が夏に変わり、使わない毛布や布団をどこかに隠したい。でも、棚はすでにパンパンだし・・・。

そうだ!ベランダがあるじゃん!
さっそくゴミ袋をばさばさと広げて、毛布と布団をぎゅうぎゅう詰めて、ベランダへ。

「・・・雨降ったらどうするの?」と、彼。まるで化け物に遭遇したかのような顔で、「え?本当にそこに置こうと思ったの?カビるよ?」

そういうことに気付けないのが、生活戦闘力0の女なのです。


5000円のお弁当。

一人暮らしは何かと物入り。そうだ、毎日のランチ代を節約しよう!そう思い立った私は、初めてのお弁当作りに挑戦します。

横浜駅の東急ハンズで、可愛いお弁当箱とお箸、包みを買って。その足でスーパーに寄ると、今度はお弁当のおかずになる食材を山盛り購入!1万円くらい使っちゃったけど、毎日お弁当作るなら、お得よね♪

初日。張り切って早起きして、立派なお弁当を作って意気揚々と出勤しました。同僚にお弁当を見せて「これから私はお弁当生活だから。一緒にランチに行きたかったら、早めに誘ってよね」なんつって。

二日目。寝坊。お弁当箱に白米と梅干を慌てて詰めて、コンビニでチキンとサラダを購入。「これ、お弁当って言わないよ」と、同僚に呆れられる。

三日目。洗い損ねたお弁当箱を前に、戦意喪失。

その後は、お弁当用に買った食材が冷蔵庫の中でじわじわと萎れて、朽ち果て・・・。「1食、5000円。高級弁当だね」という彼の言葉と共に、私のお弁当プロジェクトは静かに幕を閉じました。


料理初心者の、ラムチョップ。

あれは彼のバースデーだったか、バレンタインだったか。すでに記憶がないのですが、何かのイベントで、彼にディナーを作ってあげることになったのでしょう。

そこで私が選んだメニューは、他でもない、ラムチョップ。

料理初心者が選んでいいメニューではないけれど、なんとなく、響きがオシャレだし。食べたことあるし。誰かが作れるなら、自分も作れるはず!という謎のポジティブさで、Let's Cook。

「チョップ」の意味がちょっとよくわからなくて、包丁で肉の部分をちょんちょんしてみる。お店に置いてあったラード的なものをフライパンにぬりぬりして、ラム肉をドサッと投入。

「肉料理といえばフランベでしょ」と、赤ワインを入れたものの・・・。ビビッて火をつけることができず、そのまま微量の赤ワインで薄っすら煮込む形になりました。

完成したラムチョップは、堅くて、臭かったです。


新居、悪臭事件。

横浜での一人暮らし生活から2年も経たずに、私は神戸に転勤となりました。そこで住んだのは、コンクリート打ちっぱなしのオシャレな新築マンション。生活環境としては、相当なレベルアップです。

でも、生活戦闘力はそう簡単には上がりません。

ステキマンションで暮らしてしばらく経った頃、キッチンから漂う変な匂いに気付きます。最初はムム?なんか臭いか?程度だったのが、ある日を境に悪臭がどんどんパワーアップしていく。

「なんなの?!くさっ!こわっ!」

臭い物に蓋とは、まさにこのこと。原因追求は特にせず、ファブリーズをシュッ!シュッ!と吹き散らし、あとはなるべくキッチンに近づかない(キッチンを通過するときは鼻を塞ぐ)という日々。

すると不思議なもので、1週間もすると悪臭が弱くなっていきました。「なんだったんだろうか。ま、臭くないならいっか」。

そんな悪臭事件の存在を忘れた頃に、原因が判明します。久しぶりに料理でも作ろうかと思って、食材を保管する棚に手を伸ばすと・・・。

怪しいビニール袋、発見。

わずかに漂う、懐かしいあの悪臭。

恐る恐る、袋を開けて中を覗いてみると・・・。

そこには、カサカサのタマネギの皮と、サラサラの黒い液体が。タマネギの可食部分が消えてなくなっていたので、きっと腐って、発酵して、溶けたのだと思われます。

「タマネギって、いずれ液体になるんだね」とは、彼の感想。ちなみにこのタマネギは、横浜から神戸に持ってきたものでした。


しょっぱいエビチリ。

運命か、それとも偶然か。私の神戸転勤とほぼ同じタイミングで、彼も神戸で働くことになりました。

タマネギを液体化させたキッチンで申し訳ないけど、たまには家で料理でも作るよ!と、彼を手作りディナーにお誘いすることに。

そこで私が選んだメニューは、他でもない、エビチリ。

料理初心者が選んでいいメニューではないけれど、なんとなく、響きがカッコいいし。食べたことあるし。誰かが作れるなら、自分も作れるはず!という謎のポジティブさで、Let's Cook。

エビのカラ剥きと綿取りに、異様なほど時間がかかる。それにしても、初めて買ってみたよ、片栗粉。料理本を見ながら、さりげなく自分流のアレンジも加えて、見た目はそれっぽいものが完成しました。

いざ実食!すると、どうでしょう。

ものすごーーく、しょっぱい。

敗因は明らかに塩ですね。塩の分量をきちんと計らなかった。そればかりか、美味しく作りたい一心で、好き勝手なタイミングでざらざらと塩をふり入れてしまったのです。

ちょっと病気になりそうなしょっぱさだったので、私は食べるのを止めたのですが。彼はエビチリを完食した上で、「うん。ちょっとしょっぱいね」。

優しい人だな、と思いました。


黒いホワイトシチュー。

料理初心者なのに、ラムチョップやらエビチリやら、難易度の高いものばかりに手を出してきた私。

さすがに反省して、簡単な料理で名誉を挽回しようと目論みます。市販のルーを使う料理なら、誰でも作れるっしょ。

そして完成したのが、黒いホワイトシチューです。

なぜ黒くなったか?どうか、聞かないでください。作った私にだって、わからない。黒くしようと思って黒くしたわけではないのです。

彼は完成品を見て一瞬ギョッとしていましたが、「うん。味はちゃんとホワイトシチューだよ。不思議だね」と、褒めてくれました。


🍴🍴🍴🍴🍴🍴


その後、黒いホワイトシチューを作る女と、しょっぱいエビチリを完食する男は結婚し、今年で10年目を迎えました。

私の生活戦闘力は・・・。どうでしょう。大して変わってないような気もします。肉じゃがを作ろうと思えば作れるのだけれど、私のじゃじゃ馬な料理魂は冒険を求めてしまうのです。

特に、アメリカに住んでいる現在は、エキセントリックな食材にアクセス抜群!見たことも聞いたこともない魚、お化けのような巨大キノコ、思っていたのと全然違う仕上がりの謎料理が、ときどき我が家の食卓を彩ります。

でも彼は、私の料理にギョッ!とすることはあっても、必ず食べてくれます。しょっぱくても、甘くても。食べられる部分を、食べられるだけ。

まさか「家庭的な女と結婚したぜ!」とは、思っていないだろうし。たまにエキセントリックな一皿が登場するくらい、別に気にしないでしょう。

おいしいは、たのしい。

たのしいは、おいしい?

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