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■第三言語革命

自分が聞いたことがないだけかもしれないが、まだ誰もこういうことをいっていないようなので、一つの大きな話しをしてみたい。もちろん自分は専門家ではないが、ぎゃくに誰なら専門家を名乗れるというのだろう? これは自分なりのコンシリエンス/帰納統合の結果である。骨子は5年くらい前に考えた内容だが、ここへ来て「いよいよ感」が高まっている。 このAIで起きている「変化」は、人類の第三の言語革命の一つの章なのではないか、ということ。しかももっともコアな一章だ。「言語」と人の関係が深いことは言うまでもないが、こんなふうに考えている。

言語という技術

はじめに、「言語」というのは、人の手にしたとても大きな「技術」と考えられる。人にとって最大級の発明品といってもいい。それは偶然に手に入れたものだが、それを習得していると爆発的に「いいこと」があった。
言語という技術は、人の全歴史(20万年)の約半分ほどの時間(10万年)、人と随行している。もちろん出来事的には人が言語を作った(創発した?)のだが、時間軸全体のなかでみると、言語が人を作ったといった方がいいのではとも思う。20万年前に生まれたばかりの人と現代の我々は、ハードウェアとしては互換性があるかもしれないが、生きている内容や状況は大きくちがう。その大きな「差」を作ったのは言語である。言語は動物と人を隔てる高い高い壁だ。いっそ、人は言語である、といってしまってもいいくらい。

言語革命

話し言葉と書き言葉

言語という技術そのものが革命だった(言語革命、認知革命:ハラリら)わけだが、そのなかには「話し言葉」と「書き言葉(文字)」という、やはり革命と呼べるような二つの段階があった。それらの変節点の前後で人自体が大きく変わった(オング)。

〈動物〉の時代

20万年前に人=ホモ・サピエンスが興ったときは、言語を持たない時代で、サピエンスはとても賢かったけれど、まだ「賢い動物」というレベルにすぎなかった。
だいたい10万年くらい前に「話し言葉」という形で言語を獲得した。はじめの会話は「うわさ話」のようなもので、仲間同士の親密度を高める効果があった。これは猿の仲間同士でおこなうグルーミングのような効果を持つものだったという(ダンバー)。
この第一の言語革命以前の、無言語の時代/前言語時代は、だいたいは動物と同じような精神活動をしていたのだろう。それは動物的な〈感覚〉の支配する時代だ。動物なりの合理的な〈思考〉も多少はあったのだろうが、〈感覚〉:右脳の支配する、そんな心を我々も持っていた。

〈二分心〉の時代

その革命後の時代を、名付け・説明するような学説を自分は知らないのだが、ジュリアン・ジェインズという動物心理学者が〈二分心〉の時代という魅力的な時代仮説を打ち出している。
言葉によって〈思考〉は劇的に飛躍したにちがいない。言葉によって今ここにないモノやコトを指し示すことができるようになった(「言語の志向性」)。〈二分心〉の時代を手短にいえば、役割としての右脳と左脳、あるいは〈感覚〉と(合理的な)〈思考〉があることは現代と変わらないが、その関係は右脳/〈感覚〉が優位を占めていて、左脳/〈思考〉は完全に右脳の忠実な僕だった。〈感覚〉の命ずるところを実現する「ために」〈思考〉は使われた。〈思考〉にはまだ自治権が与えられていなかった。
(「右脳/左脳」については実際の部位というより、機能的比喩と捉えてほしい。)

〈意識〉の時代

その後、だいたい6000年前に人は文字という技術を獲得した。これによって右脳左脳の役割のバランスが変わった。それが第二の言語革命である。文字によって合理的な〈思考〉は飛躍的に強化され、その結果として生まれたものこそが、われわれの「この」〈意識〉であるという(ジェインズ)。合理的な〈思考〉がヒトを支配し〈感覚〉はやや後退した。確かに合理的な〈思考〉により、哲学も科学も成立し、そういった土台の上でビルが建ちロケットは月にまで到達する。そしてそういう科学技術の進展の末に、〈思考〉や知識を扱う技術が、20世紀の前半に生まれた。〈意識〉は、哲学や科学のベースにあるものであるが、〈意識〉が実際に「文字」の効果として生まれたのが3000年前であったとジェインズは特定する。
現代のわれわれはこの〈意識〉の時代にいる。そして、いたことになるのかもしれない。

第三の言語革命を超えて/新しい時代

ここからは自分の妄想。
20世紀から21世紀にかけてコンピュータという「技術」が出現した。はじめは計算機としてやがて情報機器として。この情報を扱う技術全体を、第三の言語の革命と自分は捉えたい。言語が扱っているものは、話し言葉にせよ書き言葉にせよ、それは「事実の移し絵」としての「情報」である。情報もまた「言葉」である。
第一言語革命/話し言葉では、とにかくある精度で人に「情報」を伝えることができるようになった。第二の言語革命では、それを記録/蓄積し空間も時間も越えて遠くへ情報を運ぶことができた。でもいったん書かれた言葉は、そのまま固定されている。
第三の言語革命では、情報/言葉を無尽蔵に朽ちることなく蓄え/書き換え、世界中へ瞬時に伝えることができるようになった。また情報を「操作/計算/処理」することができた。これは「情報を操作するための情報(プログラミング)」による効果と考えられる。そして今、情報を操作するための情報を「自律」させようとしている。AIとはそのようなものなのではないか。

  • 声とは、空気の振動

  • 文字とは、紙のしみ/粘土板のへこみ 現代の言葉は、操作変容可能・光速移動可能な電気の印

今起きているこのAIによる変革は、AIやChatGPTというだけで考えるべきではないと思う。もっと大きなコンピュータ技術というか情報にかんする技術(これにはいずれ適切な名前も与えられるだろう)による、第三の言語革命というロケットの、最終段階のロケットエンジンがAIであり、いまそのエンジンに点火されたのだと思う。その大きな推進力の起こす「G」が、今我々が感じている「強い力」である。マイクロチップもインターネットやWebもSNSも、必要な何段目かのロケットエンジンだったのだろう。
一人の人間にとっては約一生分の長い時間かもしれないが、コンピュータという技術が出現してまだ100年も経過していない。それはほんの一瞬のできごとである。
第三言語革命によってどういう世界に突入するのか、今はまだまったくわからない。
動物が人の豊かな「心」を想像できないように、前の時代にいるあいだには、次の時代をリアルに想像することはできないのである。

状態1:無言語の時代、動物の時代/動物的な〈感覚〉の時代
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技術1:話し言葉(アバウト10万年前)、第一言語革命
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状態2:〈二分心〉の時代、言葉によって左脳の働きが生まれたが、右脳優位の時代
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技術2:書き言葉(6000年前)の発明、第二言語革命 → 状態3:〈意識〉の時代、〈意識〉の誕生(3000年前)
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技術3:コンピュータ・ネットワーク/情報機器(紀元2000年頃)、第三言語革命
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状態4:???

ハラリ:ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」など
ダンバー:ロビン・ダンバー「ことばの起源」
オング:W-J. オング「声の文化と文字の文化」
ジェインズ:ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙」

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