見出し画像

世界はこんなにもVR/AR化していた!SIGGRAPH2018からみる仮想現実動向。

Heyo! インタラクティブモーションデザイナーの小川です。先日カナダのバンクーバーにて開催された SIGGRAPH2018 に行ってきました。海外での大規模カンファレンスに参加するのは初めてだったので、期待と不安が入り混じった心境でしたが、とても有意義で刺激的な時間を過ごすことができましたので、まとめてみたいと思います。

SIGGRAPHとは

SIGGRAPHとは、世界最大かつ最も長い歴史をもつコンピューターグラフィックスのカンファレンスです(開始は1973年だそうです)。期間中、CGに関連する学術研究の発表や、製品、サービスの発表が行われます。また、CG映像の祭典としての側面もあり、学生、インディーズスタジオ、大手スタジオが入り混じって優秀作品の発表が行われます。これまでの開催地は、アメリカのロサンゼルスや、アナハイムなどでしたが、今年はバンクーバーでの開催。今年の冬には東京での開催も予定されています。

行く前の印象として、SIGGRAPHはコンピューターグラフィックスの論文発表の場としての印象が強かったので、複雑な数式を理解できないことへの不安がありましたが、大小様々な部屋で VR/AR/MR、アニメーション、ゲーム、アート、画像処理など、それらに関連する技術周辺のセッションや、展示など内容が盛りだくさんなため、不安に感じる間もなく5日間が過ぎていきました。

世界中の学生の論文がポスターとして掲載されている場所があり、セッションの合間の空き時間に様々な論文を読んだり、パビリオンでVRの展示を見たりするのもとても楽しい体験でした。日本の大学の論文ポスターも数多く展示されているのも印象的でした。

あらかじめSIGGRAPHのアプリにて、興味のあるセッションにあたりをつけて行くのですが、始まったセッションが興味のないものだった場合、すぐに別のセッションに移るということがあたり前のように行われていました。数日色々なセッションに出ると、部屋の大きさで、そのセッションのおおよその人気レベルが想像できるようになります。チケット代は高額なので、のんびりしている暇はありません。

セッションによっては、写真やビデオによる撮影・録画が推奨されているものもあれば、Pixarなど版権が関わるセッションは禁止されているものもありました。

VR開発のプラットフォームとしてのUnity

全体的にVRに関連するセッションや展示が多い印象を受けました。その中で、UnityがVR開発のプラットフォームとしての役割を果たしているのが印象的でした。今までは、三次元空間内にオブジェクトを配置して動かすためにOpenGLなどでそれぞれが独自の実装をしていたところを、開発環境をUnityに揃えることで主題の解決に注力でき、成果物を共有しやすいところが大きなメリットになっていると感じました。会社から大学の研究室まで幅広くUnityを使用したVRが開発されていました。

世界はこんなにもVR/AR化していた!

VRに関連するセッションでは、VR空間内でオニオンスキンを使って連番の絵を描き、カメラの配置を決めて、アニメーションを作る AnimVR や、演者やカメラをVR空間内で配置し、演者の動きをつけたり、カメラをレールに沿って動かして映画のラフを作ってしまうVirtual Cinematographyなど、VR空間内で作って完結させようとする試みが印象的でした。

その他にも、自分の身体や手をVoxelとしてVR空間内に合成するIMVERSEという技術や、ゲーム内のキャラクターのリアクションをプロシージャルに作り出すことによって人に近い無限のリアクションを作りだし、没入感を高めた技術の発表などがありました。

VRに関連する課題の解決や体験の拡張、可能性に関する取り組みがそこにはあり、商業的には死んだとか第二次VRブームとか言われていても、開発は日々着実に行われているということを感じました。また、Facebookによる眼球運動の研究や、視界周辺のみ綺麗に描画するフォービエイテッド・レンダリングの技術は、そこまでやるのか!と驚きを感じずにはいられませんでした。期間中よく目にした「Immersive」という没入感を意味する言葉がありますが、この没入感を作り上げるために、世界中で様々な角度から研究がなされているのを感じました。


モーションキャプチャとiPhoneXの表情認識を組み合わせたアバター技術?もRealTimeLive!のセッションで発表されていましたが、お腹抱えて笑いました。表情が出せるので、VTuberにも使えそうですよね。仮想空間万歳という感じです。

VRに比べるとARのセッションや展示は少なく感じましたが、2011年から開発が続けられているというパブリックな壁面をARのカンバスとして使ったHEAVYプロジェクトは、色々なものに転用できそうで面白い試みだと思いました。開発環境は Unity+Vuforia だそうです。

王としてのPixarのセッション

仮想現実の技術を色々と見ましたが、「創造」という点で個人的に一番印象的だったのはPixarのセッションでした。Pixarはレンダリング用ソフトのRenderManと共に複数のセッションを担当していましたが、どのセッションのプレゼンテーションも見事で、夢を与える会社としてのこだわりを強く感じるものでした。2017年発表の映画「COCO(邦題:リメンバー・ミー)」における、スカートのヒダに関する物理エンジンの開発や、「インクレディブル・ファミリー」の洋服のしわの作りかた、アクションシーンの構成に関する三次元空間内でのトライ&エラーについて、どれもに強いこだわりを感じました。映画「COCO」の駅舎の3Dシーンについて、駅のホームからカメラが引いて街の一つ一つ細部にわたるまでが丹念作りこまれているのを見たときには狂気さえ覚えました。(登壇している人もクレイジーって言ってました。)Pixar は ”Story is King” をうたっていますが、創造を支える技術もまた King に相応しいものを感じました。

Electronic Theaterについて

Electronic TheaterというCG映像のフェスティバルが大規模ホールで行われます。毎年SIGGRAPHの目玉となっている催し物で、様々なCG映像の中から選ばれた作品の発表になります。技術はもちろんのこと、DreamWorks とPixarのストーリー構成力は群を抜いていると思いましたが、中国とロスにスタジオを構える TAIKO Studio の作品「ONE SMALL STEP」も感動的なものでした。

英語について

参加する前に不安だったことの一つに英語がありました。連続して英語でのセッションを受けるのは初めてだったため、集中力がもつか、内容が理解できるか、理解できなければ参加する意味がないのではないかと思っていました。
実際、セッションの内容に興味があり、前提知識がある内容については、8割程度の理解。前提知識が無い内容については、3割程度の理解だったと思います。それ以下の理解レベルになるセッションは途中退席し、別のセッションに移動しました。どのセッションにも用意されていたスライドには非常に助けられました。
また、SIGGRAPH参加者の交流の時間として、レセプションの時間が月曜の20時から22時の間であり、食事やビールが振る舞われるのですが、その時間で英語圏の参加者に、自分がこういうことをしている人間であるという説明が充分にできないもどかしさを感じました。リスニング力に合わせて会話力がないとちょっと淋しい思いをしますね。

バンクーバーの街について

8月の気候は、太陽が照りつけるとやや暑く感じますが、日本の夏に比べると気温も低く、湿度がないためカラッとしてとても過ごしやすく感じました。日本から来た大学生は唇がカサカサになると言っていました。物価はやや高めです。後ほど安い店も見つけましたが、着いた初日に薬局で買ったペットボトル(500ml)の水が3ドルもしたのには驚きました。カナダはお酒に厳しく、スーパーやコンビニで気軽に買えない上に、公共の場で飲むのは違法だそうです。購入するためにはリカーショップまで赴く必要がありますし、IDの提示を求められます(求められない時もあります)。お酒だけは日本より少し安めでした(500mlのビールが2ドル程度)。
治安は全体的に悪くない印象を受けましたが、ビルの路地には明らかに入ってはいけない空気が漂っていて、何か悪そうな注射をしている人がいたりします。それ以外は穏やかな観光地という感じです。今回はカンファレンス参加が目的だったので行ってはいませんが、スタンレー・パーク等に行くとより雄大なカナダを満喫できるのではと思いました。

初めての参加でしたが、3日目から睡眠することができなくなるくらい、トップレベルの技術と創造が交差するエネルギッシュな空間に圧倒されていました。2019年は、7月末にロスで開催されるそうです。フェンリルからもぜひ何か出展できたらいいなと思いました。では!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?