![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80015406/rectangle_large_type_2_6d2790b86505145f21c17698199bfc2c.png?width=1200)
エッセイのご紹介408 真夜中の演奏会(小黒恵子著)
こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。
今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、神奈川新聞のサンデーブレイクに掲載されたエッセイをご紹介いたします。
記念館には、自筆の原稿が残っており、ここでは、原稿の方をご紹介します。実際の記事は、校正を重ね、少し異なっています。
詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。
![](https://assets.st-note.com/img/1654392053021-WhNe0uXCyh.jpg?width=1200)
「真夜中の演奏会」
詩人・童謡作家 小黒恵子
八月の中旬から下旬にかけて、毎晩あぶら蟬の大合唱がはじまる。
むかし住宅地には街路灯がなく、家庭の灯りも淋しいものだった。従って月のない夜など、真っ暗闇だった。
晝と夜の明暗が、はっきりしていたものだ。
その頃蟬の真夜中の演奏会は全くなかった。
ところが今は街路灯が明かるく、各家庭からもれる灯りで真夜中も明るい。
そこで蟬は、短い生命を惜し気もなく燃焼して、晝も夜も鳴いている。
七年も八年も地中生活を送り漸く明るい地上に出て、約一週間の生命と言う蟬。夜まで鳴いていたら、生命が縮むのではないかと思い、わが家の四つの外灯を消すことにした。
その結果、効果はてきめんだった。然し街路灯や各家庭の灯りが明るいので、蟬は移動して鳴いてはいるが、確実に夜の演奏会は半減したようだ。
過日取材で、ある新聞社の若い記者と庭に出た時、欅の大木に忍者のように、蟬がびっしりと止っていた。
私は、パッと素手で、蟬を捕った。
ジージーと悲鳴をあげる蟬を、すぐ放してやったが、若い記者は驚き且、あきれていた。
瞬間の出来事に、野生育ちがバレて了ったが、手の平をくすぐるあの感觸が、少女の頃を思い出させた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回も、小黒恵子の神奈川新聞のサンデーブレイク原稿をご紹介します。(S)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?