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コロナ禍で変わる価値観と変わらぬ欲望

こんにちは。エネルギー・文化研究所長の金澤成子です。
エネルギー・文化研究所が発行する情報誌「CEL」の『未来ブラリ』(執筆:山本貴代氏 ※1)は、コロナ禍にスタートした連載ですが、女性たちの本音を探り、新たな課題を発見するため、様々な調査を実施し、その課題と未来についての考察を紹介してきました。情報誌「CEL」134号(2024年3月1日発行)で最終となる第9回「未来ブラリ」から抜粋し、コロナ禍後の女性の価値観や欲望の変化について、ご報告させて頂きます。
 
※1 女の欲望ラボ代表・女性生活アナリスト。専門は、女性の意識行動研究。独自の「メール文通法」により、20代~70代女子、シニア男子の本音を探り続ける。アジア15カ国の亜女子ラボも活動中、SNSを駆使し随時情報収集。

1.コロナ禍でも欲望はむしろ先送りにしない?

生活様式や働き方など、さまざまなことに大きな変化をもたらしたコロナ禍が落ち着いて、アフターコロナの社会となった昨今。すべてがコロナ前に戻ったという人は少ないのではないでしょうか。40~70代の女性114人を対象に調査(2023年10~11月実施)したアンケート結果では、コロナ禍前よりも増えた欲望ベスト3は、「健康でいたい」が最も高く72・8%、次に「住まいを快適にしたい」(69・3%)、そして「旅へ行きたい」(65・8%)でした。公私ともに在宅時間が多かったことから、住まいに求めるものが変わり、「断捨離」をしたり「地球に優しい暮らし」を心がけたりと、随分意識が変化したようですが、自由に出かけられなかったことから、「動けるうちに色々経験したい」という欲が増大したということも共感できます。また、自由回答では、「人はあっけなく最期を迎えるとつくづく感じたので、自分に正直に生きたい」、「時間を無駄にしたくない。今やりたいことはできるだけやりたい」といった、コロナで見えない明日を経験したことから、欲望を先送りにはしないという傾向も見られました。「人生は有限だ」という意識が強まる中、「社会貢献や地球環境に良い行動をするエシカルな意識(欲)が増えた」、「真実を知りたい。真剣に世の中を良くしたい」と自分欲より社会に対する意識の高まりも見られました。「人と過ごしたい」「大切な人々との繋がりを深めたい」という気持ちが増える一方、「少人数の仲間で美味しいものを食べたい」「行動の制限で無駄な付き合いがなくなった」など人間関係の断捨離をした人も多かったようです。家族といつもいたことから解放されたくて、「1人でのんびりしたい」「自宅での1人時間が欲しい」などひとり願望もありました。ちなみに、減った欲望のベスト3は、「買い物したい」、「外食をしたい」(24・6%)、「おしゃれしたい」(18・4%)でした。増えた欲望に比べると減った欲望はまちまちです。コロナ禍で、自分基準を重要視し、自分の中での優先順位を考え、欲望の見直しが進んだのではないかと思われます。

イラスト:ちばえん

2.コロナ禍は行動から価値観も変えたパンデミック

過去の「未来ブラリ」の連載でも、おしゃれ、食と人間関係、住まいに対する意識の変化を取り上げました。生活の制限があったコロナ禍ですが、同調査からは、そんな中でも楽しみを見出したりコロナ明けを目標にしたりと、個々さまざまな行動が見られました。ダイエットと運動不足解消でジムに通い始めた人、心を強くしたいとボクシングを始めた人、マスクをしている間にシミ取りやプチ整形をした人、保護猫や犬を飼い始めた人、密にならないからと登山グループに入会した人、オンライン句会に入った人、精神の安定を求め瞑想を始めた人、園芸にいそしむ人、田舎暮らしで養蜂に挑戦した人、洋裁を始めた人、ヘブライ語を学び始めた人、コーチングの資格をとった人、ひとり旅を楽しんだ人、髪型を変えた人、ウクレレを始めた人、読書の時間が増えた人などなど。「コロナを経て意識や価値観で変わったことはあるか」の問いには、「自分の人生をもっと大切にして楽しもうと思った」「やりたいことは躊躇せずにチャレンジしたい」「欲望は大事だ」という声も。その中で、「所有欲がなくなった」「身の回りに不必要なものが多かったことに気づき、人間関係も含めシンプルな生き方がしたいという価値観に変わった」「人からどうみられるかより自分がどう快適かへと美意識が変わった」「つまらないこだわりをすぐに捨てられるようになった」「人それぞれコロナ感染や予防に対する意識が違うと知り、個々の意識を尊重しなければならないことを知った」など、欲望が厳選されて自分と他人との距離感などにも変化があったようです。コロナは単なるパンデミックには終わらず、人々の意識や価値観をも変えたようです。

3.コロナという経験がもたらしたもの

 生き方や価値観まで変えたコロナでしたが、同調査で、コロナは一言で表すと一体どんな存在だったのかを質問し、回答で上がってきたワードを縦軸は変化と停滞、横軸はポジティブとネガティブでグラフに配置してみました。コロナは「家族と向き合う時間」「在宅勤務の浸透」「発想の転換期」「既成概念を破壊した」「立ち止まって考えさせてくれた」「スリリングな退屈」「時間のプレゼント」「お一人様が過ごしやすい」とポジティブな意見もあれば、「恐怖」「子どもの時間をうばった」「政府の対応の遅れが露呈」「人生損した」「分厚い霧」「孤独」「制限の多い不便な日常」などネガティブな捉え方も見られました。出てきた言葉は多種多様で、いかに個人によって捉え方が違うか、価値観の多様化も垣間見ることができました。生き方について深く考える機会にもなったコロナという経験を、ネガティブ面だけでなくポジティブに、今後どう活かせるかで人生は大きく変わるのではないでしょうか。
 私自身も、コロナによって、自己と向き合う時間が増え、人目より自分基準をより重視し、変化をポジティブに捉え、積極的に関わったことで、新しいつながりを生み、価値観や生き方にも新たな優先順位や変化を生み出したように思います。コロナによらず、今後起こりうる変化にどう向き合い、どう充実させて生きるのか、心のあり様はとても重要と考えます。スティーブ・ジョブズの言葉にもあるように「人生に限界はない。行きたいところに行きなさい。望むところまで高峰を登りなさい。全てはあなたの心の中にある、すべてはあなたの手の中にあるのだから」。

イラスト:ちばえん

なお、今回の報告は、情報誌「CEL」134号の「未来ブラリ」でもご覧いただけます。過去の「未来ブラリ」も様々なテーマでレポートしていますので、ぜひご覧ください。

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