2021年末に、改めて「なぜ書店を始めたか」
私にとって、今年最大の出来事といえば「書店を始めた」ことで間違いない。
一年前は、まさか一年後に本屋をやっているなんて思いもしなかった。今年2021年の1月末ごろに「そうだ、本屋をやろう」と思い立ったのがきっかけだった。
5月24日に書店をオープンさせると「なぜ冒険家が書店を始めるのか?」という疑問を呼ぶらしく、物珍しさも手伝って、取材なども数多くしていただいた。
取材に限らず、日々の出会う人たちからも必ず聞かれるのは「なぜ書店を始めたの?」という質問だ。
もし私が「冒険家」ではなく、サラリーマンで「脱サラして書店を始めました」という話であれば、きっと多くの人は「そうですか、素晴らしいですね!」で話は終わるのだろうが、それがなぜか「冒険家」という肩書きが付くと「なぜ?」という疑問がもたげるらしい。
そうなのだ、サラリーマンが書店を始めても疑問が湧かないのに、冒険家が書店を始めると疑問が浮かぶのである。
きっと「冒険」と「読書」というものが、人々の中で物理的な位置としての遠さを潜在的に感じているからだろう。だからこそ、疑問に思う。
が、私は冒険と読書は極めて近い位置にいると思っている。それぞれ、自分の常識の枠を外れて、世界を新たな視座で眺める行為だ。規定された視座ではなく、2500年前のプラトンの視座も、今日発売の恋愛小説の視座も、本の中にはある。冒険も読書もそれぞれ、最終的に「自分の頭で考える」ということが大切になってくる。ショウペンハウエルが言うように、他人の頭で考える読書をし続ける限り、人は益々自分の頭で思索する力を失ってしまう。冒険は、他人の決めた、自分の外に立てられた基準に従うのではなく、自らの内側の基準による主体的な行為だ。
1月に「そうだ書店をやろう」と思い立った時、自分の内側には確固たる確信があった。書店で間違いない、という確信だ。しかし、その時の自分はまだその確信を言語化できる段階にはいなかった。取材や誰かとの対話を通して、疑問をぶつけられる度にそれに応えるために言語を尽くしていると、やがて自分の中で言語的な説明が整い始める。
改めて、なぜ自分が書店を始めようと思ったのか、年の瀬にまとめてみる。
①場作り
書店を始める前、もともと「冒険研究所」という名前で事務所を構えていた。20年の極地冒険で増えた装備を1箇所にまとめて保管しながら、事務所として使うためだ。
事務所としたのも、私の中では場作りが大きな目的だった。私自身、若い頃に北極の冒険を行うために色々な人のところに話を聞きに行き、アドバイスをもらいながら一人で試行錯誤してきた。若い頃の私のような人たちが、そうやって出入りできるサロン的な場を作り、出会いを誘発できるようにしたいという思いがあった。
「装備」「道具」というテーマで場作りをしようと思っていたが、一年ほど経ってみると「事務所という切り口では、人が気軽にやってくる体裁にはならない」ということに気付いた。ただの事務所では、見知らぬ人がフラリとは来る理由にならない。
どうしようか、と思っていた時に、そうだ、本屋にすればいいんだ、と気付いた。
②付近の文化拠点
事務所として使い始めて半年ほど経過した頃、コロナウイルスが蔓延し始めた。そして2020年3月には全国の小中学校に休校措置がとられた。
他の記事に説明は譲るが、冒険研究所を近所の行き場のない子達に開放し、学童保育に急には入れなかったり、近所で預かり先のない子達の待機場所とした。
事務所として使っているうちは出会わない、付近の小学生たちと毎日顔を合わせていると、やがてこの「桜ヶ丘駅」周辺に本屋がないことや、文化的な施設が乏しいことに気付いた。
「この子達は、どこで本を買うんだろう?どこで、見知らぬ世界と出会うんだろう?」
そんな疑問がやがて、私の中で「書店」を始めることに繋がってくる。
③新しいことを始めたい
私は極地冒険を初めて20年以上になる。22歳で始め、いま44歳だ。
若い頃は、情報も乏しく実際に行く人も限られる極地の世界を冒険するために、色々な人に会い、話を聞き、教えを受けてきた。
が、それも20年経つと、私よりも先輩で現役の活動をする人はほぼいなくなり、現在の極地冒険に私より詳しい人がいなくなってくる。
いつの間にか、自分の足元は確立され、私のところに冒険の相談にやってくる若者たちが増えてきた。
と、そんなある日「あれ???俺は最近、人に頭を下げて教えを乞うという場面に遭遇してないぞ」ということに気付いてしまう。
これは、かなりヤバい状況だと感じた。安定してしまうことの恐怖。誰も自分に対して苦言を呈することも、間違いを指摘することも、叱ることもできない状況だ。
途端に、自分の全く知らないことを始めたくなってきた。新しいことを始めないと、安定した狭い立場で増長してしまうという危機感があった。
そんな時、そうだ書店をやろう、という気持ちに繋がった。
④図書費が異常な金額に
今年、書店を始めるにあたって法人を作った。が、昨年までは個人事業主として毎年確定申告をしていた。
昨年末ごろ、確定申告のために私が購入した本の領収書を計算してみると、とんでもない金額になっていた。いや、とんでもない金額だった。
ヤバい、本の購入費が半端ないぞ、と思った時に、そうか、本屋にすれば好きな本を仕入れてそれを読めばいいんだ、という安易な気持ちが書店開設に繋がった。
⑤その他
と、実はまだまだ書店につながる理由はある、はずだ。ある、と心の中で理由が叫んでいる、が、まだ明確な言語として語る段階にはいない。
言葉は後からやってくる。言葉は尽くすが、言葉は本質に近付くだけで決して触れられない。
本当は、書店を開設して感じている「機能と祈り」に関して書こうと思っていたが、それはまた次回に。
冒険研究所書店、よろしくね!オンラインストアも動いてます。
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