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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を観て。10歳の僕とスコット・フィッツジェラルド。

はじめに。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は2008年のファンタジー・ドラマ映画。

F・スコット・フィッツジェラルドによる短編小説を元に『セブン』『ファイトクラブ』でもおなじみのデヴィッド・フィンチャーが監督し、ブラットピットが主演の作品です。

『ファイトクラブ』なんかはブラピ主演作品の中でもトップの人気作ですね。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の公開年が2008年。僕が10歳の頃の作品なのですが、この作品の事を頭の片隅に、おぼろげに覚えていながら、作品名をずっと忘れていたのです。当時、テレビで放送がされていていたのを観た記憶があります。そして昨日、netflixを漁っていた時に、この作品の名前を思い出したのです。

スコット・フィッツジェラルドについて。

僕はまず驚きました。この作品がスコット・フィッツジェラルドによる短編小説を元にしていたことにです。第一次世界大戦後の狂騒の、繁栄と幻滅を生きた世代。「ジャズ・エイジ」と呼ばれる1920年代の偉大な作家です。

代表作『グレート・ギャッツビー』はそんな世の中を描いた、20世紀最高のアメリカ文学です。僕も大好きな作品の一つです。

特に『グレート・ギャッビー』の冒頭は息を飲むほど素晴らしい冒頭です。ある日ふと、この冒頭だけを読むことがあります。

僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。
「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」

そこから始まる主人公ニックと物語の軸となるギャッツビーに起こる出来事。二人を取り囲む1920年代の狂騒のアメリカに潜む光と闇。そんな社会を匠な文体で描いた素晴らしい作品です。

ぼくの解釈じゃここまでなので、ぜひ気になった方は読んでみてください。解説とか書評も僕なんかよりずっと深くされているサイトもあるので。

10歳の僕から今の話。

「この作品ってスコット・フィッツジェラルド原作だったんだ!」と驚いて、一つ思ったのが、

幼少の頃観て印象に残っていた作品が、今好きな作家の作品だったという事実は、僕にとってとても感慨深いということです。

10歳の頃から今まで、自分の中で多くの変化はあったものの、根幹にある感受性みたいなものは、あまり変化していないのかなと思いました。そう思えることは自分の軸みたいなものが揺るがない、強く太い軸であるという自信に繋がります。

ベンジャミン・バトン 数奇な人生』に話を戻します。

この作品の感想を書きたいと思います。

*ネタバレがあるかもしれません

まず見終わって考えたことは、「この作品はどのような視点で観るべきなのか」ということです。そして、視点を変えて観てみると、かなり違った感想を持つのではと思うのです。

主人公のベンジャミンバトンは老人のような姿で生まれ、年を重ねるごとに若返っていきます。そんな数奇な人生の中で、多くの人と出会い、そして別れていきます。

ある人は真珠湾で戦死したアーティスト。ある人はドーバの海峡を遠泳し、途中で断念した人妻。ある人はダンサーを目指していたが、不慮の事故に合う恋人。ある人は会社が成功したもののどこか後悔が残る父親。

そんな数々の出会いと別れをベンジャミンは経験していくことになります。

僕が言いたい視点というのは、ベンジャミンという数奇な人生に視点を当てるのか、それともベンジャミンの目から見た世界に視点を当てるのか。言い換えるなら、「ベンジャミン」を僕たちが第三者視点から観るのか、それとも「僕(ベンジャミン)」という一人称視点で観るのかということです。

前者の視点で物語を観れば、この作品を「不条理な主人公の人生」と、捉えられる。とてもカフカ的と言える。

後者の視点で物語を観れば、この作品を「一人の主人公とその周りの人生」と捉えらる。それは「グレート・ギャッビー」に共通するものを持っている。
周りの登場人物は、僕たちから観ると人生の最もたる例のように思えますが、ベンジャミンという例外的な人生という一枚の特殊なフィルターを通した視点で僕たちも観てみると、そこには、違った側面が見えてきます。

また、テーマにもなっている「数奇な人生」とは、前者ならベンジャミン自身の人生に当てはまるし、後者ならベンジャミンを取り囲む登場人物の人生に当てはまると思うのです。

こうしたロジックで物語を描けるのは、やはりスコット・フィッツジェラルドが描いた物語の下地を上手く再構築したデヴィッド・フィンチャー監督の力なのではと思いました。

終わりに

ふとしたきっかけで、10歳の頃観て印象に残っていた作品をもう一度観ることができでよかったなと思います。

netflixでも観れるので気になった人はぜひ観てみてください。

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