荻野幸太郎

1980年生まれ。静岡県富士市出身。NPO法人うぐいすリボン理事。『静岡に学ぶ地域イノ…

荻野幸太郎

1980年生まれ。静岡県富士市出身。NPO法人うぐいすリボン理事。『静岡に学ぶ地域イノベーション』(中央経済社)、『公共ガバナンス論』(晃洋書房)、『縮小社会の文化創造』(思文閣)などで分担執筆。

最近の記事

東京都議会「不健全図書」名称変更の陳情とは何だったのか?

はじまり 2022年12月、東京都議会に、「不健全図書」の名称を変更するように求める陳情が提出された。  東京都では、ここ数年、ほぼ毎月BL系のマンガ作品ばかりが不健全図書として指定され続けており、自分の作品が指定された(特に若年の女性の)作家たちからは、「不健全図書」という禍々しい烙印を行政から押されたことが自分や家族にとって精神的に大きな苦痛になったという声や、指定が原因でインターネット上での嫌がらせを受けたなどの報告が聞かれるようになっていた。  陳情の趣旨は、そう

    • 公文書から滋賀県の有害図書指定(2023)を読み解く

       2023年(令和5年)5月19日の滋賀県の有害図書指定のラインナップについて、全国的に見てもかなり独特という指摘が、日本有数のウォッチャーであるHT_570さんなどから出ていたので、公文書を取り寄せてみた。    滋賀県は、2017年度に『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』というルポルタージュを有害指定したことがあり、さすがにこの手の研究本まで指定するのは行き過ぎなんじゃないかという声が各方面から上がったことがある。日本マンガ学会や図書館問題研究会などからも、この有害図

      • 私が「表現の自由」の仕事をするようになった理由

        もう10年以上前、東京都の「非実在青少年」条例が論争になっていた頃の話。  古い知り合いがやっていた不登校の子どもたちに勉強を教える教室が、NPO法人化するしないの話になって、その辺の制度に詳しい人間ということで私が呼ばれた。最終的に法人化は見送りになるのだけど、昔のよしみで色々と事務とか助成金に関することを頼まれてしまい、そこの教室の事務所にたまに顔を出して、スタッフとか保護者会の人たちとかに、あれやこれやの事務のコツを教えるようなことをしていた。  ある日、保護者のボ

        • 「私たちは消された展2023」主催者:酒井よし彦さんインタビュー

          酒井よし彦さんインタビュー(前編) 「私たちは消された展2023」について 神田神保町で毎年2月に開催されている展覧会「私たちは消された展」が今年で5回目を迎える。SNSのモデレーションによって作品が削除されてしまった経験を持つ写真家や絵描きが集まる展覧会で、「ヌード」や「死体」といったSNSにおいて忌避されることの多い写真や絵などの視覚表現が並ぶ。  主宰の酒井よし彦さんは、「扇情カメラマン」の肩書で知られる写真家で、風俗店の広告用写真や、アダルトビデオのパッケージのための

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          不健全図書審査の透明性確保

           一昨日の2022年11月14日、東京都青少年健全育成審議会の期が改まり、第30期が新会長を選任してスタートしたわけですが、今期も不健全図書の指定を審査する部分について非公開を継続するかどうかが議論となりました。  結論からいうと、非公開が継続です。委員がプレッシャーを受けることなく自由闊達に発言できる環境を確保することや、審査の対象となった図書の関係者への影響など、さまざまな観点から公開は難しいという意見が大勢をしめたわけです。  しかし原則として本来なら公開すべきという

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          広告をめぐる政府(間組織)とメディアの政策協調

          国連女性機関と日経新聞とのマンガ広告をめぐる一件が話題になっています。 今回の広告は諸々の周辺事情もあり、これを日経のようなクオリティペーパーに掲載できないのも当然だよねという結論が先に見えてしまう部分もあるわけですが、国際機関がメディアと締結する協定等の在り方については、留保すべき事柄がいくつかあるように思います。 少し前に大阪府と読売新聞の包括連携協定も話題になりましたが、地方や国や国際間の政府と、メディアの協定というのは、メディアの自由意思で締結したのだから表現の自

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          「文章・描画・造形・朗読によって表現される虚構」の規制をめぐる議論と、その波紋について

          はしがき  本稿は、2021年3月18日に、ソウル大学日本研究所が主催した国際学術会議「2020年代以降日本オタク文化の争点と展望」の第1部パネル「オタク文化と表現の自由」において、筆者が行った口頭発表を、書籍掲載用にまとめ直した草稿段階のメモである。完成原稿についてはソウル大学から韓国語で出版される予定となっている。 1.はじめに  まず初めに、本稿の元となったパネル における筆者の立場について、若干の説明をする必要がある。私は他の登壇者の多くとは異なり、文化研究ないしは

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          【居場所・ゲーム・コロナ・依存症・学校化社会】

          香川のネット・ゲーム依存症対策条例案をめぐる攻防のとき、連絡をくれた高松の青年と話していて、なるほどなぁ、と思ったのが、 「僕らのようなガチでゲーム中毒の奴らって、『ゲーム依存症』じゃないんですよ。好きでやってるから。でも、あーこれが依存症なんだろうなって人はいて、ゲームを好きでやってんるじゃないし、ゲームやっても幸せじゃないですよ、あれは」 という指摘でした。(まぁ、「ゲーム中毒」ってスラングは、いささか不穏当ですが、それはさておき) 香川にも、私たちの世代でいうところ

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          著作権法改正案の閣議決定を受けて

           著作権保護の強化を目的に、違法・犯罪となるダウンロードの対象を拡大することなどを含む著作権法の改正案が閣議決定されました。漫画村の騒動が注目された一昨年から足掛け3年のすったもんだの末の改正案です。  今回の議論を通じて浮き彫りとなったのは、そもそも今回の改正内容以前に、現行の著作権法があまりにも広い範囲で著作物の利用行為を違法・犯罪にしていることの弊害だったように思います。漫画村のような深刻な問題に直面をして海賊対策を強化したくても、副作用があちこちに広がってしまうため

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          悪書追放運動の記憶と今日的展開

          Twitterなどでは、マンガ性表現のあり方などを巡って、かなり激しい泥沼の論争(というよりは罵り合い)が続いているわけですが、どうやらその中で、悪書追放運動で手塚マンガがヤリ玉にあげられたなどというのは表現規制反対派による誇張である、といった趣旨のご発言があったようです。 さすがにこの発言は放っておけないということで、普段はこの手のネット論争とは距離を置いている人たちからも、「それは実際に起きた事件ですよ」と様々な資料を紹介するtweetが相次いでいます。 そんな中、手

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          ポルノ問題における法と経済学?

          ネットフリックスで公開された映画「カムガール」を視聴しました。 https://www.netflix.com/title/80177400 実在する「CAM4」のような、誰でも手軽にアカウントを作って始められるポルノ動画中継のプラットフォームを使って、人気配信者を目指す主人公が、謎の存在に自分のアカウントとアイデンティティーを乗っ取られていくというサイコスリラー作品です。 数年前にAV問題が取りざたされるようになった時、CAM4についても色々と調べてみたのですが、基本的

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          出版業界は本当に静止画ダウンロードの違法化を容認するつもりなのか?

          海賊サイト「漫画村」に端を発したインターネットの「ブロッキング」の是非の問題ですが、ここにきて、ブロッキングは見送る代わりに、既に処罰化された映画・音楽に続いて静止画についても「違法にアップロードされた静止画をそれと知りながらダウンロードする行為」を違法化ないしは処罰化する法改正が濃厚になってきました。 追記:共同通信の報道によれば、文化庁はインターネット上へ違法に配信されたと知りながら、有償の漫画や小説などをダウンロードする行為に2年以下の懲役または200万円以下の罰金を

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