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未来予測市場とデリバティブの話


今回は少しこれまでと異なるアプローチで「未来予測市場」をテーマに書いてみたいと思います。ブロックチェーンの教科書などの事例として、よく出てくるものに、未来予測市場というものがあります。

将来予測のための先物市場

Augur(オーガー)というプロトコルが代表的で、これらが分散型=非中央集権型である未来予測を可能にします。また、分散型予測市場プラットフォームGnosis(グノーシス)がコロナウイルス情報の予測プラットフォームを開始したことなども話題になりました。

ブロックチェーンで予測市場を実現させるオーガー(Augur)とは?
https://coinchoice.net/what-is-the-augur/
Corona Information Markets
https://blog.gnosis.pm/corona-information-markets-df7cf3582026


予測市場とは「将来予測のための先物市場」であり、将来の出来事の結果に賭けて金銭的な報酬を得ることができるというものです。日本でも、競馬や、競輪、またはサッカーのTotoなどがこれに当たり、とても身近なものです。

ブロックチェーンの仕組みでは、参加者のお金をプールして、意思決定、そして分配のルールなどを、スマートコントラクトに記載しておくことで、カウンターパーティーリスクなどを避け、安全に安心に分配することが可能となります。日本では、賭博罪との抵触問題が生じますが、海外の許可された特定の国では、スマートコントラクトを用いたオンラインカジノのアプリケーションが利用されています。

フェアリアム(Faireum/FAIRC)
インターネットを通じて提供される宝くじ、カジノ、ゲーム、スポーツ賭博などのオンラインギャンブルに独自の「ブロックチェーン技術」で構築。https://bittimes.net/news/47071.html

ちなみに、エンジニアリング観点では、スマートコントラクトで、これらの仕組みを作ることはとても簡単です。利用する基盤によっては、ランダムネスな数字を生み出すことに一工夫必要な場面もありますが、一旦そこを無視すると、特定のアドレスに仮想通貨をプールしておき、出目によって、何割がどのアドレスに移動させるというルールを記述するだけでこれらのアプリケーションの基礎は完成します。

未来予測を保険として捉える

さて、プールしたお金をルールにしたがって分配すること、これは見方を変えると保険にもなります。保険は、未来を予測して、自分が病気になるという予想に、お金をベットして、実際に病気になった場合に、外れた(病気にならなかった)人から、お金を回収するという未来予測市場であると言えます。 あらかじめ定めた条件、指標をトリガーとして支払いを自動執行し、災害などが起きた時に迅速に支給できるようにする「パラメトリック保険」と言った分野も注目されています。

Insurwave
海上保険向けブロックチェーン・プラットフォームが、世界で初めて商用化。「初年度では、50万件以上の台帳トランザクションの自動化を支援し、1,000隻以上の商業用船舶のリスク管理をサポート」
https://insurwave.com/ 

さて、仮に分配のルールが適切だったとして、病気になったことや死んだことをどう自動的に判断してチェーンに記載するのかという議論もあります。AppleWatchの心電図が止まってしまった場合に、支払いがされるようにコントラクトに記述することも可能性としてはあるかもしれませんが、将来、カルテなどが電子化されてチェーンに記載されるようになるとより現実的になります。また、合議性によって、これらを解決することができるという人もいます。これまでの保険も保険会社のジャッジを、第三者が多数決により行い、そのジャッジに関わった人にも報酬が支払われる仕組みです。これは仮想通貨のマイニングの仕組みにも似ているのではないでしょうか。どの程度、ジャッジした人に報酬が支払えるか、全体のエコノミックスとして成り立つのかどうかは多くがまだ検証段階と言える状況であるようですが、これが可能となれば、保険会社という枠組みを必要としない世界がくるかもしれません。

デリバティブ市場という側面

SDGsの中に天候デリバティブという項目があります。日本は地震や台風、噴火などの自然災害が多く、これらのリスクに対して備える保険のようなものです。例えば、農業さんたちが、干ばつなどの自然災害リスクに備えて、万が一の際は、そのプールされたお金を受け取ることができるような仕組みになっています。当然、金融商品であるため、本人確認および、口座を開き、さらに長期的なスパンで運用され、損害が生じた場合は、損害査定を行い支払いが行われるという複雑なフローが必要となります。
ブロックチェーンの世界では、Walletのアドレスとその残高があれば、それだけで参加することが原理的には可能です。それだけではなく、ルールベースのコントラクトによって、運用コストが最小限に抑えられた場合、小口での投資であるとか、短期的なリスクもヘッジできるようになるなど、メリットは多々あります。

損保ジャパン日本興亜、ブロックチェーンでデリバティブの効率化狙う
https://markets.bitbank.cc/article/sompo-holdings-start-blockchain-pnc-poc

さて、これら証券、保険、デリバティブ、レンディングなどにおけるブロックチェーン分野のことを DeFi(ディーファイ)  = Decentralized Financeと表現することもあります。Defiの世界では中間搾取を限りなく小さくできるため、従来の商品に比べてコストを削減でき、分配金を増やすことが可能であることがメリットです。
先日話題になったFacebookが発表したLibraは海外送金におけるコスト削減を提唱しており、「規制下における分散化金融(Regulated DeFi)」に該当すると言われているなど、その応用は幅広い分野で期待されています。

KYC(Know Your Customer)の問題

お金とルールが密接にひもづくような利用は、ブロックチェーンの教科書にも乗っているような基本的な利用と言えます。しかしながら、前述のLibraなども米議会で難色を示されたようにマネーロンダリングなどの問題があります。

現在、取引所で仮想通貨と法定通貨を取引するためには、免許証などの本人確認書類を提出する必要があります。このことによって、不正に得たお金を最終的には利用したい場合でも、取引所を通じてKYC(Know Your Customer)を確認できるからです。このKYCが確認できていない場合、アドレスは特定できたとしても、どこの誰かというところまではわからず犯罪に利用された場合に特定が困難となります。数年前にコインチェックで起きた事件でもトランザクションの特定までは容易にできたものの、KYCとの紐付けがなかったため、個人の特定は未だできていないのが現状です。

(NEM盗難時のトランザクション)
http://chain.nem.ninja/#/transfer/f05bc90416ba4a435120cff3cef5bbba2c832c48a437ddbfb6dee6d78528cc56
(盗難タグづけされたもの)
http://chain.nem.ninja/#/mosaic/52954b2e17d8fa2689eb84e48c16a7cbcfe5d103ace3e036283c00f47529646f/0c

他にもビットコインが初めてピザと取引された記念すべきBitcoinPizzaDayのトランザクションなども有名です。

(BitcoinPizzaDay)
https://blockchain.info/tx/a1075db55d416d3ca199f55b6084e2115b9345e16c5cf302fc80e9d5fbf5d48d


Conclution

今回は未来予測市場と呼ばれる市場、広くはDefiについての話題でした。もっと一つ一つを掘り下げていくと、より面白いかもしれません。去年、参加したdevcon5のカンファレンスで、DeFiエコシステムを拡張するシンセティックトークン、UMAの発表を聞いたのですが、とても革新的な挑戦に思えました。ここでは全てを説明できませんが、既存の置き換えのように思えて、実は、新たなテクノロジーを用いて新しい顧客や新しいニーズを生み出すことができます。これまでの市場になかった新しい角度からビジネスが展開できるようになるかもしれません。

UMAとは?DeFiエコシステムを拡張するシンセティックトークン発行プラットフォームの概要と機能について
https://zenism.jp/projects/tokenization-of-assets/uma-protocol/2019/09/25/






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