見出し画像

トレーディングカードのグレーディングにみるデジタルにおけるオーナーシップとブロックチェーン


このシリーズも第三回となりました。1回目は物流について、そして2回目はもっと大きなモノの流れという話でした。今回はその続きとして、デジタル上でのモノのやりとりという話にしたいと思います。
ブロックチェーンを用いると、リアル(フィジカル)と同じようにデジタルの製品を扱うことができるようになります。リアルと同じようにデジタルの製品を扱うとはどういうことでしょうか?

デジタルのアイテムは誰のものかという議論

ゲームアプリなどのアイテムは企業のサーバーに一元管理されているため、運営が停止してしまうと、このアイテムを取り出すことはできません。どんなに愛情を持って育ててきたキャラクターでも、運営がストップすれば、取り出すことはできないわけです。
アイテムに限らず、デジタルで購入した書籍、音楽、その他様々なものは同じ問題をかかえています。運営元が倒産すれば、手元の書籍は見れなくなりますし、自分が持っている書籍を誰かに譲渡することも、ブックオフに売ることすらできないわけで、これは実際の保有とは言えないわけです。Kindleの規約を参考にしてもそのようなことが明示的に書かれていることがわかると思います。

Kindleコンテンツの使用。(前略)該当のコンテンツを回数の制限なく閲覧、使用、および表示する非独占的な使用権が付与されます。Kindleコンテンツは、コンテンツプロバイダーからお客様にライセンスが提供されるものであり、販売されるものではありません。
(引用) https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=201014950

さて、ここまで話すと、これまでのデジタルの所有の考え方がリアル(フィジカル)の所有とは少し異なっていることに気がつくと思います。リアル(フィジカル)と同じようにデジタルを扱うことはなぜ難しいのでしょうか?

まずは、管理している会社や団体が閉じられた仕組みの上で構築している(サイロ化された仕組みと表現することがあります)ためで、ユーザーにデータベースを含む一色の実行環境を渡すことは不可能だからです。そしてもう1つ、デジタルはコピーが容易、完全ににできてしまうことも要因です。紙の本であれば、少しずつ、汚れてきますが、デジタルデータはなんど取引されても劣化することはありません。一元管理の問題、そして不正コピーの問題、これらはブロックチェーンを用いることで解決します。分散台帳と呼ばれる台帳にデータを管理しているため、1社が倒産したり、サービスを停止しても、ネットワークが存在し続ける限り、手元のアイテムが失われることはありません。さらに、耐改ざん性という特徴から、無限にコピーして利用されることは不可能です。無限コピーが可能であるとするならば、ビットコインなどの資産価値はそもそも保たれていないことになります。

トレーディングカード

代表的な事例として、ファンジブルトークンとかノンファンジブルトークンという概念があります。今から数年前、クリプトキティーズというブロックチェーンゲームが注目を浴びました。Ethereumというブロックチェーン上にERC721というルールで表現された仮想の猫は、1匹数千万円という値段がつけられ売買されたことで注目を浴びました。

CryptoKitties
https://www.cryptokitties.co/

バーチャルの猫になぜこれほどまでに値段がつけられるのか?これはブロックチェーンがもつ唯一無二制の担保にあります。ビットコインなどの仮想通貨は通常、発行される上限の量が決められているため、その価値が担保されます。(金など現実世界のレアメタルと同じです)

このクリプトキティーズの仕組みは、いわゆるトレーディングカードの仕組みと同一で、もう少しいうと、証券のような、資産形成にも利用できるような新しい概念になるのではないかと様々なユースケースが考えられており、世界でも日本でも、新たなアプリケーションが続々と登場していますが、ベースとしては、トレーディングカードの仕組みを使った新しい遊びと捉えて良いと思います。

トレーディングカードとグレーディング

そう言えば、この記事を書いていた時に、ちょうど面白いニュースが飛び込んできました。アメリカでは野球カードの歴史はふるく、家に眠っている価値のあるカードはまだまだあるのではないかと思います。

数億円レベルのレア野球カード、97歳男性遺品から
https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/news/202006120000262.html


以前、仕事で、アメリカのベースボールカードのことを調べる機会があり、とても面白いと感じました。これらの歴史は古く、古い貴重な選手のカードはとても驚くほどの値打ちがあります。金やダイヤモンドのように公平に取引をされ、本物か偽物かということを、グレーディング企業が間に入り、チェックを行うようなビジネスモデルが出来上がっています。偽物のカードというものも市場に多く流れているそうです。ブロックチェーンを用いると、このような真贋担保というものがとても簡単にできるようになります。限定100枚のカードが本当に100枚しかないか?これまではカードのシリアルナンバーなどで確認するしかなかったものが、ブロックチェーンを用いると、一目瞭然になります。

テクノロジーが変えるモノの見方

トレーディングカードを語る上で、二次流通や転売についても触れなければなりません。上記で述べたグレーディングの事例では、いくら高い値段をつけたカードでも、発行元には1円の利益も入ることはありませんが、ブロックチェーンを用いると、発行元にも売買で得た利益を一部還元するようなこともできます。

例えば、高額転売と聞くと、とてもマイナスなイメージがあるかもしれませんが、価値によって値段が変動すること自体はダイナミックプライシングと呼ばれ、様々なマーケットで導入が検討されています。買い占めと聞くと、マイナスに思えるかもしれませんが、クラウドファンディングにも似たような設計がなされており、ただ、実際のイメージは異なるのではないでしょうか。

ゲームのRMT(RealMoneyTrade)自体はゲームの規約自体で禁じられているケースが多いのですが、日本の法律では禁止されているわけではありません。これも、元を正せば、ゲームパブリッシャーの利益にならない上に、ゲームバランスが崩れることなどが問題です。

もし、利益が還元された上で、RMT自体が新しい世界が作れるとしたらどうでしょうか。先に述べたクリプトキティーズというゲームがそうかもしれません。これらは、ユーザーが配合したネコがレアであればあるほど、価値が上がり、運営はその取引マージンを取るため、ユーザー間でより活発な取引をすることを推奨しています。

ある業界に入ろうとした時に、業界団体の規制で引っかかるケースがあります。しかし、よくよく紐解いていくと、テクノロジー自体が異なるため、問題の本質が異なってきているわけです。物事の本質として、何がダメで、何が良いのか今一度、整理し直す必要があると思います。

先にも述べましたが、ブロックチェーンを用いると、二次流通が行われるごとに、特定のアドレスに資金を注入し続けるようなコントラクトを作ることが可能です。例えば、最初に応援してくれた人をパトロンとして、夢を実現させるクラウドファンディングような扱いもでき、その夢が成功すれば、トークンの価値は上がり、発行元にもパトロンにも利益が入ります。

買い占めが懸念されるようなケースでは、保有されているアドレスと流通量などはコントラクトを通じて逐次追うことができるため、例えば、ゲームに使えるようなカードの場合は、特定のアドレスに偏った分布になっている場合は、ゲーム内でのパラメーターを弱くするというようなルールをコントラクトに記載することで、そのような行為を防ぐこともアイデアとしてはあります。これは私自身がまとめた「対象物の利用を管理するためのシステム、方法、及びプログラム」という特許の中にも書いています。

「対象物の利用を管理するためのシステム、方法、及びプログラム」
http://www.conceptsengine.com/patent/grant/0006404435

カードが手元に渡ってきたまでの遍歴を知ることもできるため、例えば有名人が所有していたカードが手元にあることで、新たな価値につながるというような遊びにも繋がるかもしれません。(もちろんaddressと個人がdidのようなもので紐づいている世界が前提かもしれません)

Conclution

今回はトレーディングカードという側面から、デジタルオーナーシップについて考えてみました。もうデジタルオーナーシップの範囲を大きく捉えると、デジタルに関する所有権の話は、我々が普段利用しているSNSのテキストであるとか、写真であるとか、そういうものは一体誰のものか?という議論に発展します。

この記事の頭に表示している写真では、飛行機が「Zuck You」という旗を引っ張っています。(iPhoneで撮影したので少し遠いですが...)コンサルティング会社Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカが、Facebookユーザー5000万人分のデータを保持し悪用していた問題に起因して、広まった活動です。

シリコンバレーのトップVCであり、マークザッカーバーグの初期顧問であるロジャーマクナミーは、著書「Zucked:Facebookの大災害に目覚めた」についてSXSWの中で話している音声が非常に参考になります。
https://schedule.sxsw.com/2019/events/PP103031

World Wide Webを考案し、「ウェブの父」とも呼ばれるティム・バーナーズ=リー氏が発表したオープンソースプラットフォームの「Solid」のホワイトペーパーのなかで、Facebook・Google・Amazonなどによる中央集権的なWebの在り方を懸念しており、Webを再分散させる計画についての計画を発表しています。

https://wired.jp/2019/03/25/tim-berners-lee-world-wide-web-anniversary/

我々の情報を、例えばAI技術に使うとするのであれば、トレーサビリティを担保して、それなりの対価を個々人に払ってもらうなど、ブロックチェーンを用いることで、これらの課題が解決する日がやってくるかもしれません。いずれにしろ、ユーザーデータの所有権、プラットフォームの独立性、多くのユーザーが何らなしらのアプリを利用している今だからこそ再度考える必要があるかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?