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「天気の子」興行収入127憶円を408万ツイートで予測・説明する。3/3

PR会社カーツメディアワークスの小川と申します。マーケティングのデータ活用支援や、研修(宣伝会議「マーケティング分析講座」)や執筆(Excelでできるデータドリブン・マーケティングやnote)など行っています。

このnoteは、合計2万字超えの分析コラムを3分割した最終回です。2019年9月15日興収127憶円を超えた大ヒット映画「天気の子」で公開されているチケット販売数の推計データと、Googleトレンドとキーワードプランナーを使った指名検索数、CCI社のソーシャルリスニングツール「コミュニケーションエクスプローラー」

以下CEによって抽出したツイート数や「天気の子」について書かれたWEB記事数などのデータを使って、「時系列データ分析による効果検証で何が分かるか?」を掴んで頂くことを目指して執筆したものです。詳細は、以下の2回目のnoteをご覧頂ければ幸いです。

3回目は、「ツイートデータを活用したデータドリブン・マーケティングの極意(あくまで筆者の私見です)」をご紹介します。

2回目までに行った分析、時系列データの分析によって、以下のような示唆を導くことができました。

・指名検索数は売上の多くを説明する重要な変数だった。

・広告とPRは映画の販売数への直接的な影響は見られなかった。

・しかし、広告とPRは指名検索数を増やしていた。


変則パス図0

広告とPR以外の変数の円の大きさがそれぞれの変数の値の大きさを示しています。

最後に行った分析では(原因)「広告」と「PR」→(結果)指名検索数をいくつ増やしたか?その因果効果(専門用語で介入効果)を推定するために、広告とPRの推定結果にバイアスをかけてしまう中間変数と考えられる「ツイート数」を除外した分析モデルによって、指名検索数全体を100%の円とした時に、それが何によって説明されているかをグラフにしました。(比較用に「アベンジャーズ/エンドゲーム」でも分析を行いました)

2作品比較1

広告+PRが検索数を押し上げ、検索数が映画の販売の増加に影響がありそうであることが分かりました(水色の線の因果関係です)

変則パス図

ここで、私が気になっていたのは、赤い丸と矢印です。

1回目のnoteで「天気の子」and「見た」などを掛け合わせた抽出条件によって、映画を視聴し終わった後と考えられるツイートを抽出したのですが、その数が24.6万ツイートしかありませんでした。赤い丸はその24.6万ツイートを表しています。

多いと思うかもしれませんが、販売数のたった2.5%です。同じ映画を2回以上複数回見る人はどれくらいだろうかと気になり、24.6万ツイートのうち、「〇回目」「〇度目」といった単語を含むツイートの抽出を試みました。2回以上観に行った方の割合のヒントとするためです。しかし、1%に満たない数でした。販売数≒映画鑑賞人数と考えて問題なさそうです。

つまり、「天気の子を鑑賞をした人のうち、見たことをツイートしてくれたのはたった2.5%」ということになります。

少ないですよね?SNSを活用したプロモーションの支援も行っていますが、提案時に「シェアを誘発しましょう」とか、安易に言いたくないです。

しかし、「天気の子」を含むツイートは408万ツイートもあるわけです。だから、408万ツイートをした人を狙い打ちしてプロモーションをすれば、もっとシェアしてくれる方を増やせると思います。

ツイートデータを活用したデータドリブン・マーケティングの極意

そこで、私がオススメする方法は特定の「ツイート」をしている人をリスト化して、直接狙いうちする方法です。これは、ツイッターの広告運用の際の基本機能としてある「キーワード」指定という方法を更にレベルアップさせたものです。

CEの「(ツイッター)インフルエンサー機能」を使えば、特定の期間に特定の単語を含むツイートを行ったユーザーのリストを吐き出すことができます。

ただし、CEでは鍵アカウントのツイートは抽出できません。

天気の子を含む408万ツイートに対応するデータはビッグすぎるので、視聴後ツイート24.6万ツイートのリストを吐き出して集計しました。

リーチ数順で上位30位のみ記載しました。リーチ数はフォロワー数×ツイート数によって計算しています。すべてのフォロワーが投稿を目にするわけではないので「MAXリーチ」数と捉えるのが良いです。

リスト

このリストのID数は190,396ユーザーです。うち、ツイート回数1回のユーザーが163,140(85.6%)で、2回の方が19,640(10.3%)3回~9回のユーザーが7,365(3.8%)で、10回以上の方が251(0.1%)です。

企業支援のプロジェクトで、特定のブランド名を含むツイートやブランドのハッシュタグを含むインスタ投稿の生ログを集計したりしてきましたが、だいたいこんな感じで、1回しか呟かない人が殆どです。正規分布はしません。「確率思考の戦略論」で紹介されていた負の2項分布に近くなります。

私はこのリストから、フォロワー数100名以上のユーザーのIDをCSVにして、ツイッターの管理画面に突っ込む「テイラードオーディエンス」という機能を使います。

フォロワー数がある程度ある方のほうがRTしやすいからです。この方法を使えば、ある特定の期間に、特定のフレーズを含むツイートをした方のうちフォロワー数名以上といったターゲティングができます。特定の時期に特定のドラマについて言及していた方、特定の映画やゲームについて言及していた方など、様々な条件でターゲティングができます。

あなたのブランドの競合ブランドについて言及しているユーザーのうちフォロワー数100名以上の方だけを狙い打ちする。なんてこともできますし、その活用はアイデア次第です。

この方法で広告配信を行った結果のレポートが下記です。

広告配信結果1

天気の子だけでなく、ツイートの世界トレンドが1位にもなった日テレの「あなたの番です」でもツイート分析を行っており、「考察と思われるツイート」25.6万ツイートを行ったユーザーのうち、フォロワー数が100名以上の方をテイラードオーディエンスのリストにして広告配信を行いました。広告配信に用いた主なツイートはこのツイートです。

天気の子で、広告配信に使った主なツイートはこれです。

広告のチカラを借りていますが、それぞれ、100以上リツイートされています。

私が分析コラムを書いて広告を配信する主な目的は、来春に出すマーケター向けビジネス書(戦略意思決定のためのデータドリブンな手法)のマーケターを対象としたリサーチと販促です。

「テイラード以外」となっているのは、主にマーケティングやデータ分析に興味のありそうなユーザーをターゲティングした配信結果です。

テイラードオーディエンスでは、実験的に分析対象のコンテンツのファンに広告を配信し、拡散を狙ってみました。

クリック、いいね!、リツイート、それぞれの獲得単価を集計すると、大きな差が出たのはリツイート獲得単価です。

広告配信結果2

やろうと思えば、天気の子の封切りから9月15日までで408万ツイート、あなたの番ですの放映開始から最終回までのツイート数は189万の生データは吐き出して広告の配信ターゲットリストを作ることもできます。

おそらく、ツイート数に対して60%~80%位の人数のユーザーリストが抽出できると思います。

エンターテインメント業界は、特にこの方法を使うべきだと思うのですが、皆さん、やっていらっしゃるのでしょうか?

集まるデータ・集めるデータ

ツイッター広告で「テイラードオーディエンス」を使えば、「集まるデータ」と「集めるデータ」の良いとこどりをするPDCAができるのではないか?と思っています。

以下は調査会社マクロミル社が運営するサイトにあった株式会社デジタルガレージ 執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)渋谷氏のコラムです。「集まるデータ」と「集めるデータ」について言及されています。

一般的に、集めるデータは、インターネットパネルの定量調査など、旧来から行われてきた調査を示します。注目されているのは行動ログなどの集まるデータです。デジタル化によって、その活用に期待されているビッグデータです。ツイートなど、ソーシャルリスニングの対象データも集まるデータです。

コラム内にも記載がありますが、「集まるデータ」「集めるデータ」については、星野・上田『マーケティング・リサーチ入門』(2018年)の第2章にくわしく書かれています。「入門」とありますが、調査分析からバイアスを避け、正しく示唆を得るための視点が網羅されており、この本の知識1冊まるごと頭に入れられたらスーパーマーケターになれると思います。(超オススメです)

ソーシャルリスニングなどの、集まるデータを使えば、消費者、ユーザーなどの「本音」が分かるといった論考をたまに見かけるのですが、それについて違和感を覚えています。

そうした取り組みを全て否定はしませんが、ニーズとかインサイトみたいなものをログデータから発見するのは、渋谷氏のようなガチなデータサイエンティストが仮説と検証(とデータクリーニングやモデリング)を繰り返さないと難しいと思っています。データを料理する高いスキルが要求されます。

何かを売りたいがために、集まるデータに宝があるからまずデータを集めましょう的なことを安易に話しちゃうセールスマンやコンサルタントいますよね?正直ウザいです。

私自身が、そうならないように常に気をつけてます。

そこで、私が提案するのは、ツイッターでブランドが発信したいメッセージをコンテンツとして届け、そこから反響を得ることで「集まるデータ」としてのツイートを「集めるデータ(自社コンテンツの反響ツイート)」とすることです。

ユーザーに訴求しながら、反響による有益な示唆を得て、さらに次のアクションを良くしていくためのPDCAです。私なんて、主にツイッター広告はお小遣いで配信してますから笑

それこそが、「ツイートデータを活用したデータドリブン・マーケティングの極意」ではないか?そう思っています。

そうした考えを今、まとめています。以下の「告知」を、更新させて頂く予定です。

【告知】

ユーザーに訴求しながら、反響による有益な示唆を得て、さらに次のアクションを良くしていくためのPDCAを、「ソーシャルグッドな戦略」につなげていけないか?そんなことを考えたnoteも書かせて頂きました。


追加情報(2023年12月18日更新)

クッキー規制で目減りする効果計測の課題を解決法をnoteにしました。無料で使えるMETA社の高機能なMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール「Robyn」を徹底解説する2時間強のYouTube講義を公開しました。