緒方 壽人 (Takram)

デザインエンジニア/デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで幅広く領域横断的…

緒方 壽人 (Takram)

デザインエンジニア/デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで幅広く領域横断的な活動を行う。 近著『コンヴィヴィアル・テクノロジー』 https://convivial.tech 日々のブログ「わかるとつくる」 https://hisa.to

マガジン

  • わかるとつくる

    「わかる」ってなんだろう。なぜ人は「つくる」んだろう。理解と創造性について考えます。

  • コンヴィヴィアル・テクノロジー

    単著『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』がBNNから5月21日に発売されました。行き過ぎた現代のテクノロジーは、いかにして再び「ちょうどいい道具」になれるのか——人間と自然とテクノロジーについて書いた本です。このnoteで取り上げてきた話題にも触れています。よろしくお願いします。

  • Mark@ Design Engineering

    • 19本

    Takramではさまざまな専門領域のエッジを探究する独自のリサーチプロジェクト「Mark@」を行っています。このマガジンでは、Mark@Design Engineeringに参加しているTakramメンバーが、それぞれのnoteアカウントでデザインエンジニアリング領域に関連する記事を発信していく予定です。

最近の記事

AIを使って難しい本を読む方法〜あるいは今さら聞けないマルクス主義(の魅力と危うさ)

最近、数十年前に書かれた本に興味がある。先日勧められて買ってみたマイケル・ポランニーの『個人的知識』もその一つだ。 ポランニーといえば「暗黙知」。形式化されない知があるという指摘で、いまや一般的にも通用する言葉になっているのは考えてみると凄いことである。「暗黙知」についてだけでいくらでも話が広がるが、ひとまず松岡正剛さんの千夜千冊を紹介しておく。暗黙知とは、言語化されない職人技みたいなもの「ではない」らしい。 ところで、もはやネット上でアクセスできるデジタル化された情報は

    • HACSで考えるコンヴィヴィアルなデザイン

      『コンヴィヴィアル・テクノロジー』を書いたことがきっかけとなって、技術哲学に関わる方々と議論する機会ができたのだが、その中で基礎情報学のHACSと呼ばれる概念モデルに出会った。とても興味深く、ビジネスやデザインなど幅広い分野で「使える」考え方だと思っていて、最近、講演や取材やインタビューなど、ことあるごとに紹介しようと試みているのだが、これがなかなかうまく伝わらず、毎回もどかしく感じている。 そこで今回は、できるだけ専門用語を使わず、自分なりに『コンヴィヴィアル・テクノロジ

      • ラスト・プロトコル

        先週大騒ぎだったOpenAI内部の意見の対立には、AIのリスクに対する考え方の相違があったとも言われている。すでにOpenAIの内部ではAGI(汎用人工知能)が実現されていてその扱いを巡る対立が原因だといったまことしやかな噂も目にするが、実はそもそもAGIに明確な定義が定まっているわけではない。では、AGIのリスクとは具体的にはどんなものなのだろうか? AGIのリスクとは?まずこの記事によれば、「大雑把に言えば、AGIとは一般的に、さまざまなタスクにおいて人間に匹敵する(あ

        • いいデザインとは?

          一昨日、開催中の世界デザイン会議の関連イベント「人新世のデザイン  Exhibition&Talk」で、デザイン評論家/編集者の藤崎圭一郎さん、デザインジャーナリストの土田貴宏さんと議論した。この企画は連続トークイベントで、わたし以外のセッションもとても有意義な議論があり、いろいろ考えさせられたので(今後自分の考えも変わるかもしれないが)記憶が鮮明なうちに振り返っておきたいと思う。 オルタナティブなものさしわたしの登壇したセッションでは、はじめに藤崎さんから、最近取材された

        AIを使って難しい本を読む方法〜あるいは今さら聞けないマルクス主義(の魅力と危うさ)

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        記事

          能動的推論とAI

          拙著『コンヴィヴィアル・テクノロジー』や、このnote、寄稿した記事やトークイベントなどでも度々紹介している「予測する脳」の話。この数年、注目を集めつつあるようで、昨年はこの原理を提唱したカール・フリストンが著者に名を連ねる本が日本語訳もされた。 なかなか難解でじっくり読む時間も取れないままだったが、ようやく読み始めてみることにしたので今回はその一部を紹介してみたい。 心、脳、行動の統一原理まず、この話がとても興味深いのは、これが心、脳、行動の統一原理である、つまり、人間

          能動的推論とAI

          数学で表す、数学で解く

          子どもたちが二人とも中学生になり、娘は受験生なので、最近なるべく毎日少しでも勉強を見ることにしている。気分を盛り上げるためにダイニングの内窓にはまるホワイトボードをDIYしたりして。 今日は中3の娘に数学を教えながら考えたこと、話したことを忘れないように書きとめておこうと思う。 数学で表す、数学で解く数学には「数学で表す」と「数学で解く」があって、それぞれ頭を切り替えた方がいいと思う、という話。 分数とか、関数とか、平方根とかは、それがないと表せないことがある「数学で表

          数学で表す、数学で解く

          ChatGPTで独自データを扱うためのエンべディング

          【2023/11/7追記】 OpenAI Dev Dayにて、開発者向けの大型アップデートが発表されました。この記事で紹介している手法は、Retrieval-Augmented Generation(RAG)と呼ばれてきましたが、今回のアップデートでコンテクスト長(やりとりできるテキストの長さの上限)がこれまでの8Kから128K(12万8千トークン)に大幅にアップするため、一般的な本の内容は1冊分丸ごと渡すことができるようになります。独自データベースとの連携という意味では、こ

          ChatGPTで独自データを扱うためのエンべディング

          ChatGPTプロンプトエンジニアリングとUI/UXデザイン

          ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、今後あらゆる場面で活用されていくことは間違いありません。そして、このパラダイムシフトは、コーディングだけでなくUIやUXのデザインにも大きく影響することになると思います。 今のところ、OpenAIが提供している「素のChatGPT」は、言ってみれば「膨大な量の学習をした人が何もググったり調べたりせずに記憶だけで応えてくれている状態」ですが、Bing AIやChatGPT Pluginのように、必要に応じて検索や外部サービスを

          ChatGPTプロンプトエンジニアリングとUI/UXデザイン

          人間とAIについてのAIとの対話

          ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)を活用したAIが話題である。大規模言語モデルは数十億、数百億単位のパラメータ数をもつと言われるが、そもそもパラメータ数とは何のことだろう。脳の神経細胞の構造を模したニューラルネットワークにおいてのパラメータ数は、脳でいえばニューロンの数やニューロン同士をつなぐシナプスの数ということになるだろうか。 この記事によれば、はっきりとはわかっていないものの、人間の脳にはおよそ1000億から1500億個のニューロンがあり、一つのニ

          人間とAIについてのAIとの対話

          どうやってつくるのか?

          去年の今頃、新型コロナウイルスについての記事を書いてから1年、日本でもワクチン接種が進んでいる。今回は、世界的なパンデミックで初めて大規模に実戦投入されているmRNAワクチンについて、自分で書いた本の中で「なるべくテクノロジーをブラックボックスにしない」と言っているので、自分ごととして調べてみた記録である。特に、このnoteのテーマは「わかるとつくる」なので、mRNAワクチンの仕組みだけでなく、物理的にはどんなもので、どんな風に製造されているのかという「つくる」プロセスについ

          どうやってつくるのか?

          次の世代と共に生きる

          拙著『コンヴィヴィアル・テクノロジー』発売から数週間、少しずつ読んでいただいた方からの反響を頂いています。ありがとうございます。本格的に本の執筆に入ってからお休みしていたnoteも、この本に関連した話題や書ききれなかったこと、本の中で取り上げた書籍、本を取り上げて頂いた書評記事などを紹介していければと思っています。 今回は、ミラノ在住のビジネスプランナー安西洋之さんがSankeiBizに連載されている「ローカリゼーションマップ」に、本のことを取り上げて頂いたので紹介します。

          次の世代と共に生きる

          ちょうどいい道具

          【追記】初めての単著『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』がBNNから5月21日に発売されました。行き過ぎた現代のテクノロジーは、いかにして再び「ちょうどいい道具」になれるのか——まさしくこの記事がイントロダクションになっているような、人間と自然とテクノロジーについて書いた本です。よろしくお願いします! ウェブサイトも公開されました。扉絵になっているCGムービーや、本の内容の一部も公開しています。是非ご覧ください。 昨年から準備している本

          ちょうどいい道具

          人間と自然(後編)

          今年のはじめに、人新世や気候変動を巡る前編を書いてから、思いもよらない形で世界は大きく変わり、ずいぶん間が空いてしまった。このパンデミック自体が気候変動を遠因とするものだとも言われたり、これこそまさに「人類が地球に影響を及ぼすだけでなく、その地球が人類に影響を及ぼし始めている」人新世を象徴するものだと言われることもある。一方で、世界中で行われている行動制限によって人々の移動や経済活動は停滞し、結果としてCO2排出量が大幅に減っているという状況も、半年前にはほとんど誰も予想でき

          人間と自然(後編)

          Mark@Design Engineering Magazineをはじめます

          Takramでは、さまざまな専門領域のエッジを探究する独自のリサーチプロジェクト「Mark@」を行っています。Takramでは一つの領域に留まらない「越境」を大事にしていると同時に、メンバーが持っているそれぞれの専門領域を深めていくことも大事にしています。変化し続ける不確実な世界の中で、自らの専門領域の先端のエッジを常にマークし、そこに旗を立てて領域を牽引していけるような存在でありたいという思いからこの「Mark@」はスタートしました。(実はTakramを反対から読むと「Ma

          Mark@Design Engineering Magazineをはじめます

          何が違うのか

          新型コロナウイルスについては相変わらずわからないことも多いが、世界中で研究も進み、少しずついろいろなことがわかってきているようでもある。前回まではあくまで感染者数という数字について考えてきたが、今回は、新型コロナウイルスのメカニズムについて、今までのウイルスと「何が違うのか」、今把握できていることを自分なりに整理してみたい。(但し、この分野の専門家ではないことはあらかじめ留意頂きたい。) 免疫のはたらく場所と仕組み そもそもウイルスが体に入ってきたとき、免疫はどこで何をして

          増えているか減っているか

          一旦収束に向かったかに思えた日本国内の感染状況だが、連日報道されているように再び感染が「第2波」として拡大しつつある。4月はじめ、指数関数的に拡大するウイルス感染を「倍になるのはいつか」という見方で把握することについて書いたが、第2波についてはそれだけでは状況を正しく把握することはできなそうである。状況はよくなっているのか悪くなっているのか?感染は拡大しているのか収束しているのか?今回は第2波を前提に「コロナで数学」第2弾として改めて考えてみようと思う。 何の増減が大事か?

          増えているか減っているか