新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として 厚生労働省 首相官邸 のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
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何が違うのか

新型コロナウイルスについては相変わらずわからないことも多いが、世界中で研究も進み、少しずついろいろなことがわかってきているようでもある。前回まではあくまで感染者数という数字について考えてきたが、今回は、新型コロナウイルスのメカニズムについて、今までのウイルスと「何が違うのか」、今把握できていることを自分なりに整理してみたい。(但し、この分野の専門家ではないことはあらかじめ留意頂きたい。)

免疫のはたらく場所と仕組み

そもそもウイルスが体に入ってきたとき、免疫はどこで何をしているのだろう。まずは免疫がはたらく場所と、その場所ではたらく免疫の仕組みについてみてみよう。

まずは、免疫がはたらく場所の話だ。体の中に入ってきたウイルスにまず対処するのが、のどや鼻の粘膜にある免疫である。風邪コロナウイルス(普通の風邪の一部はコロナウイルスによるものである)なら大抵はここで済んでしまうことになる。新型コロナウイルスでも無症状や軽症で終わる場合はここで済んでいることも多いと思われるが、ここで防げないと肺などにウイルスが侵入して重症化することになる。

次に、免疫の仕組みの話だが、こちらはなかなか複雑だ。

自然免疫と獲得免疫
体の中に抗原であるウイルスが入ってくると、まずは生まれながらに持っている自然免疫がはたらく。食細胞(好中球)がウイルスを食べてしまうのだ。新型コロナウイルスの場合でもこれで済んでいる場合も多いと思われる。そして、この自然免疫が突破されると、今度は新しい未知のウイルスに対峙してはじめてつくられる獲得免疫の出番となる。

細胞性免疫と体液性免疫
次にこの獲得免疫にも種類がある。キラーT細胞が感染した細胞を直接殺す細胞性免疫と、B細胞が抗体をつくり、抗体が感染を防ぐ体液性免疫だ。(ちなみにこのあたりまでは高校の生物で習うことらしい。記憶にないが…。)

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中外製薬「免疫の働きとは?」より

抗体 (IgA, IgM, IgG)
さらに、体液性免疫でつくられる抗体にも種類がある。主に鼻やのど、消化器官などの粘膜系でつくられるIgA、未知の抗原に初めて出会ったときにすばやく作られるIgM、遅れて出来て体内に長く留まるIgGなどだ。

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MBL「抗体の種類」より

何を調べているのか

さて、早くも随分ややこしくなってきたが、ここで巷で言われている検査で何を調べているのかを改めて確認しておきたい。今主に行われている検査には、ウイルスそのものがあるかどうかを調べるPCR検査抗原検査と、(上のような免疫システムが働いた結果)抗体ができたかどうかを調べる抗体検査がある。つまり、PCR検査と抗原検査は現在進行形で感染していて人にうつす可能性があるかどうか、抗体検査は過去に感染していたかどうかがわかるということになる。

見せかけの無症状

このあたりから、新型コロナウイルスがこれまでと何が違うのか?という部分に入っていきたい。新型コロナウイルスがこれまでと違うところは、まず「無症状でも人にうつしてしまうこと」だろう。いくら感染力が強くても、それが発熱や咳が出てからなら、あくまで症状がある人だけ気をつければよく、元気な人は普通に生活して問題ないはずだ。しかし、新型コロナウイルスの場合はそうではないところがやっかいなのだ。これは単に潜伏期間があるということとは意味が違う。先日のNHKスペシャル「“人体VSウイルス”~驚異の免疫ネットワーク~」では、「見せかけの無症状」という表現がされていたが、本来ならせきや発熱が出ておかしくないレベルでウイルスが増えて周りにも撒き散らしているのに無症状、ということがありうるのだ。

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発症前後の感染性の推移 より作成
(グレーの部分が無症状でのウイルス排出量)

その原因として、番組では、新型コロナウイルスのRNAに含まれるORF3bという遺伝子が、本来ウイルスの侵入を自然免疫に伝えるはずの警報物質インターフェロンを抑制しているという東大の佐藤佳研究室研究を紹介していた。

また、イエール大の岩崎明子氏らの研究によれば、ウイルス量が少なければそれでも自然免疫で素早く対応できるが、最初のウイルス量が多いとインターフェロンが出遅れ、さらにその出遅れた分を取り返そうと長い間インターフェロンが出続けるらしい。インターフェロンは炎症をおこさせるサイトカインでもあるため、長い間出続けるといわゆるサイトカインストームと呼ばれる暴走状態に陥る可能性があるという。インターフェロンが出遅れると、感染に気づけないだけでなく、重症化にもつながるのだ。

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するIFNの反応

見えないものを見る

では、新型コロナウイルスはどのように細胞に感染し、増殖し、重症化に至るのだろうか。そのプロセスについては、NHK BS1スペシャル「見えざる敵を観る ミクロの目で迫る新型コロナの正体」が大変興味深かった。

東大医学部卒の医師でありながらCGクリエーターでもあり、これまでにも様々な医療分野のCGを手掛けられている瀬尾拡史さんが、様々な専門家とやりとりをしながらミクロなメカニズムの可視化に挑んでいる、ぜひ地上波でも放送して欲しい素晴らしい番組だ。直径約120nm、髪の毛の太さのおよそ660分の1の新型コロナウイルスが、ウイルス周囲のスパイクや中心のRNAの構造まで、世界中で公開されている最新の研究データを元に忠実に再現されている。(瀬尾さんによれば、世界中の研究者がここまでお互いの成果をオープンにして研究が進んでいるのは今までにはない新しい潮流なのだそうだ。)

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NHK BS1スペシャル「見えざる敵を観る」より

免疫をかいくぐった新型コロナウイルスは、スパイクと呼ばれる周囲の突起が人間側の細胞表面のACE2という受容体と結びつくことで、そこから細胞内に侵入する。そして、侵入した細胞をウイルス工場化して自らをコピーし、それを放出することで増殖していくのである。ちなみに、このACE2という受容体は、肺だけでなく、鼻やのどの粘膜、舌などにも多く出来るため、それが味覚や嗅覚の障害を引き起こすと言われているようだ。

急激な重症化

次に知りたいのは、新型コロナウイルスが重症化するメカニズムである。感染を防げなくても重症化を防ぐ方法がわかれば、風邪やインフルエンザのようなものとして日常を過ごせるはずだ。番組では、サイトカインストームと呼ばれる免疫の暴走のメカニズムについてもかなり詳細に紹介されていた。ただ、炎症をおこさせる同じサイトカインでも、先ほどの感染した細胞が自然免疫にウイルスの侵入を伝えるインターフェロンではなく、抗体をつくる免疫細胞同士がウイルスの侵入を伝えるためのインターロイキン(IL-6)と呼ばれるものだ。番組では、いくつかの反応の連鎖によってIL-6が自己増幅して暴走していくメカニズムがCGで詳細に表現されていた。いずれにしても、本来ウイルスを攻撃するべき免疫が暴走して守るべき細胞を壊してしまうサイトカインストームが、今回の重症化の一つの鍵となっているようである。

血栓

再びNHKスペシャルの方に戻ると、サイトカインストームによって血栓ができ、それが肺だけでなく全身に様々な症状を引き起こすことが紹介されていた。要は血液の中に血の塊ができて血管が詰まってしまうということだ。だとすれば、血の固まりやすさも重症化の分かれ道の一つとなっているのかもしれない。(「新型コロナウイルス感染による血栓症発症リスク増大の警鐘」

ワクチンをつくる難しさ

もう一つ、重症化の原因となっている可能性がありそうなのが、ADE(抗体依存性感染増強)と呼ばれる現象である。本来、一度体内に新型コロナウイルスの抗体がつくられれば、次に同じウイルスが入ってきた時にはすぐに対応ができ重症化しないはずだが、新しく入ってきたウイルスの遺伝子が変異したりしていると、持っている抗体で完全に中和しきれないどころか、逆に症状を悪化させてしまうことがあるらしい。

これは言い方を変えれば、安全なワクチンをつくることが難しいということでもある。本物のウイルスに感染する前にあらかじめ抗体をつくるのがワクチンなわけで、もし大半のケースで感染や症状を抑えることができても、一部のケースではせっかくのワクチンが逆に重症化を招くリスクがあるということになるのである。

新型コロナウイルスがこれまでのウイルスと違う「みせかけの無症状による感染拡大」と「サイトカインストームや血栓、ADEによる重症化」。どちらも今のところ決定打と呼べるものはまだなさそうだが、それぞれのメカニズムを少しでも知ることで、日々世界中の研究者が試行錯誤しているワクチンや治療薬が決して同じものを競って作ろうとしているのではなく、その中のどの部分にアプローチしようとしているのかがそれぞれ違っていることがわかってくる。

日本では重症化しない?

それから最近よく議論されることに、なぜ日本(や東アジア沿岸部)に重症者や死亡者が少ないのか、何か特別な要因(ファクターX)があるのではないかというものがある。これは取り上げ始めるとキリがないが、東大先端研の児玉教授らによる調査の中で、日本人はすでになんらかの関係する抗体(交叉免疫)を持っている可能性が高いことが報告されている。

上に述べたように、一般に未知のウイルスが入ってきた場合、IgMという抗体がIgGより先に作られることがわかっている。しかし、日本国内の調査をすると、次のようにIgMよりIgGが先に上昇しているそうで、これは多くの日本人にとって新型コロナウイルスが全くの未知のウイルスではないことを示唆している。それが重症者の少ない要因の一つではないかというわけだ。

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交叉免疫の可能性

ただ、このあたりについては別の見方もあるようだ。こちらの西浦教授と山中教授の対談では、逆に欧米の人々がすでに何らかの抗体を持っていてそれが先ほどのADEを引き起こした可能性に言及されている。こちらは、逆に日本人は抗体を持っていないから重症化していないという仮説だが、どちらかというと全体としてはファクターXにあまり期待しすぎない方がよいというニュアンスだ。

巨大化する世界

さて、ここまで根気強く読んでいただいた方に改めて書いておくが、わたし自身はこの領域の専門家ではない。とはいえ、現在進行形で専門家の間でも異なる見解が飛び交う中で、そもそもこのウイルスがどんな仕組みでわたしたちの身体と関わりあっているのか、全体像を少し解像度を上げて掴み取ることができれば、より冷静にこの事態を見ることができるのではないかとは思う。(前回も書いたが、何よりこういうコンテンツをつくることが一番自分自身のわかるにつながる。)

養老孟司さんは新潮7月号「コロナの認識論」でこんなことを書いている。

 ウィルスの側から世界を見てみよう。ウィルスにとって一個の細胞は自分の百倍以上の大きさになる。ウィルスをヒトと考えれば、細胞は一辺が百メートルの桁の立体に相当する。しかもヒトは十兆の桁数の細胞からできている。なんとも巨大な世界ではないか。ウィルスにとっての人体は、ヒトにとっての地球以上になるのではないか。
世界をできるだけ正確に、つまり「科学的に」見ようとすることはできる。しかしそれは常に部分に留まる。なぜなら部分を正確に把握すると、全体はいわばその分だけ、膨張するからである。ウィルスを百万倍の拡大で見ることはできる。それをやると、じつは世界が百万倍になってしまう。(中略)なにかが精確にわかるということは、関連する事象がその分だけボケることを意味する。

確かにコロナについて何かを精確に語ろうとすると、それこそウイルスサイズのミクロの視点から世界全体を俯瞰した視点まですべてが絡み合って途方にくれてしまう。世界は大きくなりすぎて、もはや一人の知識で何かを正しく判断することは不可能なのだ。そして、そのように巨大化する世界があらゆるところで分断を生んでいるような気もする。専門家でもないのにこんな内容をまとめてみたのは、その分断を繋ぐような情報がなかなか見つからなかったからだ。これも多くの人には難しすぎるかもしれないし、専門家から見れば雑で不正確かもしれない。ただ、誰か一人でもここまでたどり着いてくれて理解の助けになり、この巨大化した世界の分断を結ぶ1本の糸にでもなれば幸いである。



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デザインエンジニア / Takramディレクター / 東京大学工学部卒、IAMAS、LEADING EDGE DESIGNを経てTakramに参加。ソフトウェア、ハードウェアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで幅広く領域横断的な活動を行っています。

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