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「君たちはどう生きるか」を観てきた、という話

※この記事は、この世に生を受けた一介のVtuberが好きなことを好きなように語ったエッセイっぽいものです。
※今回は映画「君たちはどう生きるか」の致命的なネタバレを含みます。未見の方はネタバレを踏む前に一切の事前情報を入れずに今すぐ観にいってほしい。

(以下、ネタバレ防止のために暫く改行有り)

















本作、めちゃくちゃよかった。というかジブリを見て育った身としてめちゃくちゃに刺さりまくった。

鑑賞後すぐの感想文のため、まとまりがなく支離滅裂、かつ全ての文末に「※これは筆者個人の見解です」の注釈が入る代物であるが、今胸中を占めるものをいち早くアウトプットしたいと思い、筆をとった次第である。



宮崎監督の最後の作品として

宮崎監督、こんなのちょっとズルいっすよ。
だってこの作品、どう考えても宮崎駿の墓石であり遺書じゃないですか。

思えば、冒頭からスタジオジブリのオマージュのようなシーンや風景は随所に広がっていた。戦争、燃え盛る病院、苔むした廃墟、見渡す限りの海原、風変わりな住居、よく分からない食材の旨そうな料理、etc…。
最初は「旧作を繋ぎ合わせた感じなのか?」と思っていたが、多分それは正しくて、より正確に言うなれば「宮崎駿とスタジオジブリが生み出してきた世界を繋ぎ合わせた世界」だったのだろう。

そんな中現れた、「あの世界」を生み出した大叔父様。彼は眞人少年に対して「私の仕事を継いで世界を作れ」と言う。どう見たってこれは宮崎駿本人のことだ。
「13の積み木で世界を作った」とは言い得て妙で、ラピュタ・トトロ・魔女宅・紅の豚・耳をすませば・もののけ姫・千と千尋・ハウル・ポニョ・アリエッティ・コクリコ坂・風立ちぬに本作を加えた、劇場公開された宮崎駿監督作品13作。その積みあがった積み木を少しずつズラしながら「これで一日は持つ」とは、まるで金曜ロードショーで定期的に再放送され、その日のTwitterのトレンドを席巻する様のようである。

そんな世界は、インコの将軍の一刀で崩壊を迎える。正しさの下に言葉を介する鳥が振り下ろした刃が何かを滅ぼす姿、それは「オワコン」の一言を突き付ける見知らぬ誰かなのかもしれない。そんな宮崎監督なりの痛烈な皮肉すら感じてしまう。


それでも世界は希望で溢れている

かくして大叔父様の生み出した世界は終わってしまった。ただ、それでも眞人少年は前を向き、母となる人と和解し、戦争が終わった日本を生きようとするところで終わりを迎える。唐突かもしれないが、そんなサラッとしたハッピーエンドで終わる。

話は変わるが、近年の日本においてアニメーション作品は目覚ましい進歩を遂げたと言っていいだろう。
「君の名は」で一躍時の人となり、最新作「すずめの戸締り」でも今の日本に対する大きな一石を投じた新海誠監督。日本発の長編アニメーション映画として、世界歴代興行収入で1位の千と千尋の神隠しを上回った鬼滅の刃。アニメキャラクターとして初の紅白出場を果たし、文字通り「新時代」を歌ったONE PIECEのウタ。今のアニメ業界は、かつては考えられなかったような出来事が立て続けに起きている。

そんな中、宮崎駿監督は御年82歳である。冗談半分で引退詐欺などと言われてきたが、アニメ映画の監督として、終わりを見据えているのかもしれない。実際に、あの不思議な世界は終わってしまった。そしてあの世界の「石」は、生きている眞人少年を強く拒絶していた。

それでも、世界は希望で溢れている。戦争は終わり、眞人少年には弟が生まれた。才能ある若きクリエイターたちは今も日本のどこかで生まれ続けている。だからこそ、監督から彼らへの、そして我々観客への問いかけは「君たちはどう生きるか」なのだろう。


本作の試写会で、宮崎監督はこんな風に語ったという。

「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」

出典:https://book.asahi.com/article/14953353

また、本作は徹底して事前の宣伝や告知が為されていなかった。
それらも、本作が宮崎監督の墓石であり遺書であると考えたら合点がいく。今までの人生を走馬灯のように振り返った結果が、一筋縄で語れる内容のわけがない。突拍子もなく、愉快で、愛おしいものなのだ。
そんな彼なりの最後の作品を、敢えて大っぴらに宣伝しなかったというのも、宮崎監督なりの照れ隠しなのではないかと思えてしまう。素直に言葉で言えないからこそ、想いを作品に乗せる。彼は紛れもなく日本が世界に誇るクリエイターなのだ。


いい加減にしろ米津玄師(誉め言葉)

筆者は以前にシン・ウルトラマンのレビュー記事を書いたときも米津玄師に全幅の信頼を寄せていたが、本作の主題歌「地球儀」からは100点満点中1億点の解釈をぶつけられてちょっと脳の処理が追い付いていない。なんなんだ米津玄師、いい加減にしろ米津玄師(誉め言葉)

あっさりと描かれたラストシーンの後、一面の青色を背景にスタッフロールが流れ始める。そこで流れるこの曲は、過去に思いを馳せながらも、風を受けながら未来に向けて走り出す様が描かれている。古きものへの郷愁、新しき日々への希望、まさに「君たちはどう生きるか」の主題歌としてパーフェクトな歌詞である。

そして何より曲の後半、曲が静かになって、こんな言葉が届く。

ああ、小さな自分の
正しい願いから始まるもの
ひとつ寂しさを抱え
僕は道を曲がる

「地球儀」の歌詞より引用

こんなの、こんなの宮崎監督自身のことに決まってるじゃあないか。
願いを以て歩み始め、一抹の寂しさを抱きながら、それでもここで「道を曲がる」ことを選んだ。この言葉選びの巧みさに、筆者の情緒は狂いそうである。

以下、情緒が狂った筆者による箇条書きでの「地球儀」の所感を記載する。

  • 曲中のところどころで聴こえる椅子が軋むような音、宮崎監督がデスクに向かう音じゃん…。

  • YouTubeの動画が真っ白なの、「この曲のMVは君たちはどう生きるか本編である」ってことやん…。

  • 吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」では、”地球が宇宙の天体の1つに過ぎないと考えるか、地球こそが宇宙の中心であると捉えるかは、世の中や人生にも同じことが言える”と論じているが、これを受けてタイトルを「地球儀」とするのは天才が過ぎるやろ…。

  • 他でもない、今一番ホットと言える米津玄師が、スタジオジブリ最新作のエンドロールで歌うということそのものが大いなる意味を持つ文脈やん…。

本当に、本当に米津玄師は天才である。天才という表現だとチープに感じてしまうほどに天才である。あまりにも好きすぎる。ありがとう米津玄師。



以上、あまりにまとまりがない文章で恐縮だが、総括すれば「ありがとう宮崎駿、ありがとうスタジオジブリ、ありがとう米津玄師」ということである。

もちろん、駆け足気味で突拍子のない展開は賛否両論あるだろうし、劇場を出るときに他の観客から「よくわからなかったね」「哲学的だね」という声が上がったのも頷ける。それでも筆者としては、今度時間ができたらもう一度観に行きたい、そう思える素敵な作品だったのだ。

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