なぜいま修士課程なのか?
怒涛のterm 1&学期末テストを無事に乗り越えましたが、さすがに消耗しました。加えて高緯度のため日照時間が本当に少ない…冬至の今日は、日の出8:04、日の入り15:53だってさ。その上、日中も曇天みたいな日々が続くと、概日リズムが狂って夕方からめちゃくちゃ眠くなります。笑
でも逆に言えば、クリスマスシーズンなのが助かった。夕方から街中は素敵なライトアップに覆われていて、一人で歩いていてもウキウキです!少し休憩してなんとかまた書こうと思えるくらいには回復したので、term 1を振り返ったり、忘れないうちに受験記録を残したりしていこうと思います。
さて、今回は僕の進学したMPH:公衆衛生学修士課程について。
日本で医師のキャリアとして積むのならば、専門医取得後に博士課程へ進学しつつ大学病院(同じ敷地内だからね)で社会人大学院生として勤務するというキャリアも(特に外科系では)多いようです。また公衆衛生で生きていくと決めた人も公衆衛生大学院の博士課程へ進学するでしょう。
実際に外科医の傍ら基礎研究系研究室の博士課程へ進学した同期や、修士課程を経ずに博士課程(基礎系も公衆衛生も含む)へ進学した先輩・後輩の話をちょこちょこ聞きます。
でも海外大学院・修士課程のお話は、有名になった先生方のキャリアパスに大方含まれているものの、自分の周囲ではほとんど聞かず情報収集に苦労しました。うちの医局で初の試みだと言われたし、専門医取得直後の渡航というタイミングもその意義について医局長や教授に丁寧に説明する必要がありました。(でもなんとか切り開いたぜ…!笑)
だから僕と似たような志望理由や進学意欲がある人向けに、少しでも情報として発信していければと思い、冬休みの課題から現実逃避するためにも!? また書き起こしています。
公衆衛生の世界のイメージがついている人は、今回の記事はさらりと流して、次回「なぜいまLSHTMなのか?」にご期待ください笑
今回はMPHとかPhDとかキャリアの話で良く聞くけど、アルファベットだらけで良くわかんないじゃん!?という人から、公衆衛生でのキャリアの積み方ってどこから始めれば良いのかイメージが沸かないよ、という人向けです。
学位について
まずは前提となる学位について。
一般的には、
① 学士:Bachelors、いわゆる大学を4年間で。高校卒業後に進学して得られる最初の学位。英語でも通称でUndergraduateとか呼ばれる。
② 大学院・修士課程:Masters、いわゆるマスターを1-2年間で。
③ 大学院・博士課程:PhD(Doctor of Philosophy)、いわゆるドクターを4年程度で。
卒業してそれぞれの学位を得ると、次の学位に進学することができます。
そして医師の場合は、その国の医学部のシステムによって微妙に話がややこしくなります。
・日本やイギリスなど、高校から直接医学部に入れる国では、大学なのに6年制(=4+2)であること、特殊領域であることから、最初の学位としていきなりMD(Doctor of Medicine/ Medical Doctor)を取得でき、学士と修士の兼ね備えみたいな資格になります。
なのでMD保持者はそこから直接(修士を持たなくても)博士課程へ進学できますし、修士課程(二つ目のマスター的な立ち位置になる)へも進学できます。
・アメリカなど、高校から直接医学部に入れない場合は、当然ですが学士を取得してから医学部を受験することになります。その代わりに医学部は4年制などとやや短めです。医学生全員が、日本の医学部で言う「学士編入」する、みたいなイメージですね。
学士時代は医学部に近い領域、つまりは生物系、生命科学系の学科で大学を卒業してから医学部(いわゆるメディカルスクール)に入学する人が多いらしいです。なので医学部卒業時点では学士+MDという学位になり、MD後については上記と同じです。
(ちなみにこの辺ってインターナショナルな医師同士での自己紹介・お国紹介の定番ネタなので、海外に行きたいMD・医学生はこういう事情をなんとなくイメージできる + 日本の医学部や研修過程などが大まかに話せるとスムーズです!)
なぜ修士課程に進学するのか?
では本題に入ります。
具体的には、なぜ僕は重複するような修士号の学位を、これほどの労力をかけて取りに行くのかという点について。
応募時に考えていたことを、多少アップデートしながら、まとめてみます。
論点としては大きく3つ:
公衆衛生学の学位の特殊性
グローバルヘルスについて
純粋に学びたい
です。
1. 公衆衛生学の学位の特殊性
医学部もさることながら、公衆衛生の世界もかなり特殊です。
公衆衛生学の修士号(いわゆるMPH:Master of Public Health)以上を持っていることが、直接的に国際機関などへの就活につながります。というか就活市場での最低条件になります。我流ではなくきちんと学問として公衆衛生学について学び、統計的解析ができるという能力の証拠。医師における専門医みたいなものです。
もちろん博士号(PhD:Doctor of Philosophy)があれば専門性という意味で強力な武器にもなります。が、ある意味では自分の守備範囲を狭めることにもなります。医師におけるサブスペシャリティーみたいなものです。
このブログでも何度か書いているとおり、専門性を身に着けるということはその領域を深く知ることができるという莫大なメリットがある反面、他の非専門領域を捨てるデメリットもあります。つまり特化した特定の分野で空席があれば完璧にフィットする可能性が高いけれども、その分野に空きポストが出るかどうかは不明である。
一方で逆も然りです。敢えてすごく冷酷な表現をすると、専門性のない誰にでもできる仕事には、あなたでなくても代わりがいくらでもいる。むしろ英語のネイティブスピーカーでもないあなたを採用する必要性はない。
医師(MD)というバックグラウンドがあるじゃない?と思うかもしれません。
たしかに医療は公衆衛生の核となる分野の一つであり、MDは資格的に中心的役割を担います。でもLSHTMにおけるMPH全学生の65%くらいは各国のMDで、学科の大半を占める最大派閥です。志高く優秀な医師は当然世界にたくさんいる。
そこに更なる付加価値を加えないと、オリジナリティはアピールできないと感じます。
では何を付加価値と考えるか?
僕は小児科医としての日本での臨床経験および複数の国で見た現場風景から、臨床現場の動線やそれに対する患者の反応についてある程度イメージがあると自負しています。例えば留学のタイミングでも見てきたように、現場経験を重ねることでようやく見えるようになる現場の動線があるはずです。
というのもMD×MPHの中でも、専門医レベルまで研修を完了している人は意外と少ないです。日本人以外のMDは8割が医学部卒業直後か初期研修医上がりな印象です。
(なお、今年の日本人MD×MPHは全員専門医です。)
以上をてんびんにかけると、
僕の場合、将来の進路として母子保健領域で公衆衛生分野を学びたいという気持ちはありつつも、どの規模感(NGO、地域レベル、国レベル、世界レベル)で携わりたいのか自分の中で完全には定まってはいません。
博士課程へ進学するほど、自分の中で臨床経験と公衆衛生を本当にうまく掛け合わせることができるのか。博士課程の4年間も公衆衛生の研究に捧げられるのか自信が持てなかったという本音。海外大学院に4年間行く資金面での奨学金などのリサーチ不足。
また上記の通りMD×MPHに小児科の専門性を掛け合わせることで、オリジナリティは出せるという算段。一年間なら心理的にも経済的にも頑張れるという現実。
これらを総合して、まずは修士課程からいき、必要に応じて博士課程へ進学すればいいと考えていました。
そして実際に修士課程で学べば学ぶほど、早くこれを現場で実践してみたいとわくわくしています。なので現時点では進学はせず、学年末の熾烈な就活に挑戦する覚悟でいます。
とはいえ、どんなインターナショナルな仕事も流動的です。単純に能力だけで採用が決まるわけではありません。
それでも専門医(もしくは理解ある医局への所属)はあることだし、希望にはそぐわなくても日本で臨床をおこなうというセーフティーネットが確保できています。そういう意味では無職で食いはぐれることはない。挑戦する下地を整えたので、あとはチャレンジするだけ。がんばります!
(※ なお、上記はあくまでも付加価値をどのようにつけていくのかという一例を僕が落とし込んでみたのに過ぎません。専門医相当の臨床経験は確かにバックアップとして無難で、日本でのキャリアを放棄せずに情報収集も並行できる、ひとつの応用例ではあります。が、学科卒業や初期研修直後であったとしても、難しいけど不可能ではありません。何かしらの掛け算要素を見つけ、応用し、アピールすることに意義がありますので、くれぐれも本質を見誤らずに。)
2. グローバルヘルスについて
留学へのタイミングで綴ったように、決断のきっかけとなったアドバイス通りだと思っています。日本の医療制度・法律の元で日本の現場を変えたいと思うならば、日本というセッティングに特化している日本の公衆衛生大学院はとても有力な選択肢だと思います。全てが全て海外大学院が最高とか言うつもりは毛頭ありません。
一方で国家間、世界間での健康格差、グローバルヘルスについて学びたいならば、まずは国際色豊かな環境に身を置くことから、というのは言うまでもありません。
世界150か国以上から集うクラスメイトたちと各国の文化、お国事情、医療体制などについて情報交換できる環境。文系理系問わず様々な職種から志高く集まったみなの人生経験。そして多様性があるからこそ自分が発言しないと自分の興味ある方向へ議論が深まらない、だからがんばって積極的に自分の意見を出していこうという努力の必要性。
日本にいてもこのような環境は到底得られないでしょう。そしてその中でも初週の様子で紹介したように授業以外でつながりを持てる機会が設定されていて、その後も散発的にイベントが企画されるので、知り合いがいなくても自然と打ち解けられるようになっています。
(ちなみにLSHTMは寮を含めてキャンパス近くに住んでいればロンドン中心部のため、大英博物館やトラファルガー広場などのイベント会場などが近く、友達同士で飲みに遊びに行きやすいところでもあります!案の定、生活費はめっちゃ高いですが…笑)
そして来てみて意外だったのが、同じ日本人同士のつながり。
遠路はるばる来た初めての土地という境遇、日本にいる人たちと連絡する時ときの時差の不便さについての愚痴。似たような文化で育ち、同じ母国語を持つ心理的な安心感。わからないことをお互いに持っている日本語の文献で補い合う助け合い精神。
そして何より、日本でのポストを卒業して挑戦する志。日本をベースに働きつつ、他国紛争下で人道支援経験のあるベテランから、公衆衛生以外で博士課程を卒業した後のMPH、このMPH卒業直後に博士課程進学を狙う人まで。同学科で他の選択科目の評判や、他学科の必修科目の切り口の新鮮さを情報交換したり。
同じ日本出身でもバックグラウンドが異なり、ここから旅立とうとする道筋も当然みな異なります。が、やはり同じ大学を活用しようとしているだけあって、何か共通する項目も有しています。このようにグローバルヘルスにおける日本人としてのキャリア形成のあり方を垣間見ることができ、これも日本では広げきれなかった人脈だとしみじみ感じます。
ということで、多大な労力は必要だったけれども、やはりグローバルヘルスについて学ぶなら国際的な環境に飛び込んでみる意義を前評判通りに感じます。
3. 純粋に学びたい
僕の臨床経験は、所詮は後期研修を終えた程度でしかありません。それでも臨床で考えながら何年間か過ごしていれば、現場の動線における疑問点というのがたくさん出てくるはずです。ぼーっと過ごしてるとチコちゃんに叱られるので気を付けてください笑
前回記事で志望動機として記載した通り、例えば外来での服薬アドヒアランスだったり通院の自己中断だったりといった行動変容の難しさ。
児童相談所との連携や要対協の会議から見えるsocial determinants of healthの側面。
このような問題を解決できない自分の無力感。自宅での退院後の生活環境など、患者個人の問題ではない医療・社会における構造的いびつさに気が付いてしまったこと。とはいえその一部が断片的に見えるのみである自分の視野の狭さや、ベースとして考えるノウハウのなさに嫌気が差したこと。
もともと医師になったきっかけとして、人の役に立ちたいのもあるけど、社会を世界を変えていきたいという思いも強かったこと。
公衆衛生を初めて体験した初期研修中のプログラムで惚れて以来、いつかは体系的に学問として学んでみたいと考えていて、後期研修中も常に心のどこかにその感情がくすぶっていました。
今回、諸々の環境が整ったタイミングで、幸いにも一番希望していたこのLSHTMにご縁があったので、この機会を最大限活用していくつもりです。
ということで、今日は母校の留学プログラムの集まりがあったみたいですね。今年は参加できなくて残念だけど、後輩たちへのエールも兼ねて初歩的な内容でしたが振り返ってみました。みなさんの夢を応援してるよ!
では明日からは、なぜ海外大学院の中でもLSHTMを選んだのかということを振り返っていきますね。冬休みの課題の傍らにやるので、また気長に待っていてください!