「え、それ間違いだったの?」エビデンスが変えるマーケティング戦略


”これは!”というマーケティング戦略を実行しても思いどおりにならないとき、それは前提が間違っているのかもしれません。
今回は、ビジネスやマーケティングの”当たり前”を見直す視点を提供してくれる「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」を紹介します。

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」

このタイトルを見たとき、頭の上に?が3つくらいつきましたが、読み進めるうちに目から鱗が落ちるほど面白い内容でした。マーケティングの打ち手がなかなかうまくいかないと思っている方は一読をお薦めします。

"常識"とされてきたマーケティングの法則の誤り

本書は、料理に例えて「いくら腕の良い料理人でも、砂糖と塩を取り違えたら、おいしい料理は作れません」と表現しています。つまり、ビジネスやマーケティングの前提が間違っていたら、いくら緻密にことを運ぼうともうまくいかないので、その前提をしっかりつかみましょうというのが主旨になります。

「誰に、何を、どのように」という基本的なフレームワークを考える以前に知っておくべきことを、「①消費者行動の規則性」「②商品・価格の規則性」「③広告コミュニケーションの規則性」の三部構成で、私たちの常識を切って切って切りまくっています。

こんなチェックリストが掲載されています(本書ではこれ以外にも普段当たり前だと思っている項目がリストアップされています)。

<消費者行動やロイヤルティに関する当たり前>
□上位20%のヘビーユーザーが売上の80%をもたらす
□既存顧客の離反を少し減らすだけで利益は大幅に改善される
□新規獲得は顧客維持の数倍のコストがかかるため、リテンション中心に考えるほうが理にかなっている
□ヘビーユーザーのロイヤルティを高めリピートにつなげていくことが大切
□ロイヤル顧客の大半はブランドに愛着があってリピートしている
・・・・などなど

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」芹澤連(日経BP)

いずれもどこかで聞いたこと、見たこと、読んだことがあるのではないでしょうか。自分もこれをみて同じ意見だなと感じました。皆さんはどうでしょうか。

しかし、芹澤さんは、これらの考え方はエビデンスに照らして「事実ではない」あるいは「例外的に当てはまる場合もあるが、一般的にはそうとはいえない」ものばかりといっています。

「えーっ!」というのが自分の偽らざる心境でした。「それなら今までのことは何だったんだ?」と。

続けて、芹澤さんが勝手に言っているのではなく、「査読つきの論文などのちゃんとした”ソース”がある話」だとして、論拠と一緒に詳しく解説するのが本書ということです。

顧客ロイヤルティは原因ではなく結果だった?

市場や消費者行動には「こうするとこうなる」、逆に「そうしたくてもそうはならない」という原理原則が存在します。戦略や戦術はそれらにのっとって初めて成立するのです。ですから、あなたの考える「こうしたらこうなるんじゃないか、こういうアプローチをしてみよう」という意見の前に、エビデンスに基づいて、現実の市場がどう動くのか、ブランドはどう成長するのか、購買行動にはどのような規則性があるのかといった事実を知っておくことが大切になってくるわけです。

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」芹澤連(日経BP)

普段の業務で当たり前と思われているような常識でも、実際にデータをとってファクトチェックしてみると正反対の事実が浮かび上がってくることがあるとして、「ダブルジョパディの法則」を例として挙げています。ジョパディとは、危機的状況、危険、危険性という意味です。

マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。(Sharp,2010/2018,p.8)

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」芹澤連(日経BP)

これがダブルジョパディの法則ですが、小さなブランドは顧客数(浸透率)と購入頻度(ロイヤルティ)の両方が少なくなるというものです。そして、特に大事な点として次の2つが挙げられています。

・大きなブランドと小さなブランドの主な違いは顧客数であり、ロイヤルティの高さはそこまで変わらない(大きなブランドのほうがやや高くなる)
・顧客数が増えればロイヤルティも高まるが、ロイヤルティを高めたからといって顧客数が増えるわけではない(むしろ、ロイヤルティだけを高めたりできない)

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」芹澤連(日経BP)

ちょっと待って、「ロイヤルティを高めてリピートにつなげることで売上を上げて、企業を成長させる」ってことではないの??? と。

しかし、様々な学術研究の結果、ロイヤルティを高めればブランドが成長するのではなく、浸透率が上がる(顧客数が増える)からロイヤルティが高まるというのが事実ということです。ロイヤルティは原因ではなく結果、浸透率が上がることは結果ではなく原因という逆になっていたということです。

これは売上を構成する「顧客数、購入頻度、単価」がすべてつながっているから起きることで、顧客数が起点となって、顧客数が増えるほどリピートや利用額も増え、高い価格も受け入れやすくなるということが真相です。

脱「戦略ごっこ」: エビデンスに基づいたマーケティング戦略のアップデートを

本書では、これまでの常識を「戦略ごっこ」であるとし、原因と結果を取り違えた施策になっていることを憂いています。芹澤さんは私たちにこう問いかけます。

事実が変われば、私は考え方を変えます。あなたはどうしますか?

「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」芹澤連(日経BP)

私は、現実と理屈が乖離したら、なんとか現実を取れるように心がけていきたいと思いました。


今回は、芹澤連さんの「戦略ごっこ マーケティング以前の問題」を取り上げました。芹澤さんは、専門家だからこそ陥る”知性のワナ”にはまり、独断的で閉鎖的になる「声だけ大きいKKD(感と経験と度胸)の人」にならないよう、エビデンスベースのマーケティングが重要であると言います。

本書ではそれらを「消費者行動の規則性」「商品・価格の規則性」「広告コミュニケーションの規則性」の三部構成で、これまでの常識を打ちこわしています。

人はどうしても思い込みにとらわれ、偏りが出てしまうものです。事実が何なのかを常に問う姿勢が大切になってきますし、視点を変えることが必要なことなのだと痛感しました。

寄稿: Hikko.Yama

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