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日本と香港で異なるグローバル企業の社債利率の理由とは?

1.はじめに

グローバル企業の社債とは、世界各国で事業を展開する企業が発行する債券のことです。グローバル企業の社債は、発行国の通貨だけでなく、米ドルやユーロなど他の通貨で発行されることもあります。グローバル企業の社債は、投資家にとっては多様な選択肢を提供し、企業にとっては資金調達の手段を拡大するメリットがあります。

しかし、グローバル企業の社債には、国や地域によって利率が異なるという特徴もあります。利率とは、債券の価格に対する利息の割合であり、債券の収益性を表します。利率が高いほど、債券の収益性は高くなりますが、その分リスクも高くなります。利率が低いほど、債券の収益性は低くなりますが、その分リスクも低くなります。

では、なぜグローバル企業の社債の利率は国や地域によって異なるのでしょうか?その背景と影響について見ていきましょう。


2.日本と香港で社債利率が異なる具体例

日本と香港では、グローバル企業の社債の利率に大きな差があります。例えば、2021年5月に発行されたソフトバンクグループの米ドル建て10年物社債は、日本では年間2.5%、香港では年間3.4%の利率で取引されています。同じ銘柄でも、香港では日本よりも0.9%ポイント高い利率となっています。

このような差は、他の多くの米ドル建て社債でも見られます。例えば、モルガン・スタンレーや富通保険などの金融機関が発行した米ドル建て10年物社債は、日本では年間1.5%前後、香港では年間2.5%前後の利率で取引されています。また、サウジアラビアやBank of China Aviationなどが発行した他通貨建て10年物社債も、日本では年間2%前後、香港では年間3%前後の利率で取引されています。

これらの事例からわかるように、日本では香港よりもグローバル企業の社債の利率が低く設定されています。これは何を意味するのでしょうか?

3.社債利率の差による投資戦略の違い

社債の利率は、発行体の信用力や市場の金利水準などによって変動します。社債の利率が高いということは、発行体が倒産するリスクが高いとみなされていることを意味します。そのため、利率が高い社債は高リスク・高リターン、利率が低い社債は低リスク・低リターンという特徴を持ちます。

3-1.日本で低金利が続く理由

日本では、グローバル企業の社債だけでなく、国債や銀行預金などの金利も非常に低い水準にあります。これは、日本銀行が長年にわたって金融緩和政策を実施していることが大きな要因です。金融緩和政策とは、金利を引き下げたり、国債や株式などの資産を買い入れたりすることで、経済にお金を供給し、景気や物価を刺激する政策です。

日本銀行は、1990年代からバブル崩壊やデフレ、リーマンショックなどの経済危機に対応して、金融緩和政策を続けてきました。2013年からは「異次元の金融緩和」と呼ばれる大規模な資産買い入れを開始し、2016年からはマイナス金利政策を導入しました。これらの政策により、日本銀行は市場に大量のお金を供給し、金利を低下させました。

日本銀行が金融緩和政策を維持する理由は、2%の物価上昇率目標を達成するためです。物価上昇率とは、消費者物価指数(CPI)という指標で測られる物価の変動率です。物価上昇率が高いということは、物価が上昇しているということであり、デフレから脱却しているということです。デフレとは、物価が下落している状態であり、消費や投資が減退し、経済が停滞する恐れがあります。

日本銀行は、デフレから脱却し、安定的な経済成長を実現するために、2%の物価上昇率目標を掲げています。しかし、現在の物価上昇率は1%程度であり、目標に遠く及んでいません。そのため、日本銀行は引き続き金融緩和政策を実施し、低金利を維持する方針です。

3-2.香港で高金利が続く理由

香港で高金利が続く理由は、香港ドルと米ドルの連動制度が大きな要因です。連動制度とは、香港ドルと米ドルの交換レートを一定の範囲内に保つために、香港ドルの発行量や金利を調整する制度です。香港ドルと米ドルの交換レートは7.75~7.85香港ドル/米ドルの間で固定されています。上限か下限に達すると中央銀行にあたる香港金融管理局(HKMA)が介入する仕組みです。

ペッグ制は香港の金融機能にとって重要な意味を持ち、激しい米中対立の中でも維持されてきました。しかし、この制度の影響で、米国の金利が上昇すると、香港の金利も上昇せざるを得ません。米国はインフレ圧力や景気回復を受けて、利上げを繰り返しており、その影響で香港の金利も高止まりしています。

香港の高金利は、キャリートレードや不動産売却などの香港ドル売りを誘発しています。キャリートレードとは、低金利の通貨を借りて高金利の通貨に投資することで差益を得る取引です。不動産売却とは、中国本土の不動産開発業者が資金難に陥っているため、香港で不動産を売却して米ドル資金を確保することです。これらの取引は、香港ドルの需給バランスを悪化させています。

もっとも、香港には新規株式公開(IPO)に伴う一定の香港ドル買い需要があり、住宅ローン金利も比較的安定しています。また、HKMAは必要に応じて介入してペッグ制を守っています。そのため、香港ドルの下値は限定的との見方が多いです。

4.まとめ

グローバル企業の社債利率は、国や地域によって異なります。その背景には、金融政策や通貨制度などが影響しています。日本では長期的な金融緩和政策により低金利が続いており、物価上昇率目標達成に向けて引き続き低金利を維持する方針です。香港では米ドルと連動するペッグ制により高金利が続いており、キャリートレードや不動産売却などによる香港ドル売り圧力に対抗してペッグ制を守る方針です。これらの違いは、投資家にとってリスクやリターンの判断材料となります。

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