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アートディレクターに1日弟子入りできる本

アートディレクターの秋山具義さんという方がいる。ほぼ日やPARCOやマルちゃん正麺なんかのお仕事をされている売れっ子のベテランだ。

僕が桑沢デザイン研究所に通っていた2005年頃にはすでにデイリーフレッシュという名前のご自身のデザイン事務所を立ち上げて、デイリーフレッシュストアというグッズのお店もやっていた。

そのお店は2013年に惜しまれつつクローズしてしまったのだけれど、僕の学生時代〜新人時代にデザイン誌でめちゃくちゃ見かける人だったので、そのお仕事はよく覚えている。

そんな方の書かれた本を、note仲間の嶋津さんから丁寧なお手紙と一緒に献本いただいた。

タイトルは「世界はデザインでできている」だ。


アートディレクターって何?

さて、みなさんもアートディレクターという肩書きの著名人を見かけたことはあると思う。ではアートディレクターという人がどんな仕事をする人なの?となると、はっきりとはわからないモヤモヤした感じにならないだろうか?

広告のデザインをするのはデザイナー、写真を撮るのはフォトグラファーでカメラマン。衣装を決めて演出備品を準備するのはスタイリスト。バシッと決まるキャッチコピーを考えるのはコピーライター。企画を考えるのはプランナー。

さらに細部の美しさを調整するレタッチャーや、食品に特化した演出家のフードスタイリスト、イメージ合う撮影場所を手配したりするコーディネーター、音響の専門家や照明専門家などもいる。

で、アートディレクターは何をする人なのか?

その正解は本書を読んでもらったほうが早いのだけれど、要するに全体をまとめあげる船長である。

操舵士がいて、航海士がいて、コックや舟大工や船医がいる。全体の進路を決め、指示を出し、適宜調整しつつゴールを目指すリーダーがアートディレクターだ。

この本では、そんなアートディレクターの数々の航海の軌跡を追体験させてもらうことができる。さながら1日インターンで弟子入りするような感覚だ。


仕事の裏側に潜むもの

広告に限らず、世にあるほとんどのデザインの仕事は、最終の完成形だけが人目に触れる。

もちろん、見せるために作るのだからそれは当然だ。

しかしデザインを仕事としている身からすると、実はものすごくエキサイティングなのは作り始めた初期だったりする。

着想の原点、仕事の裏側に潜むトラブルや偶然の産んだ表現など...そうした舞台裏こそ、いちばんおもしろいのだ。

同じ要素を感じたのは、日本を代表するグラフィックデザイナーである佐藤卓さんの著書「クジラは潮を吹いていた。」だ。

ロッテのクールガムやおいしい牛乳などの、日常に寄り添う美しい仕事とその数々を綴っているという点で、今回紹介した「世界はデザインでできている」と似ている。奇しくもお二人ともほぼ日と仕事をしている点も。



この本に期待すべきこと

「世界はデザインでできている」の中では、1冊では語りつくせぬものもたくさん感じた。すでにデザイン業界で仕事をしている人にとっては、その出汁のネタ元にこそ興味があったりするので、ココをもっと知りたいのに!と思ってしまうかもしれない。

しかし、駆け出しの若手やデザインを学び始めた学生、ノンデザイナーだがキャリア的にデザイナーを経験したいと思っている人々、デザイナーにはならないがデザインを価値向上のために学びたい人なんかには、わかりやすくとても良い。

ともすれば秘匿され、アーティスティックな秘術のように扱われてしまうクリエイティブという魔法を、ロジックできちんと綴ってくれている。

デザインという手法に触れ始めるきっかけの入り口としては、文章量もコンパクトでとっつきやすいからオススメしやすい。



専門家には物足りないかも?

では、逆にミスマッチになる人も想定しておこう。

まず、デザイン業界が長く数々のデザイン誌を読み漁ってきた人。秋山さんの仕事は業界でもメジャーなものが多いので、メディア露出も多い。当然、目にしてきたはずだ。そういう意味では目新しいジャーナル感はない。そこは期待してはいけない。

次に、深い考察やじっくりとアカデミックなデザインについて知りたい人。この本はもっとカジュアルでエントリーユーザー向けなので、思想や歴史については他を当たったほうがきっと満足度が高い。

これは初学者に向けた本質論であり、システマチックな技術書ではない。かといってヘヴィな思想書でもない。そこを期待して買うのは、ちょっと違う結果になるだろう。

そもそもの、ちくまプリマー新書のコンセプトを見て欲しい。

ちくまプリマー新書は最初の新書。
学生の“学び”に役立つテキストや、大人の学びなおしに対応!

これは学びのきっかけを作るための本である。入門編みたいなものなので、高い山を登りたいなら目指す場所が違う。



心に残った場所について

最後に、ちょっとだけネタバレになるけれど、この本で僕がメモった3行を書き残しておこう。

アイデアが生まれやすいベストポジション
無記名でも作者がわかるかどうか
〝自分らしいもの〟を生み出し続けること

この3行については、また改めてnoteで書きます。

なかなかとっつきづらいデザインという広くて深い世界への、最初の一歩にぜひどうぞ。僕は2時間ほどで読めたので、これくらい気軽な仕立ての入門書なら、いつもカバンに忍ばせて隙をみて読み進めたいな。


余談だが、実は僕がデザイン・設計・施工でお仕事をしたOnakaというおやつユニットのロゴマークとネーミングは秋山さんのお仕事だったりする。

Oの中におへそがあるチャーミングなデザイン。最近、彼女たちの仕事もnextweekendさんで見かけたりするので、かわいい甘いものが好きな人はぜひ見てみて欲しい。


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