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五味と五線譜で味の体験を捉える、食の観察スケッチ

昨日の「美味しい香りの思考法から考える」noteの続きです。あれだけ複雑な香りを、まるで液体状の料理として完成させちゃう料理人の妙技...一体どうやってトレーニングしているのか?

きっと、一流の料理人は知らず知らずにやっている訓練方法があるはずでは?という疑問に1年越しで答えが出ました。


まずは食の体験を分解

では、なにかを食べるという行為を分解してみましょう。

まず、視覚。料理が運ばれてきたり、目の前で調理していたりを見ます。色、質感、鮮度やジューシーさなどを目で確認。

そこから嗅覚。これは昨日書いた「たち香」の方ですね。鼻から嗅ぎとって感じる香りです。

そしていよいよ口に入れます。舌にあたった瞬間に感じる味わい、口の中から立ち上る香りを喉の奥から感じます。この香りは「あと香」

1回目の咀嚼で歯に当たる感触と食感、2回目の咀嚼、3...4...5...と繰り返して、飲み込む。咀嚼するタイミングや噛む場所でも当たる食材で食感や味わいや香りが変わります。

例えばゴマが混ざっていれば、ゴマを噛むときとそうでない時では食感や味わいに微妙な差が出る。柔らかいところと硬いところの硬軟のコントラストだったり、中からジュワッと肉汁やクリームやジュレが出てきて甘→酸や塩味→旨味なんかのグラデーションの変化があったりもします。

そして、飲み込むときも喉越しがあり、胃におさまってからも香りが立ちのぼってきます。料理によってはこのタイミングで口の中に残った香辛料から熱い辛みを感じたり、ミントやレモングラスなどのハーブ類ならスッキリとした冷涼感を感じます。

これで一口目。

これが二口目、三口目と続きます。だいたい1皿を食べ終わるまでどれくらいの回数が必要なのかを考えると、フレンチなどのコース料理が3〜5口程度で1皿が完結するように組み立てられている理由がなんとなくイメージできます。


TIRPES時代の田村さんの料理。去年の8月くらい、独立される直前に滑り込みで食べに行った時のもの。今思うと、かなり緻密に体験を設計されていた。



時間軸を加えて観察する

ここまでで、1口の集合が1皿で体験のセットになっており、さらにそれが1つのコースとして流れるよう組まれているであろうと想像できますね。

では、これをどうやって観察していけば食への解像度をあげられるのでしょうか?

毎回、上記のように1口ごとに味の変化や作者の設計の意図を読み解く...というのを繰り返すのが良さそうですが、これを毎回文章にするのは言語化スキルが高くないと厳しそう。

それこそ、甘しょっぱくて滑らかだけど時々酸っぱい、みたいなぼんやりした観察になってしまいそうです。これがネックで、ずっと食の観察スケッチは難航していました。

そして、ワークショップで田村さんの観察方法の話を聞いていて気づいたのです。足りなかったのは時間軸だと。


時間軸を捉える記録物とは?

食を観察するには通常のスケッチやデッサンなどの〝時間を止める〟記録方法では不向きです。なぜなら、食とは口に入る前と入ってからの一連の流れるような変化そのものであり、五感を使った連続した体験の集積だから。

では、どうすれば時間軸を踏まえて観察するフォーマットを作れるのか?

すでに世の中には先人たちの残した大量の記録物があります。これらの中で、時間軸を捉えた記録物は何かないでしょうか?

ありました!音楽です。

つまり、楽譜。あのオタマジャクシのような音符の並ぶ楽譜には、厳密なルールの上で順番に左から右に読むルールで時間軸が記録されています。

これを応用すれば、食の体験を観察するフォーマットが作れるのではないでしょうか?



五味と五線譜で味と香りの変化を捉える

上の図は五線譜をベースに、食を観察するフォーマットの基本イメージです。

五味、香味、食感それぞれを縦軸に分類し、時間軸での咀嚼回数や飲み込んだ後の変化を記録していくイメージ。

実際はもっと複雑で、1口目でも舌にあたった瞬間と、口の中での状態と、喉越しと、飲み込んだ後の余韻、の4セクションくらいに別れそうです。

香りの要素もざっくりと香水ベースの7種類にしちゃってますけど、肉の焦げる匂いだったり、もっと広いはず。食感も溶けるとか、パチパチキャンディーや炭酸のような弾けるとか、もっと幅があります。

まぁ、そこらへんは観察しつつ書き込めば良さそう。


五味、香味、食感、温度感、色味

こんな感じですね。料理のスケッチとかを右上のスペースに描きつつ、食べた日付や天気や気温、自分の体調なんかもメモっておくとなぜそう感じたのか?の要因もわかりそう。

実際は使いながらもっと改良は必要だと思うんですけど、こうやって細かく分解・分析して食の体験を紐解くのを繰り返したら、味覚の解像度ってかなり鍛えられるんじゃないでしょうか?

そうそう、観察するときに目をつぶってみると味や香りの感度があがるそうです。目隠しをして香りのテストをやっていたと田村さんも言ってました。

ここら辺、機会があればいずれもっと聞き込んでみたい。一流と呼ばれる料理人って、食事をする時にどれくらい分解して情報を咀嚼しているのか。あのMr.CHEESECAKEを食べた時に衝撃だったのは、甘味と酸味のグラデーションとバニラ・レモン・トンカ豆の香りの連携が絶妙だったから。

去年のこのnoteで言っていた図解がようやくできた。肩の荷が降りて一安心です。


それにしても、こうしてみると世の中って楽しいものがたくさん転がっていますね。

見る目をちょっと変えて、見る深さをちょっと掘ってあげるだけでこんなに深い穴が見えるなんて。もしかしたらハマるとやばい沼の可能性もありますけど、楽しみ方って本当にたくさんあるんだなぁ・・・と、そんなことを感じたワークショップでの食の体験でした。

ちなみに、何も高級なコース料理の観察じゃなくても、コンビニのシュークリームの観察とか、ハーゲンダッツの観察とかでもかなり訓練になると思います。

あれだってすごい開発予算かけて作られている知恵と技術と工夫の結晶ですからね。よし、今日はセブンイレブンのプリンの生ドラを観察!という名目で食べようそうしよう。

食の観察スケッチ会やってみたいなぁ。
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