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日常の解像度〜照明スイッチ〜

日頃、意識したことはないけれど、意識して見始めると気になって仕方なくなるものがある。

そんな風に日常生活での解像度を上げていくと、今までは無意識でそんなもんかと思っていたものが、実はとても暮らしの中のスパイスになっていた事に気づいたりする。


空間と人との接点

今日1日、あなたはどれだけの物に手を触れるだろうか?

空間デザインのトレーニングで、その日1日の手の触れたものを全てメモしてくるというのをやったことがある。

朝、目が覚めてから顔を洗って歯を磨く。洗面所へのドアノブを回して、照明のスイッチを押す。蛇口をひねって水を出してコップに注ぎうがいをし、顔を洗う。タオルかけからタオルを手に取り、顔を拭いて戻す。

ドアノブ、蛇口、コップ、歯ブラシ、歯磨き粉のボトル、照明のスイッチ、タオルかけ。そして顔。

朝の一幕だけでこれだ。

もちろん、食事をするなら食材や食器も触るし、恋人の手に触れたり、ペットを撫でたりもするだろう。実は指先は1日の中で実に膨大な数の何かに触れている。


僕は空間の設計が仕事なので、空間と人との接点は何なのかといつも考えている。

物理的な関係性として、空間が人と接する場所で一番頻度が高いのは床だ。人類がまだ二足歩行である以上、これはほぼ間違いない。

しかし、感覚の繊細さでいえば、足の裏よりも指先の方が繊細だ。

触覚という感覚に絞って言えば、指先と出会う場所が空間の中でもナイーブで重要な場所のように思えてくる。


脇役の意匠にこだわってみる

空間の中で指先に触れるものにこだわりたい。その思いは設計を始めて数年してから強くなり、今では思想や信条のようなものに育ってきた。

例えば、照明のスイッチだ。

みなさんは、スイッチというとON/OFFの機能のある押せる場所以外に、周囲を保護するプレートがあるのをよく見ていると思う。

実はこのプレートは開口部の絶縁および保護と意匠としての役割が強く、その気になれば形状や仕上げを変えることができる。

以下、僕の大好きなスイッチ達を紹介しておく。


黒皮鉄板のスイッチプレート

渋い。実に渋い。プラスチックばかりのスイッチ界において、なんと黒皮鉄板と呼ばれる酸化皮膜に覆われた鉄のスイッチプレートだ。

これは熊本のBarで採用したのだが、合わせているON/OFFスイッチの箇所も黒にした。暗い環境で使うので、蛍スイッチと呼ばれるOFFの時に光ってスイッチの位置がわかるやつを選んだ。

このスイッチプレートは鉄板なので熱伝導率がプラスチックと違うから、触るとひんやりしている。

また、酸化皮膜というのはいわゆる流通段階の保護を目的にした荒い仕上げなので、指紋も尽くし、少しずつ錆びたりする。だが、そこがいい!


真鍮鋳物のスイッチプレート

愛らしくも高級感があり、凛とした佇まいである。こちらは真鍮の鋳物のスイッチプレートだ。なんと純国産である。

おまけにスイッチプレートでは珍しい円形であり、スイッチ本体もメカメカしいトグルスイッチと呼ばれるタイプ。ON/OFFのカチカチ感がたまらなく気持ちいい。

真鍮なので鉄板と同じく少しひんやりしているが、鋳物特有のシボの入ったザラついた表面なので高級感もある。おそらくきちんと経年変化したら相当カッコよくなると思う。

こちらはおやつユニットさんのアトリエで採用した。気に入っているので、自分のお店でもこれを採用しようと思っている。


角ばり系スイッチプレート

ここだけの話、僕はイエローベージュ色の角の丸まっている普通のスイッチプレートが嫌いだ。業界ではフルカラーと呼ばれているやつだ。

できれば、もっと薄くシャープに、存在としても四角なら四角でちゃんとコーナーを立てて欲しい。もしも丸めるなら丸めるで、陶器プレートばりにぽってり可愛くぽっちゃり系になって欲しい。

写真のこいつはアメリカンスイッチプレートと呼ばれるタイプで、元々はアメリカで使われていたホーロー=鉄板に釉薬で表面処理をしたプレートである。よくあるお鍋とかタライとかに使われるやつだ。

ホーローはその製造方法上、表面にうっすらとガラスの質感がのる。つるりとしていて、ミルキーな質感。

なめらかな肌さわりのかわいいやつだが、やはりどこかにアメリカンでグラマラスな雰囲気がある。

ちなみにON/OFFのスイッチ部分はプラスチック製のトグルスイッチ。

プラスチックなので金属製トグルスイッチのようなバチっとした操作感はないものの、これはこれでレトロなオモチャのような感覚があり好ましい。


プラスチックでも良いものもある

プラスチックが嫌いなわけじゃない。プラスチック製でも良いものはある。それが写真のJIMBOのNKシリーズのスイッチプレートだ。

普及品だがホームセンターではあまり売っていない。取り寄せになるし、付随するコンセントボックスなどの器具が指定メーカー品になるので電気屋さんに面倒がられることが多いのだが、僕はこれをよく図面にプロットしている。

JIMBOの特徴は、そのエッジの立ったモノリス感。軟弱に角を丸めることなく、整然とした佇まいである。

表面処理もちょっとだけエンボス処理がされていて、ツルペタではなくサラサラしていて割と気持ちがいい。


色々と紹介したが、ほかにも木製の物や、陶器製の物など、探せば実に様々な種類のスイッチプレートが存在する。

難点はスイッチにこだわりはじめると普通のスイッチの2倍〜10倍くらいの値段になる事だが、空間全体の工事費からするとハナクソみたいな金額である。

費用対効果という意味でも、空間ではスイッチや手の触れる箇所にこだわることをオススメしたい。

僕はスイッチが大好きなので、見たことのないスイッチを見つけると興奮する。ちょっとした変態だ。秋葉原のラジオ会館にある怪しいスイッチ屋が大好きだ。

もしもあなたが街中で見たことのないスイッチを見かけたら、ぜひ写真を撮って教えて欲しい。


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