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【はすおか船長とえほんの海】第4回 2歳からの絵本

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい心ゆたかになる絵本のお話。
第4回目は2歳頃のお子さんに読んであげてほしい絵本のご紹介です。

2歳頃になるとイヤイヤ期が始まったり自分の意志がはっきりしてくる時期ですね。
お母さん、お父さんとしては大変な時期でもありますが、子ども自身の人生の船出のために進んでいくためには必要なことなのかもしれません。


人生が広がる時期

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2歳の時の記憶は?と聞かれて覚えている人は少ないと思います。
色んな人に可愛がられてあやされて、沢山寝て、食べて、泣いて…
その頃、人の脳は強制的にハイスピードで成長するためにあらゆるものを暗記して、これから生きるために必要な知識の容量を増やしています。

それが3歳から4歳頃になると、今度はスムーズにまわりの環境に順応する為に、記憶の「刈込み」を行い不必要な記憶を忘れる作業を行います。
だから、大切なもの以外は忘れることになるようです。


その脳の成長期を経ても残るものとは、身の回りにあり続けるもの。
小さい時に読んでもらった絵本のことを覚えている人が意外に多いのは、その本がその後も本棚にあって時々見たりしながら記憶の回想を繰り返しているからです。

だからこそ、その頃に私たちが「本物」と呼ぶ、質の高い絵本に出会うことは、生涯に渡っての記憶や感覚の基礎になるのです。

航海の最初に必要な物

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2歳は、一個の個性として世に出ていく最初の頃。
いわば凪も荒波も含んだ人生の船出の時です。
船は体、船長は子ども自身。
これから進んでいくのに必要な物はなんでしょうか。

自分で進む方向を決めるのであれば、羅針盤が必要です。
そして食料と水、これは知識でしょうか。
航海術自体は荒波を超えていく回数で練度が決まるわけですが、それを乗り越える技術を伝える教練書こそ世界の事を紹介する絵本です。

揃っているようですが、まだ足りません。
その技術を伝える先生は?
もちろん身近な大人、お母さん、お父さん。
先生の指導のもと少しずつ世界の事を知り、自信を持って世に船出していくことができます・・・。

命を奮い立たせるもの

これで準備万全。
何もかも揃っています。
では、いよいよ出航。

小さな人たちの心を想像してみましょう。
満ち足りた空間、大好きなお母さんとお父さん、少しずつ広がる知識、美味しいごはん…まさにすべてが整った状態。

でも、人の命はもうひとつ大切な要素が必要なのです。

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命を輝かせるのは「自己肯定感」いわば「自分が愛されている実感」
「自分の存在がきちんと認められ、生きていていいんだ!と思えること」です。

それが無ければ肯定してくれるものを徒に探すように、その場その場で価値観は変わってしまいます。
揺るぎない価値観をこの時に持つことができたら、人生は信じる方向に進むことができます。

もちろん、この先たくさんの荒波や嵐の中を進んでいかなくてはなりません。
その度に迷い傷つき、あきらめかけることもあるでしょうが、ぎりぎりのところで救ってくれるのは人生を貫く一本の信念「自分は誰かに見守られている」という実感なのです。

具体的にどんな絵本が2歳のお子さんにふさわしいのか、ご紹介してみたいと思います。

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『ちびゴリラのちびちび』

作: ルース・ボーンスタイン
訳: 岩田 みみ
出版社: ほるぷ出版

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ちいさなかわいいゴリラがいました。
森のどうぶつたちも、みんな、このちびゴリラのことが大好きでした・・・

おじいさん、おばあさん、おとうさん、おかあさん、ゾウの親子、キリン、ライオン、かば・・・どんな動物でも、このちいさなゴリラが大好きで、遊びにつきあってあげます。

動物たちは「ちびちびはかわいいなあ」といつも思っています。
でも、ある日、何かが起こりました。
ちびちびが大きくなり始めたのです・・・

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大きくなる。というのは体も心も形が変わってしまうということ。
今まで自然にふるまっていたことに妙な意識が入ったり、ただ「かわいい」と言われていた時代から、「だめ」と言われることが増えた頃、「自分は今までの自分じゃなくなったのだろうか」そんな心配も沸き起こります。

2歳というのはまさに、「全肯定されていた時期から、社会のルールを学ぶ時期への移行」でもあります。
そんな不安な心に対して心に染み入るように伝わるのは「だいすきだよ」という言葉です。
その言葉をもらった嬉しい体験が心の中にあれば、少々の荒波でも「自分は大丈夫!」と思えるのではないでしょうか。

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『あかいかさ』

作: ロバート・ブライト
訳: しみず まさこ
出版社: ほるぷ出版

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あかいかさ、もってくるんじゃなかった でもわからない

空は晴れているのに大好きなあかい傘をもってきた女の子。
雨がふるのを期待して待っていると。
降ってきました。

そしたら、こいぬが一匹、こねこが二匹・・・とどんどん動物たちがかさの中に逃げてきます。
動物たちはどんどん増えて最後はくまの子までも、女の子の小さいかさは、皆を守るように大きく広がっていきます・・・

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自分だけでなく動物たちをみんな受け入れるあかいかさ。
かさは、誰かを受け入れるごとにどんどん大きくなって、おしまいにはくままで入っても大丈夫。
そのかさの下で皆で歌を唄うと、周りの虫や草花までもが唄い出す。
女の子の心の中はまさに、天にも昇るようなうれしい気持ちであふれているのではないでしょうか。

小さな自分の心がかさのように広がる。
皆を雨に濡れないように守るために。
それは「自分が誰かの役に立っている」という自信と満足感を与えてくれます。

自分一人で立って、大人と同じように色んな場所に行きたい。
そんな小さな願望をかなえてくれるのがかさの存在です。
疑似体験を通して心を満たすことが出来たら、目の前に広がる未知の社会も乗り越えられる明るい予想が生まれていきます。


人はさまざまなことを体験して成長していきます。
実体験を通してしか知識を得られないのであれば、狭く偏った考えや思いの中でしか生きられないこともあり得ますが、我々には疑似体験できる能力と、時代を超えて人の心を照らす文学を楽しむ力が生まれつき備わっています。

その能力をより良い物にするために必要なのが、幼少期の親からの伝達。
何を与えるのかによって幼児がこれから出会うもの、感じるものに大きな影響を与えると思って、精一杯良い物をお渡しするようにしたいですね。


次は、人生の航海に出発して少し経った頃。
3歳頃の絵本を皆さんと一緒に考えていきましょう。


ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP : http://kinderland-jp.com/
所在地  : 京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間 : 10:00 ~ 17:00
定休日  : 水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL   : 075-752-9275





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