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【はすおか船長とえほんの海】第2回 あかちゃんの物語

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい、心ゆたかになる絵本のお話。

第2回目は最も小さな読者である、赤ちゃんがよろこぶ絵本について

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赤ちゃんは、生きるために全神経を集中させ、自分を守ってくれる人を探し、世界を理解しようとします。脆弱な存在であるからこそ、本能で微笑みを浮かべ、欲求を分かりやすく泣いて知らせ、心が落ち着くととにかく体を休めて成長をする。そんな赤ちゃんや幼児が楽しいと思うものは何でしょうか?

赤ちゃんが好きなものと、知っていることとは? 頭を柔らかくして少し想像してみましょう。

お母さんの顔、母乳の匂いや、優しい声、丸いもの、(これはいつも飲んでいる胸の形が○ということと、自然の形の中で○が最もイメージしやすいからだとも言われます)そして赤ちゃんが次第に興味をもつものとは、自然です。自然とは、まさに「あるべくしてある」もの。

赤ちゃんに、動物の絵を見せるととても喜んでくれますが、それは、動物が自分と同じ、無駄が一切ない必然的な形をしているから、と言われます。

そして、自然な音に対しても、赤ちゃんは同じように興味を示します。
お母さんのささやき声、風の音、鳥の声、スプーンが鳴る音… 
肉声で自然の音を発音するオノマトペなどは赤ちゃんは真似するのも聞くのも大好きです。

体験がほとんどない赤ちゃんも、興味の対象はたくさんあるので、絵本でそれが描かれていれば、読み手の大人と一緒に楽しむことができます。
その楽しみに乗せて、お母さんやお父さんの気持ちがこもった言葉を伝えれば、赤ちゃんにはより特別な記憶として残ります。

では、実際にどんな本が赤ちゃんに喜ばれるでしょうか。

これから紹介する絵本は、きんだあらんどのぶっくくらぶで長年使われて、大きくなっても本棚に置かれている実績がある本ばかりです。

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『ごぶごぶごぼごぼ』

作: 駒形 克己
出版社: 福音館書店

ごぶごぶごぼごぼ_01

青の地に、黄と赤の丸が描かれています。
プーン・・・ プク プクプクプクン
次第に赤が大きくなって、そのうち
ドドーン
赤の丸が爆発したように大きく描かれます。
それから、今度は青の丸が大きくなって、逆転
少しずつ、水色の地が広がっていき、最後のページはまた青の地で終わる…

音はもちろんオノマトペで、色にも赤ちゃんの興味を引き続ける工夫もあります。
色は温度で表されますが、心理的にも体感に影響します。(赤や黄は暖色と言われ温かさを、その反対に青や紫は寒色と言われ冷たさを感じさせます)。

温度だけでなく、色には時間のイメージを与えると言われます。(赤を見ると時間が生まれるような、まさしく爆発するような感覚、その反対に青を見ると、時間がたくさん詰まったような、例えば宇宙のような深い感覚を感じさせます)

幼児の目から見れば、この絵本、深い時間が流れている青の空間に、ポツンと生まれた赤、それが音と共に大きくなって爆発する!
それから今度は青が静かに迫ってきて赤は後退し、また青の空間が広がる…。

音と色とそして心理的な動きで立体的に体感できるのです。青から始まり青で終わる自然に沿った色の配列、音と色の連動。
きっと慣れ親しんだ映画を観ているような感覚でしょうか。赤ちゃんはこの自然な動きに安心して興味を感じるようです。

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『いないいないばあ』

文: 松谷 みよ子
絵: 瀬川 康男
出版社: 童心社

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いないいないばあ にゃあにゃがほらほら いないいないばあ

50年前からトップを走り続けている、まさに「日本一読まれている絵本」。一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
この単純な構造の絵本がどうして、時代を経ても色あせないでたのしまれるのか、想像してみましょう。

瀬川康夫さんの不思議な柔らかさのある自然な絵と、松谷みよこさんの無駄のないテンポのよい詩。それに、この動物の順番にも幼児を引き付けてやまない秘密が隠されているとも言われます。
でも、最もこの絵本に惹きつけられる理由は…

顔を両手で隠したねこが 次のページで ばあと開ける
また次のページでは、今度はくまがおなじように顔を開ける。そして次は、ねずみ…

見えなかった目が突然現れる、単純な繰り返しですが、幼児にとって、
「次に目が現れるかな、ああ、やっぱり現れた!」という心象に沿って描かれています。予想して、それがその通りになった満足感。

それは、幼児がいつも知っている一連の動作と同じものです。その動作とは、「オギャー、オギャー(お腹が減りました)」「はいはい、ミルクですよ」「ウクンウクン(おいしい。満足)」「ああ、いっぱいのみましたね。よかったね」

赤ちゃんが生理的な欲求を泣いて伝えると、お母さんはその気持ちをくみとって、ちゃんと応えてくれる。期待して、かなえられて、満足する。体で言えば、緊張して、弛緩する。そんな、自分が体で理解しているサイクルで描かれているのがこの絵本です。

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『がたんごとんがたんごとん』

作: 安西 水丸
出版社: 福音館書店

がたんごとんがたんごとん_01

ガタンゴトン ガタンゴトン  のせてくださーい
ガタンゴトン ガタンゴトン  のせてくださーい
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しゅうてんでーす みんなおりてください 
ガタンゴトン ガタンゴトン さようなら

この絵本も、皆がはまる一冊です。このオノマトペではありますが、話される国の言語によって全く異なります。雨の音も英語では「ピータピータ」、汽車の音も「チューチュー」犬の鳴き声も「バウバウ」。

例えば「じゃあじゃあびりびり」「ごぶごぶごぼごぼ」など不思議と自然に耳に入って来ますね。それは、日本語のリズムのひな型がこの濁音の4つの繰り返しだからと言われます。
「がたんごとんがたんごとん」は、まさに自然に聞こえる物が動く音。だから、幼児は自然に耳を傾けてくれます。

また、幼児が理解しやすい絵本の構造があるとすれば、それは、同一画面で少しずつ転換していくもの。
同じ景色の中で、前と変わらない大きさの登場人物が出てきて、前と違う動きをしている。

その連続が、まるで実際に動いているように感じるようです。それは、外の風景を頭の中で像と投影する「表象」という機能に関わりがあるのですが、これはまた別の機会に説明いたします。

また、この物語は、「のせてくださーい」という言葉も、「~してください」と幼児が親しみを覚える言葉でつくられています。

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幼児にとって、絵本は、お母さんを独占し決まった言葉を聞けるとても便利な道具です。大好きなお母さんと対面して遊ぶ気持ちと、連続性と言葉と絵の変化を楽しむ気持ちが、「次はどうなるんだろう」という探求心や、また「もっと読みたい」という向学心へと成長していきます。

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「幼児に絵本はまだ早いのでは」という意見も聞きます。でも、この時期に絵本に親しみ慣れることが、2歳前後の言葉や絵への興味につながり、その興味が3歳頃の人生で最も高まる吸収力の時期に自分の好きと思える絵本を楽しむ力を支えます。
そして、その体験が読書への興味を作り、文字への興味、文学への興味を伸ばし、自分で読書を始める意欲を育てます。

自分で好きな本を探せるようになったら、私たちの役目は一旦終わります。あとはたくさんの本が彼らを育ててくれるでしょうから。

次にまたお手伝いするのは、今度は彼らが親になった時、お子さんに質の高い絵本をお渡しする瞬間です。

一生涯とは言いませんが、この時期の絵本の関わりが、人の生き方を変えていくのは確かであると思います。
そんな心の地固めをする時に、是非、宝物と思える絵本と出会っていただきたいと願っています。


ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP : http://kinderland-jp.com/
所在地  : 京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間 : 10:00 ~ 17:00
定休日  : 水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL   : 075-752-9275

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