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【はすおか船長とえほんの海】第5回 3歳からの絵本 守られている存在から、一歩ふみだす時期

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい心ゆたかになる絵本のお話。
第5回目は3歳頃のお子さんに読んであげてほしい絵本のご紹介です。

自分の足でどんどん新しい世界へ飛び込んでいってしまう3歳頃。
そんな子どもたちの旅のお供になるような絵本たちです。

三つ子の魂百まで

「三つ子の魂百まで」という言葉があります。三歳までに受けた愛情や習慣は、一生涯心に宿り続ける。
昔から言われている言葉ですが、これは発達の観点から見ても正しいことのようです。

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心の核を作るのは何でしょうか。それは自分に対しての無私の愛情です。
誰かから与えられる優しさによって、人は誰かを信じたり、誰かに愛されている自分自身を信じることができるのです。

その心地よい安心感にひたりながら見聞きするものは、より心に刻み込まれる表象となって、成長の大きな糧になります。
つまり、親子で密接に接触しあう3歳までの心の記憶が心の基盤を作るのです。

前回は2歳の船出のシーンをお話しました。
もう少しこの航海をのぞいてみましょう。

船は港を離れ、羅針盤を使って方角を計算しながら、大海原を目的の方向へと進んでいきます。
先輩船長の指導もあって、順調に帆にいっぱいの風を受けて波をかき分けています。


「海はこんなに広いんだ」

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幼児期に把握できる世界とは、「自分で体験し歩いた世界」です。
その体験を基にイメージを広げて想像するこの時期を「記憶表象」と言います。

でも、そのイメージの原動力になるのは、「こんな風になりたい」「こんなことをしたい」という発展するイメージ。
だから、リンゴしか食べたことがないからと言って洋ナシを理解できない訳ではありません。
その形状や分類に近いものを材料に想像して楽しむのです。
「こんなふうかな」そんな力がその後の「想像表象」の力につながります。

大海原とは、今まで知らなかった物や人とたくさん出会い、知らないものがたくさんある、という自分を実感する時期です。


「あれ、波が大きく迫ってくる!」

今まで、凪しか知らなかった船長も、初めて本格的な波と出合います。
それは、自分の力を超えた大きな出来事。

2歳から3歳頃までは、「万能感」の時期と言われるほど、怖いもの知らずで自分が何でもできると信じて生きています。

出来そうもないことを試してけがをしたり、我が物顔で我を通してみたり…それは、世界がまだ自分の手のひらにあって、身体的にも精神的にも周りに守られている時期だから、思いっきり自我を伸ばす必要があります。

その万能感から次に来るのは、不安感。
たくさんの人たちを見て、自分と同じくらいの存在も認識し、「一番は自分一人」だと思っていた意識を少しずつ変える必要にも迫られてきます。
そんな時に、海の上で出会いたいのはどんな存在でしょうか。


「あっ、あれは仲間の船だ!」

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自立している自分に自信を持ったまま、安心感を感じるのに必要な存在とは、自分と同じくらいの「仲間」。
たくさんの「仲間」が自分の周りにちゃんといるという安心感が、この頃の不安感への癒しになります。

自分の知っている、自分と同じくらいのたくさんの「仲間」が海の上で自分と同じように航海をしている。

それは、社会に対して、「自分もやれる」という自信と満足感を与えてくれます。

そんな3歳が好きなキャラクターの代表格は、みなさん思いあたると思いますよ。
自分と同じような姿かたち(三等身)で、同じような仲間がたくさん。
それぞれ個性はあるけれどもみんな仲良し。
そして、何より強く、悪い奴をやっつける・・・

そう、アンパンマン。

構造としても、物語としても、3歳の頃に親しみやすいキャラクター設定です。

アンパンマンなどは文学としてというよりも、娯楽のアニメの要素が強いので、物語としては残りにくく、発達に応じて興味の対象から外れていきますが、ずっと心に残り続ける物語もあります。
少しご紹介しましょう。

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『11ぴきのねこ』

作: 馬場のぼる
出版社: こぐま社

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とらねこたいしょうとその仲間たちの冒険のお話。
シリーズも6冊出ている名作絵本。

ねこたちは、みんな仲良しで、好奇心旺盛、いたずらもするけど、心根はやさしい。そしてなにより、人が良くてよくだまされます。

でも、最後はハッピーエンドで満足して終わる。そんな憎めない姿が、ちょうど3歳のころの素直な心の動きに合っているのだと思います。
自分と同じような存在と一緒に何かに立ち向かって乗り越えようとする。そんな安心感を経て、今度は自分一人で乗り越えようとする勇気とやる気が生まれてきます。

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『ジャイアント・ジャム・サンド』

作・絵: ジョン・ヴァーノン・ロード
訳: 安西 徹雄
出版社: アリス館

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「むんむんむしむしあついなつ・・・」

言葉の語呂も流れるように展開する奇想天外な物語。

ちくちく村に現れた400万匹のハチの大群を、村人全員が知恵と力を出し合って退治しようとします。その方法とは・・・

ハチを薬を使って駆除する、機械を使って駆逐する、現実に起こりえる方法ではなく、3歳の子が想像できる方法で、それも色んな姿の村人が全員で一つのことに取り組む。

読み終わった時に、「自分にもできる!」そんな思いと満足感が残ります。
この時期に大好きなのは「大きいもの」それも普段から生活の中で知っているものが大きくなることで、様々な問題が解決できたら、目の前に広がる未知で不安な社会も、少しとらえやすくなるのだと思います。


守られている存在から、一歩ふみだす時期

3歳の頃は、まさに「守られていた世界から、自分で歩む世界」へ移行する時期。
大海原を航海するこの時期に、必要となる新しい要素は、「仲間」の存在でした。
それも、友情という他人との関係ではなく、自分の心にぴったり寄り添ってくれる存在。

そんな物語をこの時期にいっぱい楽しまれてください。乾いた大地が水を吸収するように、心に潤いを与えてくれると思います。

次は、人生の転換期、4歳の頃の絵本を紹介したいと思います。


ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP : http://kinderland-jp.com/
所在地  : 京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間 : 10:00 ~ 17:00
定休日  : 水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL   : 075-752-9275

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