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【はすおか船長とえほんの海】第7回 5歳からの絵本

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい心ゆたかになる絵本のお話。
第7回目は5歳頃のお子さんに読んであげてほしい絵本のご紹介です。

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秋になりましたね。
この時期は草木も色付き、やがて枯れていくイメージがありますが、本当は冬に向けてたくさんの力を蓄える時期です。
食べ物もより栄養価を高めて種を守り、外の環境に備えて乗り切った後にすぐに成長できる用意を整えます。

まさに希望に満ち溢れた頃。

5歳の絵本もこのような希望に満ちている感覚があります。
これから本格的に始まる社会への入り口に対して、体を整え、栄養を蓄え、すぐにでも走り出せるように用意をする時期。

今までの航海の続きを行ってみましょうか

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5歳の航海

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5歳の航海は大海原に出て、ゆっくりと順調に航海を続けているようです。
以前は嵐が来ることに怯え、風が吹いただけで心配になって引き返すか、すぐに陸を目指したこともありました。
でも今は「嵐が来ても乗り切る方法」で乗り越えられるという思いがあるので、落ち着いて水平線を見ていられます。

ある日、マストの上の見張りが声を張り上げました。

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「船長、船が近づいてきています」

水平線に小さな黒い影が現れたかと思うと、それはどんどん近づいて大きくなってきます。
船全体が見えるほどになった時、その帆に見慣れない鳥の絵が描いてあるのが分かりました。

「知らない国の船だ」

この海域には、世界中の船がやってきて、時々はトラブルになって戦いにまで発展することがあります。目の前の船はどんな人間たちが乗っているのか、絵からでは想像できません。

「船長どうしましょう」

5歳の頃は実際にいろんなトラブルやストレスに出会っていく時期です。
そして、それを周りの大人の力や助言を借りて判断し、解決していきます。
その回数を重ねていくことが経験になり、安定した予想につながっていくのです。

大人であれば当たり前のことですが、子どもにとっては、その判断の材料になる情報を知るのは大変なこと。
それも信頼できる身近な大人の言葉が必要です。

「あれはこのあたり一帯の海で貿易をしているマダカ国の船だよ」

隣にたたずむ老船長が、白いマストの友好的な意味合いや、戦闘用ではなく、積み荷に適した船の形を説明してくれます。
そう言われて改めて見ると、船は明るく、乗っている船乗りも友好的に感じます。

さっそく手信号で挨拶をすると、相手の方からも航海の無事を願う信号が送られてきました。
船長は名前を交換し合って、再会を約束し、遠ざかる船を見送ります。

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情報があることによって、見たものの印象はまったく変わってきます。
もし、情報を知らず、疑心暗鬼な目で見ていたら、白いマストも戦闘的に見えたり、船員も見慣れない兵士に見えたりすることもあります。
そして、その印象の違いで大切な世界を広げる機会を失い、逆に争いの種を生むこともあります。

5歳の頃はまさに、人生の指針をあらゆる場所から収集する時期でもあります。
絵本を通して疑似体験を繰り返しましょう。

実際に体験することは難しいことも、絵本を大人に読んでもらうことで、主人公の気持ちになりきって悩んで、不安になって、それから乗り切る自信が伝わってきます。
そうして、間接的に豊富な体験をすることで、実際に問題に直面した時の対処方法を学んでいきます。一人で悩まないで、多くの知恵を使ってこそ、正しい道を見つけることができます。

大人と違い、まだまだ経験が少ない子どもの心を、想像力と物語で満たしてあげましょう。
きっと現実世界でも同じように元気に過ごすことができます。

この時期におすすめの絵本・・・・・・・・・・・・

『くんちゃんのはたけしごと』

作・絵: ドロシー・マリノ
訳: 間崎 ルリ子
出版社: ペンギン社

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お手伝いをしたいくんちゃんですが、自分勝手に畑仕事をやろうとすると、トウガラシの花を摘んだり、雑草に水をやったり、虫を食べてくれる鳥を追い払ったり・・・
お父さんの邪魔になることばかりをやってしまいます。
でも、じっとお父さんの様子を見て、それからお手伝いをすると・・・

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自分でやってみたい気持ちをちゃんとくみ取ってあげて、その意欲をあるべき方向に伸ばしてあげる。
そして、できたことを心から褒めてあげる。
その大人のアプローチが、子どものやる気だけでなく、善意の心地よさも育ててくれます。

まさに親のアプローチ次第で、子どもの世界が大きく変わっていく様子が描かれます。

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『ペレのあたらしいふく』

作・絵: エルサ・ベスコフ
訳: 小野寺 百合子
出版社: 福音館書店

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ペレは子羊を一頭もっていて、それを自分でせわしています。
子羊は大きくなりましたが、ペレの服は小さくなってきました。
ペレは子羊の毛をかって、それを服にするために、まずおばあさんのところへ行きます。
おばあさんは毛をすく間にペレにして欲しいことを言い、ペレはその通りにやり終えます。
そして、今度はそれを糸にしてもらうために別のおばあさんのところへ行き、おばあさんが紡いでくれている間に、言われた手伝いをします。
そしてその糸を染めるためにペンキ屋のおじさんのところへ行き・・・

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何かを作るというのは、たくさんの大人たちの知恵と手を借りて行う必要がありますが、ペレは自分ができる仕事をこなすという方法で一つ一つ形にしていきます。
そして最後には自分が欲しかった服を手に入れる過程を通じて、仕事とは何か、物をどうやったら作れるのかを学び、同時に人との付き合い方も学びます。

お互いが支えあっていることを、感謝の心で感じるのは、周りの大人の配慮があったから。

ペレは、子羊という天の恵みを自分の喜びに変える方法を、大人たちから学びました。

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5歳は大人からの指導で、さまざまな可能性が変わっていく時期です。
大人は誇りをもって接してあげる努力をしていきたいですね。

ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP  http://kinderland-jp.com/
所在地   京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間  10:00 ~ 17:00
定休日   水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL     075-752-9275



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