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【はすおか船長とえほんの海】第3回 1歳からの絵本

こどもの本専門店「きんだあらんど」店主の蓮岡船長とともに送る、子どもにも大人にも読んでほしい、心ゆたかになる絵本のお話。

前回は赤ちゃんの絵本について、少し想像を広げてみました。第3回目は少し進んで1歳からの絵本を想像し考えてみましょう。この時期の絵本との出会いが2歳頃から高まる言語の吸収や情緒の形成を誘導します。
まず、お母さんやお父さんが、その明るい未来を思い描いて、一緒に楽しめるような絵本を考えてみましょう。

初めての芸術との出会い

お母さんやお父さんが、わが子の明るい未来を
どれも芸術ですが、これを言葉に表すと、何でしょうか。100通りの答えがありますが、私は「心が元気になるもの」だと、考えます。それも、より広域的に普遍的に誰の心にも響いていくもの、それが芸術だと思うのです。

美しさを理解するために働かせる心、それが美意識と呼ばれるものです。

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心を元気にしてくれるもの=芸術

人生で一番幸福なお母さんに守られて、存在全てが100パーセント肯定されている1歳の時、お母さんが見せてくれた心が元気になるものが、3歳、5歳、もっと大人になっても変わらずそこにある。
それは1歳の時に読んでもらった絵本が、ずっと本棚にあるということです。
本の表紙を見るたびに、自分の愛されていた時の記憶が蘇るでしょう。そして、その確信が美しいものへ親しみを育てていく。荒波の中を進むような人生の中では、こんな小さな美意識こそが、心の寄港地を示して、帰るべき方向を教えてくれるのではないか。

私はそんな風に想像するのです。

ちょうど手に届く想像

1歳の子どもが心から理解し楽しめる絵本。
生活環境によってとても違いはありますが、1歳の子どもたちが共有する点を精一杯考えると、彼らの好みを把握するヒントが見つかります。

1歳までの子どもは、おもに目から取り入れる外の世界のイメージを、頭で想像した像としてつなぎ合わせる機能、すなわち「表象機能」が整っていないと言われます。

たとえば、ぬいぐるみを使って「わんわん」と犬をイメージして遊ぶ機能がこれで、大体1歳2ヵ月くらいから安定して機能すると言われます。
そう考えると、「1歳前後では、目で見た像を直接認識する」時期で、彼らが絵本を楽しむためには、あまり変化しない分かりやすい構造がふさわしいと言えます。
具体的にどんな絵本があるでしょうか。

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『おつきさまこんばんは』

作: 林 明子
出版社: 福音館書店

おつきさまこんばんは

よるになったよ
おそらが くらいくらい 
おや やねのうえがあかるくなった
おつきさまだ ・・・

猫が空を見あげていると、お月さまが屋根の上に少しずつ昇っていき、やがてまんまるい顔で笑って「こんばんは」と言う。
でも雲がお月さまをかくしてしまい、顔が見えなくなって、「くもさん、どいて」。
そのうち、くもは「ごめんごめん、ちょっとおはなししてたんだ」と去っていき、最後に「ああ、よかった、おつきさまがわらってる。まんまるおつきさま、こんばんは」

同じ画角で、屋根の上に少しずつ月が昇っていく…
そしてにっこりと「こんばんは」

ページをめくった時に、同じような形のものが載っていたら、幼児も次へ次へと理解が進んでいきます。
それが少しずつ変化すると、「あっ変わった!」と興味が湧きたちます。そこに、大好きなお母さんの落ち着く言葉・・・

これが、想像の世界を少しずつ開拓している幼児にとってまさに「ちょうどいい」流れの物語と言えます。
その刺激によって、変化を理解して、実際の出来事を楽しむように、広がる想像の世界を楽しんでいけるのです。

また、ページごとに経過する時間が一定であることが、物語の心地よいリズムを作って、お母さんの声と一緒により深い感動体験となって記憶されます。

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そして、子どもはそのリズムの中でお母さんの声に親しみ、日本語のきれいなリズムに親しむことができるのです。

絵の色についてもこの絵本には工夫があります。

一般的に色には、心に何らかの影響を及ぼす効果があると言われています。先月号でも述べましたが、赤ちゃんが好きな色は黄色です。
「何かを始めよう!」そんな肯定的で明るいイメージを与えてくれるのも黄色、赤などの暖色です。

色温度は、虹色の順番で変化していき、赤、黄、緑、青、紫など、色温度が下がるとどんどん色が深く落ち着くような気分になっていきます。
幼児が好むのは、大体が自分の心と同じような黄色や赤色で、そんな色の絵本がちょうど彼ら自身の開放的で明るい気持ちにふさわしいとも言えます。

そう考えれば、青の中にぽっかりとひと際目立つ満月の黄色は、幼児の明るい心そのものを強調しているようです。
でも、周りは静かで落ち着いた世界が広がっています。

動的な激しい色使いの絵も、そんな気持ちの時には心地よいものです。
でも1歳前後は、与えられる側に立つ受け身の時期なので、小さな人の心に配慮した本選びが必要です。

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『よくきたね』

文: 松野 正子
絵: 鎌田 暢子
出版社: 福音館書店

よくきたね

小さな人に心地の良い声というのは、もちろんお母さんの声です。
「いとやすく♪」という聖歌の言葉がありますが、その響きだけでもどこか満たされる感じがします。

おいでおいでここまでおいで
かあさんぶたがこぶたをよんでいます
よくきたね いいこだいいこだ

様々な動物のお母さんと子どもがでてきて、そんな言葉が繰り返されます。
ぶたやいぬやねこ、そしてくま…おかあさんは、子どもを呼んで、「いいこだ」と優しい声。
そして、最後に子どもを呼ぶのは、人間のおかあさん。
お母さんは、動物と同じエッセンスで、「よくきたね」と愛しいわが子を抱きしめます。

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お母さんもわが子を見ながら常に思っているのは「かわいいな」「いいこだな」ではないでしょうか。
そんな気持ちが、絵本の言葉に乗って子どもにダイレクトに伝わっていくのが想像できます。
それも、上記で述べた、同じ画角、暖色の色など幼児が分かりやすい構造を使って、その想像力がオープンなところにお母さんの声が沁みとおるように心に響いてくる。

どうでしょうか。1歳前後の絵本は、
①同一画角で少しずつ展開していくページが続く
②自分が良く知っているものや言葉が登場する
③色合いも自然に心が納得できる配慮がある
④何よりお母さんの声が生きてくる
このような絵本こそがふさわしいのでは、と私は考えます。

何より、作家が子どもの視線や創造性を一心に考え抜いた作品が、名作として何十年と読み継がれている現実があります。
色んな絵本があってこそ面白く多様性があるのは、私も賛成で、これから新しいタイプの作品を見るのも大いに楽しみです。

同意見ではありますが、これから絵本を手渡すお母さんには、まず大きな幹のような絵本を味わっていただき、その後に遊び心のある沢山の枝のような絵本を楽しんでいただきたい。
これから世界を渡っていく小さな人たちに、一人の大人として世界にはどんな美しいものがあるのか、また素晴らしい物語があるのか、紹介する責任を果たせるような絵本をできれば選んでいただきたいと願っています。

1歳は、足で立って指が自由に使え、自分の意思も自由に働かせることができ始める、まさに人生のスタートラインです。次は、自分を知り始めるスタートラインに立つ2歳前後の絵本についてお話をしたいと思います。


ABOUT -この記事を書いた人ー

蓮岡さんプロフィール

蓮岡 修
子どもの本専門店「きんだあらんど」店主

島根県出身。
紛争地・被災地での人道支援活動を経て、2008年より「きんだあらんど」店主となる。
全国各地の幼稚園の選書請け負いや、雑誌のコラム掲載など様々な場面で選書を行う。
絵本に関する講演も多数。
大学非常勤講師/京都市内の子育て広場代表等多方面で活躍。

■きんだあらんど
家庭で読まれる絵本と読み物をコンセプトに、こだわりの選書で世界の名作を中心とした本を取り揃える。
毎月絵本の読み語りや絵本講座等のイベントも開催。

【店舗情報】
公式HP : http://kinderland-jp.com/
所在地  : 京都市左京区頭町351 きんだあビルディング2階
営業時間 : 10:00 ~ 17:00
定休日  : 水曜日、祝日(不定休)、年末年始
TEL   : 075-752-9275

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