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それでもまだAI翻訳アカデミーを受講すれば英語力ゼロでも翻訳で稼げるのではないかという希望が捨てられない方へ

最初にズバリ言っておきます。この講座には通訳翻訳の業界4団体から注意喚起が出ています。

https://jat.org/ja/news/%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9Bhttps://www.jtf.jp/pdf/20231211.pdf
https://www.japan-interpreters.org/news/sagimagai2023/ 
https://aamt.info/wp-content/uploads/2023/12/%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B_20231211.pdf

でも、こういう注意喚起を見てもなお(もしくはまだ見ていないのかもしれません)、このキラキラした講座に心を惹かれる人が後を絶たないのはなぜなのでしょうか。

【宣伝がキラッキラでド派手すぎる】

AI翻訳アカデミーの宣伝がいかにキラキラなものか、この手のさぎまがい講座を数年来、複数ウォッチしてきた私はよく知っています。

こういうやつですよね。

https://honyaku-ai.com/pletter/
https://honyaku-ai.com/pletter/


魅力的ですよね。これが本当だったらどんなに良いかと思う気持ちは非常によく理解できます。しかし、残念ながらこれはいわゆる「情報商材」と呼ばれる種類の商品です。

「秘密」「特別な方法」などと称して情報を売り、高額の料金を搾り取る商法です。消費生活センターにも多くの相談が寄せられている事案です。

さらにこんなことも言っちゃってます。

https://honyaku-ai.com/lp/EL1/?lid=1baj&aid=6t61&fbclid=IwAR0e95aLq0WbdxLW1AzTPDTkS-0s-r7GeEBvrClsALmmcpZoZRJBykLsdAU

翻訳にAIシステムを導入するため、
人が翻訳する時にかかる時間と工数を劇的に減らすことができます。
数時間数日かかる仕事をわずか数秒、数分でこなせてしまうのです。

「AI翻訳起業であなたが手に入れられる3つのこと」

ちょっと待った。
え、そんなにいいものがあるなら、なぜ巷の翻訳者たちは使っていないの?ってまず、思いません?

そんなに私たち職業翻訳者がアナログで機械オンチだと思ってます?
私たちも機械翻訳がどういうものかもちろん知っていますし、機械翻訳の現状の精度の高さもその限界もよく知っています。

では、なぜ使わないのか?機械翻訳の存在を知らないからではありませんよ。使えないか、または使ってはいけないからです。

翻訳会社が翻訳者に対し、機械翻訳の使用を禁じるケースは少なくありません。その理由として

  1. 情報漏洩の可能性があるから

  2. 機械翻訳特有の「ぎこちなさ」を顧客が嫌うから

  3. せっかくお金を払って翻訳者に依頼しているのに、機械翻訳を使われたら意味がないから

などが挙げられます。

だから塩貝氏は「現役翻訳者が秘密裏に使っている」などという表現をするのでしょうか?(「秘密裏使っている」という日本語に対する些細な違和感はこの際、横に置いておきます)

世界TOPレベルの現役翻訳者が秘密裏で使っている?! 

さて、令和最先端のAIシステムを使うことで英語初心者でも稼げる、と言われたことでその「最先端のシステムとはいったい何なの?」と急速に胸が高鳴りますが、これは、実在する機械翻訳サービスです。

実はこのAI翻訳アカデミー内で受講生に紹介されているのは、八楽株式会社さんが提供する「ヤラクゼン」というサービスです。

このサービスが使いたければ、八楽さんのウェブサイトに行けば個人でも契約できます。

月50,000字まで(一回あたり5,000字まで)の翻訳なら無料、プレミアムプランレギュラーの利用で23,760円/年です。

https://www.yarakuzen.com/pricing/personal

AI翻訳アカデミーに入会していても、ヤラクゼンを使うには上記の利用料が別に必要です。別にアカデミーが法人契約してくれているとかではなく、個人で勝手に契約してねというスタイルです。

無料プランですとデータの機密性保持の面で「保障なし」なので、仕事に使おうとする人は当然、最低でも右側のプレミアムを利用することになるでしょう。正直、30数万も50数万も払った人にとってはさらなる23,760円の出費は痛いと思いますが、それを使わないとどうしようもないので「聞いてなかったけどな…」と若干不満に思いつつ仕方なく契約することになります。

具体的な使い方はAI翻訳アカデミー内でも説明されていると思いますが、八楽株式会社のウェブサイトをご覧になると説明されていると思いますし、八楽株式会社でも定期的にセミナーを開いていると思います。

【ヤラクゼンの八楽株式会社さんからも注意喚起が出ている】

ちなみにヤラクゼンを提供している八楽株式会社さんも "「英語力は一切不要で翻訳者になれる。」等の宣伝文句により、受講者を集める翻訳の学校とは一切関係ありません" という声明文を出しています。名指しはしていませんが、状況から見てAI翻訳アカデミーのことを指していると見てまず間違いないでしょう。

https://www.yarakuzen.com/news/important

【私たち、この人のこと今までまったく知りませんでした】

さて、このキラキラド派手広告をこれでもかと打ち出してくるこの塩貝香織という人、一体どんな人なのでしょうか。

https://fiveeyes.net/hp/

立派な肩書ですね。しかし、翻訳業界は業界団体のイベントなどで横のつながりも多い世界ですが、この講座が出現するまで私の知っている翻訳者は誰も彼女のことを知りませんでした。

【AI翻訳者という職業も聞いたことがなかった】

そして、塩貝氏が言う「AI翻訳者」という言葉も、業界では実際にほとんど聞いたことがありません。AI翻訳者とは一体何なのでしょう?

機械翻訳の出力を手直しして納品する仕事を「機械翻訳(Machine Translation、MT)の後編集」、いわゆるポストエディット(MTPE)と呼び、この仕事をする人を「ポストエディター」と呼びます。

ネット上の求人を探せばポストエディターを募集しているところもあります。最近ではポストエディターの需要は高まっていると聞きますが、一般的に通常の翻訳料金よりも設定料金が低く、報酬が低い割には手間がかかって大変な仕事なのでプロの翻訳者にはやりたがらない人も多いです。

塩貝氏の動画では機械翻訳が正確な訳を出してくれると言っていますが、これは本当ではありません。

現時点での機械翻訳には誤訳や訳抜けが含まれることは業界では常識です。それを修正して正確で読みやすい訳にするには結局、一から翻訳できる人と同等の語学力が必要になります。

【機械翻訳はぎこちないだけではない|誤りも含まれる】

機械翻訳に対して一般の人がよく抱いている誤解ですが、機械翻訳は「機械的で読みづらいが内容は正確なので人間がちょっと手直しすればいい」というものではありません。

何度も言いますが機械翻訳には内容そのものも間違っているものも含まれるのです。ですから原文と機械の出力した訳文を見比べながら丁寧に確認しないと誤訳を検出できません

それでもヤラクゼンに代表される機械翻訳サービスを使う人は、時間短縮のために参照程度に使う目的で契約します。

プロの翻訳者ではなく、会社員として会社内で外国語を使う業務を自分でやる人などが使う場合が多いでしょう。企業が社員のために一括で契約しているケースもあります。

いずれにしても、塩貝氏が宣伝動画などで並べている内容については翻訳業界の常識とは大きくかけ離れたものです。

以上のことからもこのヤラクゼンというシステムを使えば語学力不問でプロの翻訳者になれる、との広告は現実離れしています。

機械翻訳という便利なものが出現したことは事実です。それを活用して翻訳の仕事を効率化させている人も中にはいます。機械翻訳の使用を禁止していない取引先と取引し、満足度の高い成果物を納品して生計を立てている人もいます。

ただ、そんな便利なものがあって、そこに原文を入力すれば「あとはちょっと手直しすれば済むだけ」の訳文が出力されるのなら、そもそもそんな仕事を外注することはないと思いませんか?

【てにをは直すだけの仕事に企業は大金を払わない】

てにをはを直すだけの仕事に高額の翻訳料金を払って外注する企業はほとんどありません。よほど時間がなくて単純作業は外注したい、というクライアントもなかにはあるかもしれませんが、そのような単純作業という認識であれば外注コストも安く済むことを考えるはずです。そのような単純作業では高額の報酬は得られないというのが相場だと思います。

翻訳会社や翻訳者に依頼が来るのはそんなに簡単な仕事ではありません。「機械翻訳に入れてみたけどどうにもならなかった」場合にのみ、依頼が来ます。

つまり、読みづらくて何を言っているのか全く分からない、内容がよく分かっている人に読みやすく編集して欲しい、という依頼です。

通常、そこまでひどい場合は訳文だけ見て修正することはできません。元の原文の解釈が間違っている場合がほとんどなので、原文を見ながら一から訳し直しに近い作業になることがほとんどです。

今回の塩貝氏の講座は、こういったことをほとんどご存じない一般の方々をターゲットにした悪質な講座だと私は考えています。

塩貝氏もTOEIC満点を取得した方がある方で、もともと英語力が高い方です。そのような方がなぜ英語力ゼロでも翻訳できるとおっしゃるのか謎なのですが、そのほうが講座の受講生のターゲットが広がるからでしょう。英語力がなければ翻訳できないことは、塩貝氏ご本人がよく分かっているはずです。

•「AI翻訳アカデミー」 スタンダードコース 327,800円
•「AI翻訳アカデミー」 VIPコース 547,800円

こんな高額の授業料を支払っても、動画は予定通り配信されないし、添削や質問もまともに返ってこず放置されているという情報も入ってきています。

こんな現実離れした、夢物語ばかりを語る講座を受講せず、本を買って地道に勉強するしかありません。こんな講座にお金を払うくらいなら、「通訳翻訳ジャーナル」の巻末に出ているような、信頼のおける翻訳学校に通ったほうが効率的に翻訳技術を学べます。

【そんなに便利なものがあるなら私たちがとっくに使っている】

最新のAIシステムを使えば数時間数日かかる仕事をわずか数秒、数分でこなせてしまう?そんな便利なものがあるなら私らがとっくに使っているでしょ!!

どうか、目を覚ましてください。

これを読んで目が覚めた方、すでにお金を払ってしまった方、受講を開始してしまった方。まだ間に合います。

返金方法などについて、有志の翻訳者たちが無料で相談に乗っています。
日本翻訳者協会 さぎまがい講座対策委員会までご相談ください。

相談先メールアドレス sagimagai@jat.org

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