小松左京『復活の日』

今日のニュースを見て、しばらく前に読み返した小松左京のSF小説『復活の日』を思い出した。強力な新型ウィルスが世界中に広がり、絶望的なパンデミックの末、人間社会が壊滅してしまうという物語。細かいストーリーはうろ覚えだが、今のコロナ禍の状況とそっくりの世界を描いている作品だと思う。

民衆がパニックに陥ることを極度に恐れ、情報を極力隠そうとする政治指導者たち。現実から目を背け、ウィルスの脅威を過小評価したがる人たちの心理。医療現場で奮闘する人たちの苦悩。どれもこれも小松左京が50年以上も前に、今の世界を見た上で、それをSF小説の形に仕上げたとしか思えないほどだ。うさんくさい予言者の言葉よりもよっぽど正確に今の世界の姿を言い当てている。

それでも、小松左京の予言が外れたことがある。作品では、孤立した南極大陸にいた人たちだけがウィルスの感染を免れた。その南極人たちが力を合わせて人間社会を復活させていくという展開になっていた。しかし、今日のニュースによると、南極大陸でもコロナ感染者がかなり出たようだ。世界中どこにもコロナを避けて逃げ込める安全な場所はなくなってしまった。いや、正確には、日本の近隣国で「コロナ感染者ゼロ」を公言している国があるにはあるが、別の意味であまりそこには逃げ込みたくない気がする。

もう一つ予言が外れてほしいことがある。この作品では、核兵器を大量に保有する超大国の大統領(だったか元大統領だったか)が別の形で世界を破滅に導く。その大統領が、最後の最後まで「たかが風邪のために」と無念の言葉を吐きながら自らの終焉に臨んで、世界を道連れに最終兵器を起動させてしまう場面がある。これが現実の世界で起こらないことを強く願いたい。

コロナ禍が始まってから、改めてパンデミックを扱った小説をいくつか読み返したり、映画も何本か観たりしたが、小松左京のこの予言書のような作品が一番印象に残っている。

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