見出し画像

F井君と僕(突然の誘いにもつきあってくれる彼)

ベトナムから帰国後、noteの更新が滞っている。仕事でパタパタとしていたからだ。

日曜日。やっと休みになった。

といっても、9時から三宮で一般社団法人のスタートアップの打ち合わせという仕事が入っていたのだが、それは友人と組む仕事なのであまり仕事という感じでもない。

日曜日、7時に目が覚めて、ふと思い立ってF井君に連絡した。

「帰ってきたよ。突然だけど、今日の昼くらい時間ない?ランチでもどうかな?」

すぐに彼から返信がきた。

「了解。12時に三宮駅で」

簡潔な返信がいい。

12時前に三宮駅で待つ僕。彼は時間には正確だ。

再開後、挨拶とともに右手を差し出すと、照れたように握り返してくれた。

そのまま手を握って食事に行ったわけではないが、久しぶりに会うと少し照れた。

昼間に素面で人に会うことは仕事以外では照れる。夜でも、素面だったら人と会うのは照れる。(結局、アルコールか…)

「何食べようか?」とF井君。

「F井君とご飯食べるならなんでもいいよ」

「じゃあ、寿司でも行こうか」 

(なんで僕の気持ちが、わかるんだ)

心のなかで叫びたい気持ちになった。

結局、寿司はいっぱいすぎて、名前だけを書いておき、目の前にあった土佐料理店に入ることにした。

「ここで軽く飲みながらまって、二軒目で寿司にしよう」

メニューに一通り目を通すと、僕はF井君にメニューを渡す。

「F井君に任せるよ」

「えーっ…」と言いながらF井君は店員を呼び、注文をし始めた。

「カツオのタタキを。12切れと…」

「F井君、ちょっとまって。タタキは6切れにしてカツオの刺身を6切れもらっていいかな?」

「じゃあ、それで」

と任せた割に口を挟むぼくの傍若無人ぶりを慣れた風にいなしていく。

「アオサの天ぷらとどろめ。後は生ビールを2つ」 

あとのメニューは僕が食べたいものばかりだ。さらに、昼なのにF井君もビールを頼んでくれた。彼はあまり酒が得意ではない。

再会を祝し乾杯の後、粛々とお互いの近況を報告しあった。

「家が売れそうなんだ」

F井君はカツオの塩タタキを取り皿に移しながら言った。

「それはよかったね」

「引っ越したんだ」

「いいなぁ、一人暮らし」僕はビールを飲み干していった。

「マンション?」

僕は店員に手を挙げてビールのお代わりを頼んだ。

「いや、アパート」

「木造2階建?」

「そんな感じ」F井君は塩タタキを口に放り込んだ。

「ごめんね、僕カツオのたたきも好きなんだけど、刺身もあれば必ず頼むくらい好きなんだ。」

「あまり、店にはないよね」

「そしてカツオの刺身は、本当は辛子醤油で食べるのが好きなんだ」

「それはしたことないなぁ」

「今度試してみて。ごめん、話の腰を折った」

「引っ越して半年経った。1階に三部屋2階に三部屋。計六部屋。僕は2階の真ん中に住んでいるんだ」

僕は、なんとなく平面図を頭の中で描く。

「どうやら、女性ばかり住んでいるみたい」

F井君はニヤリと笑った。

「なんだよそれ。」

僕はF井君の顔をまじまじとみた。

「両隣が女性なんだ」

F井君は続ける。

「ちょっとまってよ、F井君。それ、『ちょっと、煮物作りすぎたんでよかったら食べてもらえませんか?』的なあれなんじゃない?」

僕の発言はF井君のツボにはまったようだ。

「ないないないない。それ、遅刻しそうな時に角で偶然ぶつかった女の子が、学校に行ったら転校生で、となりの席になるくらいないし」

そう、即座に返してきた。

「王道としては、そこでパンツ見ちゃうんだよな…最悪の出会いってやつからスタートだよな…」

僕も瞬時にかぶせる。

「本屋で本を取ろうとしたら偶然同じ本を取ろうとして手が触れて『あ…』的な…。それで、『どうぞどうぞ』『いや、そちらこそどうぞどうぞ』ってするくらいないよ」

彼は続ける。

「あ、それね。僕はたまに彼女とやるぜ。運命の出会いごっこ」

F井君は大きな声で笑った。彼にしては珍しい。

僕はその様子を見て満足した。

(たぶん、今日一番、だな…)

「しかし、聞き捨てならないねぇ…」僕は続けた。

「F井君の家のコンロは二口?一口?」

「二口だよ」

「ガス?IH?」

「ガス」

僕はニタリと笑い

「じゃ、次はF井君とこで宅飲みだな。僕が煮物作りすぎるからF井君の隣に持ってきなよ」

「それは、ハードル高くない?」

そう言って何度目かの乾杯をした。

F井君は15時から予定があると言ったが、15時過ぎまで一緒にコーヒーを飲んでくれた。名残惜しそうに…

飲食代も「無事に帰ってきてくれたから…」とポツリといい、全てだしてくれた。

彼といると、僕は彼に何を返してあげれるのだろうといつも思う。何を返しているのだろうと思う。

最後、いつものように右手を差し出すと、最初より強く握り返してくれた。

その力強さ。

それだけでも、その日彼に会えたことが本当に良かったと思う。

























この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?