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D2Cビジネスの現状と今後の展望

OFF株式会社の駒形です。OFF's BLOGという題名でブログを始めます。

CBD、フード、D2C、小売などのテーマで、特定業界のトレンドや国内外のユニークなビジネスの事例を取り上げ、自分達の経験談も踏まえて気づいたことなどを考察していきます。

今回はD2Cについてです。

1. D2Cとは?

D2Cというビジネスモデルが現在注目されています。D2Cの本ではこちらが有名ですが、

D2CとはDirect to Consumerの略で、生産者が消費者に生産した商品を直販するビジネスモデルのことです。

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これまで流通に入っていた卸や小売店を通さず、ECやSNSなどオンラインで直販することで、高い利益率を実現します。

これまで旧態依然とした大企業が持っていたバリューチェーンを破壊し、新しい商品ブランドの展開が進むトレンドがあります。

・直接顧客とコミュニケーションを行う小売業
・蓄積する顧客データを分析する情報通信業
・上記の内容を元に商品を改善する製造業

これら3つの特徴を通して、踏まえると、業態としては情報製造小売業と呼ぶこともできます。

比較的参入がしやすく、早いスピードでPDCAを素早く回して、消費者のニーズに沿うものを作ることで、大企業を追い抜くことができます。

ターゲットは、SNSやECで商品を購買する特徴のあるミレニアル世代(80s-90s生)が中心になると言われています。

図2

これまでの通販と同じじゃん!という人も中にはいますが、

 ・通販  :商品を売る。
 ・D2C  :UX(顧客体験)を売る。

という意味で異なると考えています。

例えば、筆者が以前運営していたサプリメントのD2Cサービスでは

・自分にあったサプリメントを選んでもらうためアンケートに答える。
・専門家が作ったアルゴリズムでWeb上に自分に合った5粒が選ばれる。
・自宅にサプリが届き、綺麗な箱の中に、診断結果が同封されている。
・飲み始めて体調の変化などがあれば専門家にチャット相談できる。
・定期購買なので再度診断を受けて次回は別のサプリを試してみる。

という形で、単純にものを売るだけではなく、購買〜利用〜定着〜リピートまでを見据えた、総合的なUX(顧客体験)の設計によるファン作り、ファンを通じた口コミによる商品の認知拡大で売上を増やしていくのもD2Cの1つの特徴です。

2. なぜ今注目されているのか

一言で言えばインターネットの普及が背景にありますが、3つほど具体的な理由を述べていきます。

①EC化率の上昇

経産省のレポートによると、毎年購買におけるEC化率は増えていることが分かります。諸外国に比べて日本のEC化率はまだまだ低いので、今後もオンラインで商品を買う人は増加していくと考えられます。

経産省の図表1

②EC導入のコスト低減

固定0円で販売手数料のみでECサイトが開設できるクラウドサービス、国内なら「BASE」「STORES.jp」海外では「Shopify」などが台頭してきて誰でも気軽にECを始められる環境が整ってきています。

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製造業がITの知識を身に付け、デザイナーがページ作成などをサポートすれば、容易に自分の店を持つことができるようになりました。

ECと言えば大手のAmazonや楽天に商品を出したら売れるのでは?とまず考える人も多いと思います。テンプレが存在し、備え付けのシステムを運用するだけで商品の販売を開始することができました。

しかし、出店のコストが自社サイト制作による販売よりも高いこと、比較されるので価格競争に陥りやすいこと、独自のブランディングができないことなど、デメリットもあるので最近では離反が起こっているとも言われています。

③共感型購買へのシフト

市場の成熟化により、商品の便利さ、目の前の問題を解決する機能的価値で差別化が難しい時代になってきています。どの商品も「だいたい、良いんじゃないですか?」とは思えても、心が動かないまま購買している人は多いのではないでしょうか。

図1

「低欲望社会」「ミニマリスト」などのキーワードも囁かれる中、ATカーニーの未来の消費者像というレポートでは、消費のドライバーは「便益」から「価値観」へと変わると予測されています。

これまでは商品概要や価格だけを見て買っていた消費者も、今では開発者の思いやブランドストーリーなどを理解して、共感したものを買う流れが来ています。それは4G/5Gによる通信速度の向上やInstagram(画像)やYoutube(動画)など、より情報量の多いWebマーケティングチャネルの発達が背景にあります。

3. 国内外のサービス事例

下記の本にも載っていますが、

ロサンゼルスで、筆者が成功しているとされるD2Cブランドの店舗を視察してきた感覚と本で読んだ考察を元にそれぞれコメントしていきます。

商材は靴です。使っている素材(ウール)のエコロジー・サステナブルさを押し出していました。特段商品の質が高い訳でも無いので「エコなものを買いたいよね」という感覚です。日本で言えば普通の水ではなく「いろはす」を買うような思考回路かと思っています。有名なTech界のリーダーを起点に認知が広まったそうです。

商材は化粧品です。創業後の1年間マーケティング活動を行わず、売上の79%が口コミだったそうです。ファンを作って一緒に商品開発をするなど、顧客へのサービスを徹底しています。また、ステッカーを商品に貼ってインスタ映えする写真を投稿する、UGC(User Generated Contents)を増やす工夫などもしています。

https://www.everlane.com/

商材はアパレルです。商品としてはユニクロやMUJIに近いシンプルなデザインの商品が多かったです。徹底した透明性が売りで、商品原価や生産者の顔をHPに堂々と載せています。「大手企業何でこんな高いの?利益取りすぎじゃない?」と暗に示していて面白いです。

商材はスーツケースです。「RIMOWA」を完コピしたスタイリッシュなデザインにも関わらず安く売っています。「ほとんど機能が同じで価格が安かったらこっちを買うよね」となってしまう消費者の感覚がよく分かりました。

商材はメガネです。メガネをオーダーすると自宅に複数の商品が届き、お気に入りの商品を利用してそれ以外は送り返すという特殊なUXが売りです。また店舗を訪問した時「Ray-Ban」が隣にあり「同じ商品でもリーズナブルに変えるよ」と引き合いに出していました。

日本ではこの辺が有名ですね。

商材毎の傾向についてはここによくまとまっています。


4. ビジネスモデル

1回のみの売切型とサブスク(定期購買)型がありますが、ここではより複雑なサブスク型について解説をします。

D2Cビジネスは1ユーザーあたりの利益の最大化を目指し、KPIは「利益LTV」「CPA」の2つを追っていきます。

・目標
「1ユーザーあたりの利益」の最大化

・公式
1ユーザーあたりの利益 = 利益LTV -  CPA

・利益LTV(販売価格 × 購買回数 × 利益率)
獲得したユーザー1人が申込から退会までの間に支払った売上総額に利益率を乗じた値。LTVとはLife Time Value(顧客生涯価値)の略。購買回数については12ヶ月など期間を定め、平均値を取ります。

・CPA
広告投資によるユーザー獲得単価

下記にケーススタディを載せておきます。

【ケーススタディ】
・販売価格 10000円
・購買回数 3回
・利益率 70%
・CPA 9000円

【計算方法】
・売上LTV
 30000円 = 販売価格10000円 × 購買回数 3回
・利益LTV
 21000円 = 売上LTV 30000円 = × 利益率 70%
・1ユーザーあたりの利益
 12000円 = 利益LTV 21000円 - CPA 9000円

図にするとこんな感じになります。

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1ユーザーあたりの利益を最大化するために重要なポイントは3つあります。

利益率を高く設定すること

利益率があまりに低い状態でスタートしてから、CVが増えてくるとカスタマー対応業務に追われて「忙しいのに全然利益でない」状態になるので注意が必要です。

メーカーとの仕入れ交渉やロットサイズが影響してきます。販売実績やキャッシュがある場合は有利に交渉することができますが、スタートアップの場合はこれらが少ないので、経営資源を徐々に積み上げていく必要があります。

②購買回数を上げること(退会率を下げること)

平均購買回数は下記の式で算出します。

(平均)購買回数 = 1/毎月の退会率

一般的には毎月の退会率から算出します。例えば、100人 → 50人 → 25人 → 13人と毎月50%ずつ退会していくサービスであれば、平均購買回数は2回になります。結論、毎月の退会率を下げることが課題になります。

この式は、毎月の退会率が同じになる場合を仮定して算出する方法です。しかし、実際はそうならないので「売上LTV/販売価格」という式で算出する場合もあります。

③CPAを下げること(CVRを上げること)

CPAは下記の式で算出します。

・公式
CPA = クリック単価(CPC)/ページ訪問者の購買率(CVR)
・CPC
Cost per clickの略で、1クリック50円などで広告運用の際に利用する指標。
・CVR
Conversion Rateの略で、0.5%-1%など購買率(購買者/ページ訪問数)を表す指標。

【ケーススタディ】
・クリック数(ページ訪問数) 1000回
・購買者 10人
・CPC 50円

この場合は下記にケーススタディを載せておきます。

【計算方法】
・CVR 1%
 購買者 10人/クリック数(ページ訪問数) 1000回 
・CPA 5000円
 CPC 50円 / CVR 1%

CPCは広告入札のシステム変更や競合の影響を受ける可能性もあってコントロールしにくいため、CVRをあげることが課題になります。

D2Cの適正なKPI水準は?

あるVCからヒアリングした限りでは、商品の販売価格にもよりますが、このくらいの数字が出せていると、ガンガン広告投資をして、利益を生み出せるKPI水準かと思います。

・利益率 :60-70%
・CPA  :5000-10000円
・退会率 :25%以下


5. 商品リリース後のアクション

1st、2nd、3rdと行うべきアクションに優先順位をつけてみました。順番という意味ではなく、リソースの分配という意味合いでやるべきことをまとめてみました。

1st:プロダクトの改善 (退会率引き下げ)

まずはセールスをしてプロダクトの改善を繰り返し、「欲しいもの」を作ることが第一です。当たり前ですが、まずは発見した課題に刺さっているかを見極めるのが重要だと思います。

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少数でも長期で使ってもらえるユーザー層を特定し、そのユーザーがいるチャネルに絞って販売活動を行い、似た課題を抱えている人へと展開していくと良いです。

Amazonギフト券を配って、ユーザーインタビューをすることなどもおすすめです。この本にも書いてありますが「n=1」の徹底的な掘り下げで見えてくることがあると思います。

例えば弊社で健康商材を扱った際は、まずはLTVの高いユーザーに限定して、下記のようなインタビューを実施したことがあります。

【質問項目】 
 ①プロフィール(年齢・住まい・家族構成)
 ②普段のライフスタイル(仕事・家庭・趣味)
 ③抱えている健康課題
 ④普段の課題解決方法、利用中のサービス
 ⑤商品についての前提知識・知った機会
 ⑥商品を見た感想(欲しいかどうか・価格)
 ⑦商品使用後の感想(効果・利用シーン)

このようなヒアリングにより、ユーザー属性の共通点からペルソナが分かり、挙げられた課題をもとに商品を改善することができます。

・2nd:課金プランのPDCA(退会率引き下げ)

サンフランシコの『SaaStr Annual 2018』という資料からの引用ですが、課金プランがLTVに与えるインパクトは大きく、売上インパクトの影響が大きいレバーです。

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月に50-100くらいのCVがあって、検証できる母数があることが前提ですが、ABテストなどを繰り返してLTVが最大化するポイントを探ることをお勧めします。

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サントリーの例です。通常価格より定期購買価格を安くし、選ぶインセンティブを与えています。継続者が一定数いるので、定期購買の方がLTVは一般的に高くなる傾向があります。

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北の達人コーポレーションの例です。お届けサイクルを3ヶ月や年間にまとめることで退会のリスクが減ります(数ヶ月退会率 0%なのと一緒です)。単価は安くてもLTVは確実に高くなります。

・3rd:広告のPDCA(CVRの向上)

①LPの改善

ランディングページに来た顧客の購買率がより高くなるように特に、1st_view(ページ遷移後にまず見える部分)やボタンなど、ユーザーが必ずみる部分から順にABテストをしていくことが有効です。

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この辺の本などで基本を学び、鉄則にしたがってLPを構成すると、CVRが1.2-1.5倍くらいにはなると思います。

②広告投資による集客

こちらは一般的にCPAが低いユーザー(ニーズ顕在層)から中心に獲得し、徐々に市場が大きいCPAの高いユーザー(ニーズ潜在層)を狙っていくのが一般的です。

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ニーズ顕在層と相性がいいのは、自らアクションを行っているユーザーにリーチできる検索型(リスティング)広告です。

ここである程度、属性(性年代)や刺さるキーワードなどが分かるので、その分析結果を活かして広告を最適化していくと良いです。

その後、取れるユーザー層が見えてきたら、検索型ではなく、プッシュ型の広告も検討していってもいいと思います。

また、効果が出るまでに時間のかかるSNSについては世界的にはInstagramをメインに使っているD2Cブランドが多いです。

特に化粧品など女性のユーザー比率が高い商品ブランドほどSNSフォロワー数は重要です。

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6. D2CからC2Mへ

Casperの成長をみてみると、

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こんな順番で「寝室」をテーマに商品数を拡大していっています。

・1年目:マットレス
・2年目:枕、犬のベッド
・3年目:マットレス(エッセンシャル/ウェーブ)
・4年目:マットレス (ハイブリッド)、ライト

国内上場企業「北の達人コーポレーション」もD2C企業としてみています。

2020年2月の決算資料からですが、

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商品数や1商品の売上規模を増やすことによって拡大していこうとする戦略が見えます。

D2C企業は、「企画 → 製造 → デザイン → 販売」を繰り返して、商品を市場に出し続ける企業に留まるしかないのか?

とビジネスモデルの限界、次の1手をどう打つべきかと問題意識が湧き、調査を進めてみましたが、D2Cの次に来るトレンドはC2Mではないかと予測しており、注目をしています。

C2Mとは、Webなどで受注してから素早く生産して“個客”に届けるパーソナライズした無在庫(受注生産)販売モデルのことです。D2Cに更に下記のメリットが加わります。

・企業
 - 製品在庫リスクがない(原材料の在庫リスクはある)
・顧客
 - 在庫ロスがカットされた分、割安な価格で入手できる。
 - 自分仕様のオーダーメイド商品を入手できる。

そのためには「受注~生産仕様設定~生産~納品」の全てをデジタル化してオンライン連携する必要があります。

例えば、すでにラクスルなどが印刷業界でやっているモデルです。

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印刷と同じように「多様なニーズに対応できること」が今後は付加価値になると考えているので、飲食料品など別の商材に、このモデルが伝搬していくと考えます。

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中国のPinduoduo(拼多多)も既にC2Mを「共同購入」の仕組みと掛け合わせて行っています。

「共同購入」とは例えば、20人の注文があった時点で売買が成立し注文できる。と言うような仕組みです。消費者は他にも購買者がいないと買えないので、即座に欲しいものを買えないというデメリットがあります。

その一方、大きなロットで注文が入るので、生産者側の稼働やCFが安定するので価格を下げることができ、消費者はかなり安く購入できるというメリットがあります。

「即座に欲しいものを買えない」という問題は、ゲーミフィケーションの要素を盛り込むことで解決しているようです。

同社はAlibabaタオバオに次ぐ企業になったそうです。以下のnoteで詳しく述べられています。

D2C事業の運営者は、次に「C2M」の流れが来ることを見据えて事業運営をしていくと良いのではないかと思います。

長くなりましたがD2Cの現状と今後について述べてみました。


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