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【未来予測】昆虫食マーケットのビジネスポテンシャル

早速ですが、昆虫食と聞いて皆さんはどのような印象を受けられるでしょうか?
「気持ち悪い」、「まずそう」といった感想を抱く方も少なくないのではと思います。
しかし、近年昆虫食は世界的に注目を浴びており、将来有望な市場として考えられています。

今回は、そんな昆虫食市場に関して、分かりやすくまとめてみました。

1. 昆虫食って?

昆虫食リサーチ

こちらのスライドで、昆虫食の定義を説明しています。
特筆すべき点は、昆虫食は日本のみならず世界の様々な地域で古くから行われており、現在でも世界人口の1/3が何らかの形で昆虫食を行っていると言われていることです。
また、昆虫食は2013年にFAOから発表された「Edible Insects: Future Prospects for Food and Feed Security」という報告書以降注目を集めるようになっています。

2. 昆虫食トレンドの背景

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昆虫食が注目を集めている理由としては、上スライドのように4点が挙げられます。詳しく個々の背景について説明します。

〜 2-1. 食肉生産によって引き起こされる環境問題 〜

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食肉生産は非常に多くの資源が必要となる一方で、昆虫は飼料の変換効率が高く、肉1kgを生産するのに必要となる飼料は牛肉の1/12程度と、非常に環境に優しい食料と言えます。

〜 2-2. 人口増加と中流層の増加に伴うタンパク質需要の増加 〜

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世界の人口増加や所得の向上に伴う中流層の増加により、タンパク質の需給は2025年ごろには需要過多になると考えられています。そのためこれまでにない新たなタンパク質減として昆虫食が注目を集めているのです。

〜 2-3. 動物性たんぱく質のコスト上昇 〜

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家畜製品の価格はとうもろこしや
大豆といった飼料価格の上昇や需要の増加に伴い、今後大幅に上昇すると考えられており、特に温暖化といった気候変動が発生した場合は10~50%程度上昇すると考えられています。こういった理由からも、代替たんぱく質として昆虫食は注目を集めています。

〜 2-4. 昆虫食の高栄養価 〜

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昆虫食は魚や肉と比べ、良質なタンパク質や人体にとって重要な微量栄養素を多く含んでおり、栄養価・健康への影響において非常に優れていることが分かっています。

前述のように、現在の昆虫食への注目度の高さは環境や健康に対する意識の高まりに起因しており、その流れは今後も続くのではと考えられます。

3. 昆虫食の文化的背景

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では、次に昆虫食の文化的背景について見ていきます。
日本では古くから蜂の子やいなご、蚕が食べられてきました。

①弥生時代からの稲作文化
②養蚕の全国的な普及

の2つが要因となり、害虫駆除及び貴重な蛋白源として昆虫食が広まったと考えられています。しかし、畜産の振興によって家畜から安定的にタンパク質を得られるようになったこと、そして居住環境等の変化に伴う昆虫との接触機会が減少したことが理由となり日本での昆虫食文化は衰退していったと考えられています。

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こちらでは日本における伝統的な昆虫食である、イナゴの佃煮と蜂の子についてまとめています。

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またこちらのスライドでは海外における昆虫食の歴史についてまとめてあります。今回は、日本に文化的影響を多くもたらした中国と世界で最も昆虫食が盛んだともいわれるメキシコについてまとめました。

4. 昆虫食の持つビジネスポテンシャル

続いて、昆虫食の持つポテンシャルに関して見ていきます。

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こちらのスライドは、アメリカにおける食用昆虫市場価値の推定についてのグラフになります。特徴として、現在でも多く販売されているスナック類やプロテインバーの他に、小麦粉代用品としての将来が高く評価されている点が挙げられます。

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続いて食用昆虫の世界市場に関する推定です。
こちらは多くの調査期間が発表しており、推定額も機関によってまちまちとなっていますが、共通している点は平均年間成長率は20%を超えると考えていることがあります。
これは前述のタンパク質需要増加に伴い大きな成長が見込まれる加工肉市場と比較しても、突出した成長率であることが分かります。

また3枚目は地域別の市場予測となります。特にアジア太平洋地域は現在の市場規模、将来の市場規模共に大きく、2023年には4.7億ドルに達すると考えられています。

5. 昆虫食の課題

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一方で、市場全体の成長の障壁としては以下の4点が挙げられます。

①一般の肉と比較して、現段階では非常に高価なこと
②見た目からくる忌避感
③食料としての安全性
④昆虫そのものの持続可能性

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特に昆虫食の価格は、カロリー当たりの価格が牛肉の4倍以上と非常に効果であり、今後の普及において大きな課題となってくると考えられます。
高価格の要因としては、昆虫の養殖技術が未熟なため、狩猟に頼っている状況が挙げられます。一方で後述の無印良品のように、産業的に昆虫を大量生産し、安価な商品を提供している企業も表れてきており、将来的には十分に克服可能な課題であると考えられそうです。

一方で昆虫食が代替食品として一般に受け入れられるための最大の障壁とも考えられているのは見た目の問題があります。これに関しては企業昆虫から作られる飲料の開発やスナックの開発など各企業の努力が問われる分野でもあり、今後どのような商品レパートリーが生まれてくるのかは必見です。

6. 昆虫食の国内外事例

ここからは実際の昆虫食について見ていきます。

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まずは海外における昆虫食についてです。
ここでは代表的な昆虫食として3種類ほど紹介させていただきますが、実際にはもっと多くの商品が発売されており、中にはバンブーワームウォッカのように日本でも購入可能な商品もあるので、興味がある方はぜひ試してみてください。

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つづいて日本における昆虫食についてです。
特に注目すべきは今年の5月に無印良品から販売開始された「コオロギせんべい」です。先ほど述べたように昆虫食は高価な商品が多い中で、一袋190円と低価格であり、安定供給体制が構築されている点が特筆すべき点として挙げられます。

7. 昆虫食の国内外プレイヤー

次に、昆虫食の国内・海外の事業者についてです。

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Aspire Food Groupは2013年に設立されたスタートアップ企業で、2018年には同昆虫食スタートアップのExoを買収するなど非常に勢いのある企業となっており、今後の動向にも注目です。

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昆虫食のカオスマップです。こちらから見ることができますので、詳細に見たいという方はぜひご覧ください。

8. 昆虫食の未来

最後に昆虫食の今後について見ていきます。

まずは、昆虫食企業が現在行っているマーケティング施策を見てみましょう。

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こちらは、先ほど取り上げたAspire Food GroupとAgriProteinという昆虫食企業のHP及びSNSでの投稿になります。

特徴としては、

 ・環境問題や食料問題への意識に対して働きかけるメッセージングがなされている(AgriProteinの「Reparing The Future」など)
 ・直接に昆虫を写すような投稿や研究施設や工場にフォーカスを当てた投稿が多く見られる。

という2点が挙げられます。

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一方、こちらは日本企業(無印良品、ANTCICADA、Bugs Farm)のHP及びSNSでの投稿となります。

特徴としては、

直接に昆虫の姿を写すことはあまりせず、写したとしてもポップな雰囲気をベースとしたり、写真全体の美しさを大切にするなど見た目で嫌悪感を抱かれないような工夫が見られる。

という点が挙げられます。

以上の点や海外と日本におけるマーケティングの違いとして、

 ・日本では、一見して嫌悪感を感じさせないような工夫を凝らし、「昆虫食とは?」といった基本的な内容を説明するなど、社会的に昆虫食が受け入れられるための施策が多い
 ・一方海外では環境問題や食糧問題への働きかけが多く、より社会に広めるための施策が多くなっていることが考えられます

では日本において昆虫食が受け入れられるためには、どういったことが重要となるのでしょうか?

今回は、牛肉が日本で広く食べられるようになった歴史を見ることで、昆虫食普及への鍵を探ってみたいと思います。

「ここでなぜ牛肉?」と思われる方も多いかもしれませんが、実は日本において牛肉が普及した理由として、日露戦争時に戦場食糧として牛肉が食べられたことが挙げられています。よって牛肉が日本に広まったのは明治中期以降なのです。
それまでの日本では牛肉は「薬食い」として僅かに食べられるのみで、特に江戸時代頃までは宗教的理由などから忌み嫌われていたと言われています。

では、牛肉が文化として定着した理由はどういったことがあるのでしょうか?

産業的に飼育する仕組みが確立されたこと等様々な理由があると思いますが、美味しさと食材を見た時にもととなる生き物を想起しにくいことが大きな理由としてあると考えられます。

一つ目の理由は前提のようなもので、納得される方も多い思いますが二つ目の理由はどういった事なのでしょうか?

例として、牛肉を食べるためには自分の手で牛が捌かなくてはならない状況を考えてみてください。その牛肉を食べることに対して忌避感を感じられる方も多いのではないでしょうか。

このように牛肉食が広く広まった要因としては、食材を見てもととなる動物とその加工過程を思い浮かべにくいことが挙げられます。

ここで昆虫食に目を向けてみると、前述のように昆虫食普及の障壁として「見た目の悪さ」がありました。よって商品から素材の昆虫が想起されにくいことが大切になりそうです。加えて普及の最初の段階としてはニッチ市場を狙うことを考えると、今後昆虫食が市場を確立するためには、

①もととなる昆虫がイメージしにくく、
②これまでにない味がする奢侈品として価値を持つ商品が開発される

ことが鍵となりそうです。

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