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アートとオタ活と私

転職活動をしていて履歴書を書く時、もちろん志望動機だとか「書きたくねえ~」と思うものはいろいろあったけれど、地味に頭を悩ませたのが「趣味・特技」欄だった。
無難に「読書・料理」は書いておいたが、正直言うほど最近できていない。読書好きだけど本読む時間取れなくなってきたし、料理だって前ほど手の込んだものは作らなくなった。楽器演奏……もしていたけれど、今もなお趣味と言えるレベルで弾いているものもない。
さて、じゃあ今の私の真の趣味は?というと。恐らくは「美術館へ行くこと」と「オタ活」なのだろう。しかし、どちらも履歴書には書きにくい。後者は言わずもがなだが、前者を履歴書に書くと、大体の場合「へえ~~素敵な趣味ですねえ~」と言われる。「いえ~~……」としか返せない。そして大体の場合相手はアートには興味はなく、世の中には「週末は美術館でアート鑑賞」なんて人種が本当にいるんだなあと思っていることが多い。少し被害妄想が強いかもしれないけれど、少なくとも社会に出てから趣味でつながった人以外はほぼ「素敵な趣味ですねえ~」に「私なんか美術館とか行くことないもので、わからないし」とご丁寧に付け加えてくれるので、そんな妄想を抱くに至った。
美術館が好きだなんて言うと、そんな感じで「なんだかハイソな趣味を持った人」という印象を抱かれるが、自分自身美術館に行くことを「ハイソ」だなんてほとんど思ったことがないし、むしろノリとしてはちょっと違うような気がしている。

今から何年か前、「ダ・ヴィンチ・コード」という小説が流行ったのを覚えているだろうか。ダ・ヴィンチが残した絵画に秘められた謎を解き、一つの真実を導き出すという内容の物語だ。大ベストセラーとして書店に平積みされ、映画化もし、読んだり見たりしていなくても覚えている人もいるだろう。私はあの手合いの物語が大変好きで、恐らくは「秘められた謎を解く」というものにかなり魅力を感じるタイプの人間だ。ただし頭の出来はイマイチなので自分で謎解きはせず、その答え合わせだけでも十分楽しめるタイプでもある。ちなみにダ・ヴィンチ・コードについてはあれだけ「現実に基づく」みたいな書きぶりだったのに、やはりというかフィクションや都合のいい解釈も多いと聞き少し残念に思った。

私がアートにはまった理由はいくつかあり、この「ダ・ヴィンチ・コード」もその一つではないかと思う。ただ当時は謎が付きまとう絵画なんてダ・ヴィンチ作のものしかないと思っていた。テレビの特番でよく取り上げられるのもモナリザだし。

それがひっくり返されたのが高校生くらいのころ、「怖い絵」を読んでからだった。美術史界隈ではやや煙たがられるこの本も、その「美術史界隈」へ私を誘ったきっかけのひとつになった。「怖い絵」は一見怖くない絵にも恐ろしい物語が隠れているとか、いかにも「怖い」ものを描いた絵の解説だとか、絵画を「恐怖」という視点から読み解くという本だ。そこで私が知ったのは、私が思った以上に多くの、ダ・ヴィンチ以外の絵画にもたくさんの謎や秘密や物語が秘められていて、たとえばただの静物画にも実は視覚的なもの以外に伝えたい「何か」があって、そんなものに私は強く惹かれた。ヴィーナス誕生やアルノルフィニ夫妻の肖像という、美術や世界史の教科書に載るような有名な絵にもダ・ヴィンチと同じような秘密が隠されているというのが衝撃で、もっともっとその謎を摂取したかった。
以降、それ以外の絵画にもどんどん親しむようになり、特に現実をやたら美しく、あるいはやたら生々しく切り取った印象派を強く好み、最終的に象徴主義を好むようになった。ちなみに飼い猫の名前のルーツの「ルドン」も18世紀フランスの画家で、象徴主義に分類される。他にも最近はデザイン系やインスタレーションも興味が出てきた。

さて、というわけで印象派や象徴主義、他にも気になる時代や画家の展覧会にはいろいろ足繁く通うようになったのだが、そういうハイカルチャーだからと言って特別何かこう、気取って見に行っているとか、おしゃれな感覚で見ているのとは違うなあ、と思っている。
そう、強いて言えば私のアート鑑賞スタイルは「オタ活」に近いのだ。

また過去の話になるが、私がオタクへ転がり落ちたのはアートにはまるよりさらに前、小学生の頃。ジャンプを読んでいた同級生女子にシャーマンキングを読ませてもらったのがきっかけだった、と思う。私をガチのオタクへ叩き落したのは間違いなく氷帝学園の跡部景吾なのだが。小学生にして今でいう「跡部景吾ガチ恋勢」だった。本当に私の人生を変えた男だった。
さて、跡部景吾は置いておいて、何度かの休止期間を挟みながらも、ほぼ継続して小学生から今に至るまでずっとオタク、特に二次オタをやっている。三次元の若手俳優だの声優だのアイドルだのはいまいち興味がわかず、二次元キャラクターに特に熱をあげている。少年漫画のキャラクターのことも多いが、最近は恋愛ゲームや育成ゲームのアイドル相手なことが多い。
「アートが好き」という前情報を知っている人に、「二次オタをやっている」という話をすると、「趣味の幅が広い」と恐らくはハイカルチャーからサブカルチャーまで守備範囲が広いといった風に捉えられることが多いが、正直この二つの間であまりなにか差や隔たりは感じたことがない。
どちらも楽しみ方がほとんど同じなのだ。

私は二次創作はそこまで嗜まないオタクなので、オタク的な「現場」というと公式とどこかの施設のコラボであったり、劇場版を見るであったり、公式のイベントに行くというものになる。特にアイドルモノなので実際に声優が歌って踊るような「コンサート/ライブ」やあるいは「ファンミーティング」といったイベントがある。2.5次元舞台化したものもあり、舞台に足を運んだこともある。この辺りは3次元のジャニオタや俳優オタのみなさんとも同じような感じではなかろうか。そして元々の作品・人を何かしらのメディアで楽しみ、公式グッズや雑誌を買い、時には少し二次創作に触れ。そんな流れだ。
アートも同じである。アートの「現場」は美術館。元々何かしらのメディアで存在を知った画家や絵画・展覧会に興味を持ち、現場に赴き、公式グッズ(美術館オリジナルグッズや企画展オリジナルグッズ)を買い、図録を買って家で読み返し余韻に浸る。自室の壁には絵画のポストカードと推しのポスターが混在して貼られている。

以前から私はとにかく老若男女問わずすべての人間に美術館に行って欲しい!!敷居の高いところだと思わないで欲しい!!気軽に見に行って欲しい!!!ということをわめいているのだけれど、最近その中でも私のように「謎」「秘密」「隠されたメッセージ」に反応する層はアートはまりやすいんじゃないだろうか、と思うようになった。いわゆる考察厨という人々は絵の中にちりばめられた隠されたものを読み取るのもうまいだろうし楽しいのではないだろうか、と思う。というのも私自身FG●や某文豪異能力バトルアクションのの考察やら様々なアニメのOP・EDの小ネタやらを調べるとき、アトリビュートやアレゴリー(アートのいわゆるお約束的なもの)を調べるときと気持ちが似ているのだ。

もちろんアートの見方なんて人それぞれだ。そういった小難しい考察や解釈は置いておいて、単純にその絵画の美しさや手法、テーマに惹かれるというのも見方として間違っているなんてことないし、むしろ「絵なんかよくわからん」という人はそういう直感的な所から「好きな絵を見つける」という所からはじめたほうが断然楽しいと思う。美術館に行こうという気が起きないという人には「よくわからない(高等な知識を要しそう)」というタイプと「よくわからない(価値がわからない)」というタイプがいるけれど、正直高等な知識や審美眼なんてなくても見て「いいな」って思ったり「これ変だな」って思ったりするだけでいい。美術館にある絵だからすごい絵というわけでもない。本当にすごい絵なんて見る人の心の内で決めたらいい。

考察厨か否か問わず、もしこの文章を読んだ方で美術館・アート、ちょっと気になるなと思った方はぜひ近くの美術館に足を運んでほしい。そんな大きなところじゃなくてもいい、地方美術館で構わない。ただし近現代の抽象画の一部から入ろうとすると本当によくわからないままになる場合があるので、何が描かれているのかがわかる作品を入門編として見て、まずは一つ、直感的に好きだと思う作品を探し見つけるというところからをおすすめします。

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