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秋の追憶

その一

あつい灰色の雲が陽をかくし
すきのないかげが一面に落ちる
明暗のおりなす繊細な模様は
大地の底でまどろんでいる

しかし 雲をすく淡い光は
はっきりとうつしだしていた
うすやみに包みこまれた
ひどく傷つきやすい世界の全てを

……風が山のうえをかけめぐる
生命をおえた枯葉は
褐色の雪となってまい散った

冷たい風が 乾いた枯葉が
しずかにほほをくすぐる
小さな 小さな雨のきざしとともに……

その二

たえまなくそぼふる
秋雨は何かをささやいている
世界を優しく包むほどに
甘く 寂しげな言葉で

やわらかい雨のとばりの中心には
ひっそりと咲く彼岸花があった
あでやかな深紅の花びらから
ささやかな涕をこぼしつつ

それはとおい季節に亡くしたものに
重ねられなかったおもいを 言葉を
とどけてくれるような気がした

――ゆるやかに流れる時の中で
追憶せずにはいられなかった
ぼくのゆくすえを知らない君を!


2020年10月25日作

一言メモ

今回の作品は、ソネット組詩の3作目です。春、夏と続いて今度は秋を詠った作品になっています。「夏の秘めごと」と同様に時の流れの中から詩の核となるものを浮かび上がらせるという手法を採用していますが、前作に比べて暗い翳が落ちた感じ、もっと言えば死の香りが漂っているように思われるかもしれません。”ひっそりと咲く彼岸花” や ”とおい季節に亡くしたもの” という文言から、死の香りを感じるのは当然と言えるでしょう。彼岸花と言うと忌み嫌われる花の一つに数えられていますが、実は死者を大切にする想いから墓地に植えられるようになったと考えられています。と言うのも、彼岸花が生成するリコリンという物質は立派な毒であり、墓地を荒らす生き物を近づけない効果があるからです。そのためかどうかは分かりませんが、彼岸花には「また会う日を楽しみに」などの期待を膨らませる花言葉もあります。よって、彼岸花は決して暗いイメージだけでなく、死者を優しく想うイメージも持っています。このような視点に立って詩を読んでみる(本当は朗読が良いのでしょうが)と、死の香りが翳を落とすだけの存在ではないと感じられるのではないでしょうか。この作品からどのような印象を受けたかをコメントして頂けると嬉しいです。

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