見出し画像

記憶の密室

黄金色の黄昏空を
巨大な墨色の鳥は風の力を仮り
ゆっくりと飛び回っている
塗り潰されてゆく色彩の絵画

それでも闇に埋もれてゆく冬の日は
自然の桎梏しっこくに撓むことなく
光輝く純白の結晶を以て
情緒の片鱗を語ろうとしている
君の淡い光と結晶とは……

内なる霊性は相互に超越を果たし
コスモスの中心で重なり合った
繫がるノエシスは鏡像を生み
私の魂をも浮き彫りにしてゆく

――光に晒されてゆく空間と
透明な場を形成してゆく時間
その世界に関心の眸を向けると
仄かな記憶の旋律が
意識の庭を嬉々として駆け巡る

いつの間にか鍵を掛け
鍵を掛けたことさえも忘れていた
密室の扉が閑かに封印を破る
奥からは幽玄な沈黙の囁きが聞こえてきた

――見失われた想い出
踏みしだかれた思い出

その姿は霧に覆われているものの
魂の気配は慥かに感受され
君が存在していることだけは解る

切望の情緒を抱いている君と
忘却の意識に身を沈めた私
不思議と同じ岸に立ち
愛おしみの眼差しで見詰めあっていたーー


一言メモ

今回も「生命の流れに耳を傾けて」以前の作品を掲載します。この作品の核となるものは、まさに題名にも表われている通り「記憶」です。全体の流れとしては太陽が沈もうとする”冬の日”に”仄かな記憶の旋律”を聞き、記憶の”密室の扉”を開くという流れになります。また、この忘れていた記憶を擬人化させ、その記憶と”同じ岸に立ち”向かい合うというところで詩は締めくくられます。つまり、追憶をテーマにしつつ、風景を眺める中で忘れていたものを不意に思い出すということを描いているのが本作です。普段、私たちは何気ない時に過去のことを思い出すことがありますが、そんな状況を詩で描いています。今作も詩としての完成度は今ひとつですが、コンセプトとしては面白い作品の一つかなと思います。皆さんはどう感じるでしょうか。

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,671件

宜しければサポートをお願いします!