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冬の訣別

その一

冬がかえってきた!
雪はかがやいて光っている
深いしじまをひびかせながら
浮き雲は冷たい空の下を流れる

暖かな春を待つかのように
全てがしずまりかえっている
どこか とおくに流れる川の水は
大きなめぐりの一端を教えてくれる

時はまたたく間に流れ
かつての風景はもうない
ぼくの手を離れた夢とともに

しかし――光や水の精は
昔と変わらない調子で歌っている
あの日を呼びかえすかのように……

その二

呼応するこころの弦が
甘く 切ない調べを奏でる
自然の精とこころのアルモニーは
真冬の景色のなかに溶けこんで行く

夢にとらわれた日々!
それは記憶の底で眠り続け
小さなノスタルジーとともに
こころにかすかな痛みをもたらす

しかし 別れを告げる
時の流れとともに変わった
想いと考えに縛られていた日々に

ぼくは歩みはじめる
かえることのない日と
同じ道を……逆に辿って!


2021年1月23日作

一言メモ

今作はソネット組詩の4作目で、冬の景色を詠ったものです。今作も実際の風景と内的な心象風景を織り交ぜた構成となっており、実際の風景と「かえることのない日」に見た風景が部分的に重なり合いながらも、完全に重なり合うことがないということが暗示されています。現在と過去の心象風景がなぜ一致しないのかを考える際に、「ぼくの手を離れた夢」が一つのキーワードになっていることはお分かり頂けると思います。また、「ぼく」は「夢にとらわれた日々」に郷愁を覚えながらも、その日々、正確にはその日々の想いや考えと訣別してしまいます。そのことを象徴するかのように、「同じ道を……逆に辿って!」という言葉で詩全体が幕を下ろします。一体、「ぼくの手を離れた夢」というものが何を表わしているのか。皆さんの解釈を教えて頂けると嬉しいです。

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