ウイルス 【ショートショート】

「ワクチンは、打ったの?」
「いいや、打ってない。君は?」
「私もまだ、打ってないの。もしかしたら。」
「いいんだ。君にうつされるなら。」
「あなたはばかね。きっとあなたは、うつす側よ。」
「そう・・・。」

欠けた月が僕らを鬱陶しく照らす。雨はまだ、音を奏でない。
木の軋む音。木製のベンチには、湿気が溜まりやすいのだろう。

「あのさ。」
「何かしら。」
「君は、僕にならうつされてもいいと思うかい?」
「そんなのお断りよ。だって、不安。この先どうなるかもわからない。」
「それなら・・・。」

空を暗雲が覆った。雨足は強くなり、うるさく鳴り響く。
少し、見つめあった後、僕らはマスク越しに唇を重ねた。

「きっと、マスクに口紅がついてるよ。」
「それでいいの。」
「少し熱が上がったような気がする。」
「私も。どっちがうつしたのかしら。」
「きっと、お互いにさ。」

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