カメラマン・佐藤さんから学んだこと
旅行ガイドブック編集者として働いていた6年間、最も一緒にお出かけした人といえばカメラマンさん。
編集者は基本、誌面の構成決めに始まり、取材先の選定→アポ入れ→取材→ライティング→入稿→校正を担当するのですが、写真撮影は専門のカメラマンさんに依頼することがほとんどでした。
当時、数名のカメラマンさんと契約してたのですが、先輩も私もお願い回数最多だったのが佐藤さん(仮名)。
巻頭や大型特集ページなど、「ここぞ!」という時にはどうしても素敵な写真が必要となります。
そんな時は凄腕・佐藤さんに頼めば誌面映えはまず保証されたと言っても良し。
風景からモデルを伴った撮影、さらには物撮り(商品撮影)まで実に多岐に渡ってお願いしていました。
佐藤さんは自分の技術に厳しく、私たち編集者の働きぶりにはやや厳しい方で、ご一緒させてもらうとよく「はーらーぺーこー!お前なぁ〜!」と愛ある喝をいただくこともしばしば。
そんな佐藤さんから学んだことが今日の私に生きています。
リフトアップ、照明の手は止めろよ止めろよ絶対に
取材先で編集者はインタビューを行うと共に、カメラマンさんのアシスタント的に動くことも必要でした。
タイミングをとりながらチーズを伸ばす係やお酒にレモンを絞る係になったり、麺のリフトアップ係、時にライティングの調整のため陽を遮る係、照明を当てる係などなど。
佐藤さんは特にライティングにこだわる方でした。
何度かリハーサルしてベストな照明の配置を決めてから撮影される、という手法。
それゆえ私の照明を持つ腕も、麺を持ち上げたお箸もプルプルなんてさせていられないのです。
「お、その位置いいね〜。はらぺこ〜、そこキープしておくんだよ〜」
とお声がかかれば、私は石像になったかのように固まっていました。
季節?関係ないやい!
ガイドブックは基本、季節を先取りして取材が敢行されるもの。
春先だけど夏号の写真が欲しい、冬だけど春の〜…なんて依頼が舞い込んでくるものです。
しかし、ライティングの鬼・佐藤さんにかかれば季節だって自由自在。
雪もまだ残る3月下旬の夏号撮影。
ガンガン照明を当てて強い日差しを演出したり、外の雪が写り込まないような絶妙なアングルで撮影してもらえました。
画像確認の際、「夏感がほとばしっている…」と驚く私に「だろう〜?」とニンマリ佐藤さん。
が、うっかり冬用の膝掛けが写り込んでいたので「あちゃ〜」とか言いながらすぐ再撮したのもまたいい思い出です。
こうした画像確認も編集者の大切な仕事。
良いアングルは自分から狙ってけ
こちらは撮影に必死な佐藤さんを盗撮したもの。
地面に寝そべり狙うは丘の上の「トラピスト修道院」。
パーカのフードに枯葉を付けながらとても素敵に撮っていただけました。
この撮影は比較的時間に余裕があり、近所の漁港で次のアポまでのんびり休憩タイムを取れました。
その漁港にはなぜか猫が沢山いて、
「岩合光昭みたいだろ〜」とニンマリしながら佐藤さんは猫と私の5ショットを撮ってくれました。
地面スレスレにスマホを抱えて撮りまくる佐藤さん。
そんな姿に触発され、アドバイスを受けながら私も猫カメラマンに!
束の間の猫撮影タイムだけではなく、佐藤さんは取材時に余裕があると「どうしてこういうアングル・照明で撮るのか」「この写真のポイントは」を解説してくれました。
この教えは他のカメラマンさんとご一緒する時の指示出しや、自分の趣味で写真を撮る際にとても役立ちました。
たたじゃ終えない、何かは得て帰る
撮影技術だけでなく、仕事に対するプロの姿勢もたくさん間近で見せてもらえて本当に良い経験でした。
ある時、東京から来ていた出版社の社員さんが佐藤さんの撮影を見学する機会がありました。
その時の一言がまさにそれ。
「佐藤さんはどの現場でも絶対に何かを得て帰っている。一見、撮影が難しいようなポイントでも、絶対にきらりと光る写真を撮ってくれている」
諦めず粘り強くスポットの魅力を探してはカメラに収める佐藤さん。
納品いただいた素敵な写真を前にするといつも「この写真にいい文章を、コピーを綴ろう」と気が引き締まったものです。
今ではもう編集業から退いてしまい、佐藤さんにお会いする機会もないのですが、カメラを手にすると必死に食らいつくように取材をご一緒していた頃が思い出されます。
何かの魅力を全力で伝える気持ちは佐藤イズムを引き継いだ者として忘れたくないものです。
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