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反戦を貫く朝ドラの登場人物

NHKの朝ドラこと「連続テレビ小説」の登場人物の多くが、あまりにも一貫して反戦スタンスをとることに違和感を持った話。

戦争の被害者として描かれる主人公達

思い出せば、朝ドラには太平洋戦争をまたぐものが多い。今日の日本の礎を築いた偉人をモチーフにした作品となれば、活躍した時代から逆算すれば戦争を経るのは自然だろう。

2021年現在ある104作品を遡ってみて、現在放映中の「おかえりモネ」こそ舞台は現在だけど、観たことのあるドラマのいくつかは戦争の描写が思い出される。正直言うと、暗い気分になるドラマを朝から観るのが苦手で、「うげぇ...」となった印象が強く残っている。

戦時中に突入した登場人物の多くが、ひっそりと反戦スタンスをとっていたり、非国民と批判されながら活動を続けたりと、戦争の被害者として描かれている。大きな力で抑えつけられて仕方なく戦争に巻き込まれ、傷付きながらも戦後の焼け野原から這い上がるというパターンが多い。

確かにモチーフとして選ばれるような偉人は、一般の人と比べて「先見の明」があったり、時代を先取りした考え方を持っていたりすることはあるだろう。

それにしても、繰り返しこのパターンばかりを観ると、「本当に当時の世相を反映しているのか?」「現在の価値観による後出しジャンケンではないか?」なんて思ってしまう。そこまで皆が意思を持って反戦できていたら、戦争は起こっていない気がする。

戦争描写が特異的な「エール」「おひさま」

裏付けになるようなものはないか調べていたら、似たような論点について言及されている記事があった。

「朝ドラで戦時下を過ごした主人公は30人越え」など定量的に示されている。私が思ったほど「戦争ばかり」ではないけれど、そこそこの数はある。

NHK出版の編集主幹・加賀田透さんは「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説エール Part2」を出版するにあたって、「“戦争に協力していく主人公”から“戦後になって、それを乗り越え再起する主人公”の姿を逃げずに描こうとしているのは、朝ドラ史上でも画期的なことだ」と感じたと言う。

2020年前期 102作品目「エール」にしてようやく「戦争に協力してゆく主人公」が描かれたという話を裏返せば、それまでは能動的に戦争に巻き込まれるよう描かれる話が多かったとは言えそう。

別の資料として、台湾の先生が日本のマスメディア研究として発表している論文があった。朝ドラが研究対象になるんだ!と新鮮だった。

2011年前期 84作品目「おひさま」では、誇らしげに兄を送り出す描写など、戦争が肯定的に描かれている点で異質だったと述べられている。背景として東日本大震災があり気分が沈むため、ドラマの世界くらいは明るく描こうという配慮があったと考察されている。ともあれ裏返せば、それまで朝ドラの登場人物は反戦することで一貫していたのだ。

信じてしまうことが恐ろしい

大人の事情を想像するに、公共放送として戦争は忌み嫌うべき存在として語らねばならない。朝ドラの登場人物は、画面の向こうにいる現代人から愛されなければならない。

登場人物には現代人が気分よく感情移入できることが求められるため、国家を信じて戦争にのめりこむのでなく、反戦の態度を貫く方が都合よいのだろう、というのが私の憶測である。

もし特異的に描かれた作品を皮切りに、朝ドラの登場人物が戦争に迎合する傾向が進んだとしたら「日本が戦争に向かっていて危険だー!」という話になるだろうか?...私は違うと思う。

むしろ、ちゃんと判断ができそうな知識人であっても、戦争にのめり込んでしまうのが本当の恐ろしさである。強い絶対君主から抑圧される筋書きよりは、群集心理が暴走して戦争に向かう筋書きの方がリアルさがあり、歴史が繰り返してもおかしくない意味で恐ろしさが伝わる。それを朝ドラで観たいかは別の話だけど。

共同幻想まで掘り下げるアプローチ

そんなことを考えるキッカケになったのが、吉本隆明先生による「共同幻想論」であった。原著は難解さに定評があるので、100分 de 名著シリーズで読んだ。

のちに偉大な哲学者となる吉本先生をもってしても、戦争にのめり込んでしまった。敗戦を期にそれまで信じていた共同体が崩壊し、自己嫌悪さえ抱く状況に叩きつけられる経験を機に「共同幻想とは何か?」「信じるとはどういうことか?」「国はどうあるべきか?」という問いを立てて、生涯をかけて追及する。実話ながら、こちらの筋書きの方が腑に落ちる。

もし、戦争について描くことが課せられるのであれば、残酷な印象を植え付けて距離をとるアプローチをとることも一手ではある。それとは別に、なぜそのような状況に陥ったのかを深堀りして、誰にでも起こりうることを突き付けて、どのように在るべきなのかを説くアプローチもあってよさそうに考えた。

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