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8K動画をつくった話

8K動画をつくってYouTubeに投稿したり、店頭テレビで上映したりした奮闘記を書き残す。実際に作ったのはこういう動画。

この記事に貼っているのは私の担当分から抜粋しているが、社内外の複数人で協力してつくりプレイリスト公開している。
https://www.youtube.com/watch?v=XVQFPBYSydA&list=PLwvbYo36stcTSOt7i5prOxsA3jTcS6Szt

お仕事の話なので怒られたら消す可能性もあるけれど、むしろ8K動画に関心を持つ作り手が増えた方が望ましいため、「世の中に浸透させる意味では必要なことだ」という信念で書きはじめた。

そもそも動画をつくるって?

この節は8K関係ない動画づくりの話。一口に「音楽やってる」と言っても、ロックかジャズかというジャンルによる分類もあれば、打込みか演奏という機材による分類や、スタジオ録音かライヴ演奏かという分類もあって、様々な切り口からの分類が挙げられる。

同じく「動画をつくる」についても分類しだすと多岐にわたり、「オマエの言う動画制作はオレの動画制作と同じか?」みたいな話になるだろう。便宜的にこの記事では「動画編集」と「視覚効果」という切り口で分けるとこう。

動画編集:動画素材を切ったり貼ったりして時間軸上に並べ、長時間の動画をつくる。Adobe製品で言うとPremiere Proでつくる。
視覚効果:効果やアニメーションをレイヤー状に重ね合わせて、インパクトある短時間の動画をつくる。Adobe製品で言うとAfter Effectsでつくる。

映画やテレビ番組では両者が組み合わせられることが多く、冒頭やCM前後のジングルなど要所には視覚効果が駆使されて、他の映像素材と一緒に動画編集によって一本の作品ができる。

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このタイトルで「8K動画をつくった」と言っているのは、一部は視覚効果もあるものの、カメラで撮った素材の動画編集がメインになっている。

いわゆる「3点編集」と呼ばれる、①素材のどこから(IN点)、②素材のどこまでを(OUT点)、③完成動画のどこに置くかを決める作業である。それほど凝った事をしなければ、意外でも8Kでも出来たという話。

8Kってなに?凄いの?

「K」は「だいたい1000くらい」の意。重さ1kgは1000gだし、データ容量1KBは1024Bみたいなイメージ。つまり8Kは8000くらいだよという意味になる。何の数かというと、画面横方向に並ぶツブツブの数が8000個くらい(厳密には横7,680×縦4,320)という意味になる。

馴染みのあるテレビ放送で言うと、2018年に放送開始した4Kや8Kと比べて、2011年に完全移行した地上波デジタルはフルハイビジョンこと2K(横1920×1080)だった。2K→8Kの進化であれば4倍に思えそうなところ、縦と横の両方が4倍になるので、ツブツブの数で言うと16倍になる。

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↑この画像は視覚的に解りやすい。ただ、8Kの魅力は訴求しているものの、サイネージ広告の解像度は2K程度で、2Kで8Kの魅力を伝える困難がある。

「解像度」の他にも規格上は表現できる色の領域が増えたり、音のチャンネルも増えていたりする。結果として、8KをRAWで撮影すると1分あたり20GBとか、置き場所に困るくらい凄い容量になる。カメラで一瞬に記録すべき容量も大きいため、高速に書き込める記録媒体が高価だったり、カメラの熱暴走や電池消費で撮影時間に制約がある。見た目は普通のミラーレス一眼なカメラで8K動画が撮れるようになるも、実際に挑戦するとまだまだ不便が多い。

そんな苦労を経て8K動画をつくるって観る体験すると、やっぱり凄い。言葉に落とし込むと「圧倒的な精細さ」みたいな手垢の付いた売り文句になるのが勿体なく思う。祖母の誕生会動画を観た人が「自分も招かれてテーブルに付いたのを追体験しているようだ」と言ってくれた。画面というよりタイムマシーンなんだ!そんな原体験を持って取り組んでいる。

2Kで観ても何の変哲もないホームビデオなので、ぜひ8Kで視聴してほしい!YouTubeだと設定から縦4320p(つまり8K)が選べる。ただ、観る環境が少なくて「どこで観れる」と言えないのがもどかしい。

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つくったところで観られるの?

苦労して8K動画を作ったところで、視聴する8Kテレビを持っている人なんて富裕層しかいない。それを言い出すと「8Kで観る環境が無いから8Kコンテンツをつくる意味が無い」⇔「8Kコンテンツが無いのに8Kテレビを買う意味が無い」の因果関係が循環する卵鶏問題となって、いつまで待っても8Kの時代が来ない。

では、どのタイミングで8Kに手を出すのが適切なのか?...で言うと、アランケイ先生の言葉を引用しつつ、「予想するのはやめて、自分で創ってしまおう」しかない。

未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである。

そんな取り組みが他のクリエイターにも波及すれば理想に思う。そのためには、自分が熱量持って実践しなければならない。映像を作るスキルが拙いのは誤魔化しようもないので、テーマに据えた「私は○○が好き」には偽りがない。自分が心から好きな対象で動画をつくった。観る人を圧倒する絶景映像ではないので、「それくらいなら自分の方が上手く作れるわ!」くらいに思っていただければ幸い。

8K動画の制作過程

世の中に出た8Kカメラ、8Kスマホ、試作機などを確保して、緊急事態の合間を縫って撮りに行った。8Kスマホでの撮影風景についても8Kスマホで撮って動画をつくった。過程としては撮影→カット編集→色調整→8Kテレビで確認して手直しとなる。

編集作業としては、Adobe Premiere Proを使用した。2017年くらいに導入した少し型落ちのワークステーションながら、素直な3点編集であれば普通にこなせる。Premiere Proが賢くて、明示的にプロキシを作らなくても、編集中は軽い素材に差し替えてくれている感じがする。

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あとは、形式「HEVC(H.265)」でプリセット「8K UHD」をいったん選び、ビットレートを80(媒体からテレビ再生用)~160Mbps(ワークステーションから再生用)程度に設定すれば、そこそこ綺麗な8K動画が書き出せる。

8K動画をつくる上で苦戦したこと

まずはフォーカスがシビアであること。撮影した時にはファインダーや本体液晶でしか見れない(せいぜい2K)ので、撮影時はピントが合ったつもりでいても、持ち帰って60~120インチの8Kで確認するとピントが合っていなかったりする。外部モニターを使うか、拡大機能を使うか、心眼で合わせようと試みる。普段マニュアル撮影しているスキルが役立ったりもした。

それから、ノイズが出やすいこと。解像度が高いということは、センサー上でツブツブを詰めて配置することになり、画質は不利になる。ISO感度にして1000を超えたものを拡大して観るとザラザラになってしまうので、暗いシーンは苦手。とは言え、絞り開放で背景をボケさせるのも8Kの意味が薄くなるし、シャッタースピードは30fpsの1/30秒を超えられない。なるべく明るい環境で撮る方が有利。

表現として8Kである意味と動画である意味の両立が難しかった。被写体が動くもの(動物や風に揺れる木々)ならばよいのだけれど、静物だとカメラ側が動くしかない。しかし、下手にパンを振ると映像がブレてしまい、わざわざ8Kで撮っている意味が無くなってしまう。ジンバルを持って方向は変えずに視差を出す撮り方は、遠くの景色が動かないので割と上手くいったと思う。

8Kの視聴環境から逆算したコンテンツづくりもある。70インチ程度の画面から4~5mも離れてしまうと、よっぽど視力の良い人でなければ4Kでも8Kでも精細さの区別が付かない。8Kの意味がある視聴方法としては、画面から2m程度の距離で、没入感を味わうことになる。
このような視聴環境から逆算すると、派手なカメラワークやトランジションは観ていて酔うとか、ディープフォーカスで撮っても見る人が注目した点の外が視覚的にボケて楽しめるとか、周辺に置いた要素は見えないとか、いくつかのTIPSが得られる。表現に関しては、まだまだ模索中。

少し凝った処理をするとレンダリング時間が長くなることも苦労した。具体的には、色補正(カラコレ、カラグレ)やノイズ除去などをすると、1~2分の動画をレンダリングするのに、ワークステーションを丸一晩ナイトランさせることになった。後処理で頑張るより撮りなおした方がはやい。良いグラボを装備してればマシかもしれないけれど、締め切り間際に大画面で観て修正点に気付くと焦る。

企業の動画として使う上で苦労したこと

この節も8K関係ない話。近所で試し撮りする分には無頓着だったけれど、いざ企業のYouTubeに投稿するとなると「その映像は使って大丈夫なのか?」が厳しい目で見られる。人が映っていたら肖像権、作品が映っていたら著作権、商品が映っていたら商標、撮影場所についての許可なんてのもある。

著作権に関して、誰かの作品が画面いっぱいに主役として映り込むのはNGだけど、屋外に置いてる作品が映り込むくらいだと大丈夫っぽいと読み取った。詳しくは文化庁の文章を参照。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

場所に関してはそれぞれ管轄が異なるので、いろんな場所にわたると骨が折れる。
・商用施設などはWebに書いてあったりするので解りやすい。撮影料数百円とかで済むとクリアなので解りやすい。
・公道で撮影するには、事前に管轄の警察に届ける。どうやら道を塞ぐロケくらいの想定で、ジンバル持って歩くくらいだと慣例的に大丈夫っぽい。
・神戸市内の公園で撮影するには、事前に申請して6万円/月をおさめる必要がある。私用で子供をスマホ撮影している人は多いけど、生業としてやる時は注意。
・都賀川は県の管轄で、電話して聞いたところ「他の人の顔とか映らなければいいよ」ということだった。

ローカルネタながら一括りに商店街と言っても、水道筋商店街と灘中央市場では管轄が違い、「八百屋のおっちゃんが組合長だから直談判してみて」みたく地道な直談判があった。

8Kが当たり前になったら読み返したい

タッチポイントとして量販店のテレビで流すとなると、絶景映像に劣って見えてしまう問題があった。混同されない工夫としてプロモーション風の挿入映像に仕上げて、上映にこぎつけたのが冒頭の動画。

人知れず量販店のテレビで上映されたり、YouTubeに漂っていたりする。それほど反響は大きくなかったけれど、社内フリー素材・ストック素材みたくじわじわと活用されはじめている。

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先日ようやくYouTube動画が8Kで再生できるテレビのリリースがあり、少しづつ8Kの環境が整ってきた。8Kが当たり前になった時にこの文章を読み返すとエモい気持ちになるかもと想像しながら、この記事を投稿する。


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