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お金を払って学びに来る人の方が満足度が高いという仮説

サービスデザインでマネタイズの重要性を説く時に引き合いに出される極論として「満足度を上げるだけなら無料にすればいい(そうでなく、お金を払ってでも欲しい価値を作り込んで持続できるようにしようの意)」みたいな話がある。その反例にあたる「無料よりも有料の方が満足度が高いこともある」について考察する。

事の発端はアンケート分析から

オンラインの教室をお手伝いしていて、配信のシステムを組むところから、アンケートとって改善を回して、イベントの運営や企画に反映するところまで取り組んでいる。普段は有料で開催するところを、集客のためにお試し無料開催することがある。

運営が安定してくるとサービスの質に差は無い筈なのに、アンケートの評価は無料教室よりも有料教室の方が評価が高い傾向がある。無料教室だと4段階中の3が最頻値なのに、有料教室だと4が最頻値になるくらいのイメージ。この現象について仮説ながら、あれこれ考えている。

払った分を取り返す姿勢が学びの満足度に繋がるのかも?

初めてギターを買う人へのアドバイスとして「5万円以上のギターを買え」という話がある。その心は、5万円だとドブに捨てるのが勿体ないので続けようとする力が働くというもの。雑誌の最後に付いてるアンプとかコミコミで3万円のセットだと、挫折しても諦めがついてしまうところ、自分を追い込むことで習得への意欲が高まる。

これと同じようなことが、有料の教室でも起きているのかもしれない。お金を払う人は学ぶ意欲が高く、主体的に取り組んで質問をして、多くのことが吸収できて、結果として学びの満足度が高まるという仮説。

参加者の行動が他の参加者の価値になるサービス特有かも?

オンライン教室と動画配信の差別化をはかる仕掛けの1つとして、参加者の質問にその場で答えるという相互のやり取りをしている。質問の背景を読み解くと「そんな使い方をしている人もいるんだ!」という、他の人にとって学びになることが沢山ある。

一期一会のライブ感を手に入れようとする代償として、他の人にとっても興味を引く質問が来る保証は無いので、質疑の質がばらつく。そこに有料というゲートを設けることで、能動的に学びを得ようとする人の密度が高くなり、鋭い質問が飛び交い、受動的に参加している聴講者にとっても面白い内容になるという仮説。

tataさんが「サロンを有料にした理由」で挙げていた1つ目の内容はものすごい共感できる。安全対策というのも、集まってくる他の参加者によって生み出される価値と言えるだろう。

意外と探せば身の周りにたくさんあり、有料バイパス道路は同じ道路なのに有料なだけですいていて快適に走れる(これは質でなく量の話)。有料ラウンジは座って休むだけなのにハイソな気持ちになれるたりする。有料ゲートがあることで、参加者が選別されて、別の参加者の満足度を高めているサービスはあるだろう。

「闘争」としてのサービスかも?

過去に聴講したことのある京大の山内裕先生の著書『「闘争」としてのサービス』から拝借。大将がカウンターで握ってくれるような高級な寿司店になるほど、親切なメニュー表を置かず説明なく業界用語で聞かれてサービスがドSになるという話。

その心は、サービスを良くしようとへりくだると、相手にとってちっぽけな存在になってしまい、親切にされたところで価値を感じないというメカニズムだったように覚えている。

もともと「高級 ⇒ サービスの質が下がっても満足」という主張を拡大解釈して、論理的には逆ながら「同一サービス ⇒ 有料の方が満足度高い」みたいなことが起こりうるという仮説。アプリ開発している人からも、無料アプリに対する要望は我儘で、有料にした方がコメントに愛が感じられるという話を聞いたことがある。

ファンベースだからこそ有料で頑張る

物売りのメーカーが販促としてオンライン教室やっているという捉え方をすれば、教室そのものは販促費に含まれているんだから無料にして1人でも多くの人に参加してもらうのが良いだろう。アンケートでも「販促なら無料でやればいいのに」と書かれたこともある。

別の捉え方として、「ファンベース」活動としての位置付けがある。バズらせて大人数に露出することを目指すのではなく、少人数でも心から好きで熱狂してくれる人を大事にするという考え方。熱量が高いので、身の回りの人にオススメして連鎖してゆくという広がり方をする。

前者のパラダイムに立つと、そこそこ大きな企業が10~20人を相手にオンライン教室をやるのは無意味と言う話になってしまう。そうではなく、後者の「ファンベース」のパラダイムに立つと、少人数でも熱量を高めることに意義があると言える。有料で全身全霊を尽くして教室を提供し、販売促進ではなく、既に買ってくれた人の体験をアップデートする教室運営を目指したい。

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