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【映画感想文】ゴッズ・オウン・カントリー とても美しい映画

こんばんは。

映画「ゴッズ・オウン・カントリー」を観てきました。

神の恵みの地 = God's own country と呼ばれる、イギリスのヨークシャー地方を舞台とした作品です。

めちゃくちゃ良かった。べらぼうに良かった。
とてつもなく美しい映画でした。

!ここから先はネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意ください!

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主人公はジョニーという青年です。
彼は父と祖母、3人で経営している寂れた牧場を一人でなんとか切り盛りする生活を送っていました。

父は足が悪く杖をついて歩くのが精一杯のため、家畜の世話は全て彼がしなければならない。

そんな田舎の閉塞的な生活から目を背けるように、ジョニーはゆきずりの男との行為を繰り返し、酒浸りの日々を送っていました。

そんな中、牛が死産をしてしまい、父親の判断で短期労働者を雇うことになります。

ゲオルゲというルーマニアからやってきた青年は、家畜たちを慈しみ、ジョニーにも優しさを向けます。
初めはゲオルゲに対して、やり場のない感情をぶつけていたジョニーでしたが、徐々に心惹かれていきます。

本当の愛を知ったジョニーは少しずつ変わっていきますが、父親が倒れたことをきっかけに酒を煽り、他の男性と関係を持ったところをゲオルゲにみられてしまいます。

愛想をつかしたゲオルゲは農場を飛び出してしまい、また彼は一人になってしまうのでした。

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最近観た映画、いや今まで見た映画の中でもダントツに台詞が少ない映画だったと思います。

余計なセリフは何もないし、状況や感情を説明するような言葉も何一つ発せられない。

なのに、映像だけでこんなにもいろんなことが伝わってくるもんなんだなと改めて感嘆しました。

ポツンと佇む石造りの家に、夜が開け始めてポツリと灯りが灯るシーンから映画が始まって(結構長めのシーン)、そのあとジョニーが吐いてるシーンに切り替わるんですね。
もうそれだけで、なんか薄ら寂しい田舎でこの青年は閉塞的な毎日を送っているんだろうなということがわかる。

そして、その後もところどころヨークシャーの素晴らしい景色の映像が流れるんですが、太陽光が少なくて、美しいんですけどずっとなんか寂しいんですよね。

セリフの少ないこの映画で印象に残っているセリフもまさにそれで、ゲオルゲが「ここは美しいけど、とても寂しい」と言います。

話がちょっとずれるけどトレインスポッティングでも、イギリスのすごい綺麗だけどなんか寂しい風景がでてきたことがあって、
ユアンマクレガーたちがそこでなんかやり場のない思いを吐き出してて、
イギリスってなんだかそうゆう国なのかなと思ったのを思い出した。

さて、そのようにとんでもなく映像の美しい映画なんですが、
ジョニーとゲオルゲもとんでもなく美しかったです。

目から、表情から、仕草から、
あ、今この人を好きになったんだなとか、少しずつ惹かれていってるんだなとか、愛おしいんだなとかが全部伝わってくる。

特にジョニーが、だんだんゲオルゲに惹かれていってるのがすごいわかるんですよね。
わずかに口元が緩むようになったりとか、ゲオルゲに送る目線とか。

お互いに気持ちが通じ合った後は、もはや別人なのではと思うくらい、なんだろう顔が柔らかくなってて驚いた。
最初は生きた死人のような顔をしていたんですよ本当に。

この映画、2時間ずっとセリフなしでもまじで成立したんじゃないかと。
それくらいすばらしかったです。

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最後は、ジョニーがゲオルゲを連れ戻そうと迎えにいって、
自分の気持ちを正直に伝えて、農場に二人で戻るところで映画は終わります。

日本人しかも今サラリーマンとして日々を過ごしている私には、背景として完全には理解できていないテーマがたくさん含まれている作品でした。

まずこれは男性同士の愛の話であるし、昔ながらの家族経営で農場を続けていくことの難しさの話もあるし、ゲオルゲがいっていた「俺の国は死んでいる」という言葉の通り祖国を離れて出稼ぎに来なければならない彼の事情の話もあるし、たくさんの問題をテーマにしていると思います。

しかし、やはり愛の話だと思いました。

一時期、羊たちのお産のためにジョニーとゲオルゲが山にこもるんですが(その時に二人は結ばれます)、一匹死産してしまうんです。

ゲオルゲは、黙ってその子羊の皮をはいで、ベストのようにして別の子羊に着せてあげて、母親の元にその羊を置いてあげるんですよ。

命と毎日向き合っている人にしかできない、命を慈しむ行為だなと思いました。
それを見るジョニーもとても優しい目をしていて。
ゲオルゲはとにかく愛に溢れている人なんだなと思った。

だから、ジョニーも彼に惹かれたんだろうと思う。

ジョニーは、彼とこれからの人生を変えて幸せになることを望んだ。
そしてゲオルゲはそれに答えた。

ずっと厳しかった父親が、ゲオルグを迎えにいくといった時にジョニーに「それでお前は幸せになれるんだな?」的なことを言うのもとんでもなく愛だった。
どんな形でも親子の間ってやっぱり愛があるんだよなあ。

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これが男女の恋愛だったらどうゆう話になってたんだろうと思ったんですが、そうだったとするとなんだか陳腐なラブストーリーになってしまう気もして、でも男女だとなぜそうなってしまうのかは自分の中で答えがでませんでした。

私の固定概念な気もする。そこはまたちゃんと考えたい。

とりあえず、とても美しくて愛に溢れた、幸せな映画でした。

個人的には最近観た映画の中で一番良かったです。
細かいこと何も考えずに観ても、美しくて映像だけでも楽しめると思います。

後半になるにつれて少しずつ映像に、ジョニーの顔に光が刺してきて、こちらの気持ちも明るくなっていきます。


それではまた〜

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