遠くて近い遥かなあなたへ
あなたに逢わなくなってもうどれぐらいになるのか、時折り考えることがあります。
洗濯物を干している時、取り入れている時、買い物の行き帰り、散歩の途中、数え上げればキリがないかもしれません。
それは、思い出そうとしているというよりは、ふわっと舞い降りてくるようでもあって、確かにあの数年間、あなたのことばかりを考え、あなたのことばかりを追いかけていたあの日々のように、ごくごく自然に私の内側から滲みだしてくるのです。
どれだけ綺麗な言葉を連ねても、どれだけ上手に絵が描けたとしても、たぶんあなたそのものには到底及ばないということは、私が一番よく知っています。
思い出すことすら辛くて、あれだけ沢山撮った写真も見返すこともないままに、フォルダごと処分してしまいました。 私の手元には今、あなたを思い出す縁となるものが何一つ形となって残ってはいません。
そうです、それを選択したのは私自身ですから、誰を責めるわけにもいかないことも解ってはいます。それはもう充分過ぎるほどに。
自業自得だとあなたは笑うのでしょうか。もし、あなたがそれを笑うのなら、せめてその音が私のところまで届けばいいのに、とさえ思っています。
雨の日は雨の日なりに、晴れの日は晴れの日なりに、寂しい時も楽しい時も、あなたは変わらずそこにいてくれました。春も夏も秋も冬も…。
暖かく見守ってくれている時もあれば、それこそ、少し冷たくはないですか?と思うことさえあったけれど、あなたには何の罪もありませんでした。
そう、私があなたの気持ちを勝手に思い描いて想像し、決めつけていただけなのです。あなたのせいではないのです。一方的に私の気持ちを押し付けていただけなのです。今振り返っても、本当に申し訳ないことをしてしまったと思います。あなた由来ではない気持ちや思いを、すべて背負わせ置き去りにすることで、私は前に進みたかったのかもしれません。
今になって思うのです。あなたがいつもそこにいてくれた有難さを。
辛くて哀しくて、思い出さないようにギュッと硬く閉めたつもりの蓋が、緩み出したのはいつ頃だったでしょう。
でもそれは、とても大きな間違いのような気もしています。意識の底の奥底で絶えず思い続けていたものが、少しずつ少しずつ沁み出していたことに、私自身が気づかなかっただけなんだろうと思います。
あなたに逢いたいと思う時、ほんのすこし顎を上げるようにしています。そこには、縦横無尽に走り交わる黒い電線と立ちはだかる高いビルの壁しかありません。でも、ここをずっとずっと辿っていけば、あなたに逢えるのかも知れないと、私は今そんな風に思えるようにもなりました。
あなたに逢えなくなってどれぐらい経つのかを考える時、あなたを取り巻く環境はどんな風に変わったのか、私の知らないこともたくさん増えてしまっているのだろうと、寂しい気持ちになることもあります。
今はまだ、あなたに逢いに行くまでの勇気は持てないでいるけれど、きっと必ずあなたの下で微笑みながら歩ける日が来るとも今は思えます。
それまで、待っていてくれますか。
大好きだった、そして今でも大好きな広く大きな空を湛えた飛鳥の野
飛ぶ鳥のあすかの里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ 万葉集1-0078
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水野うたさんの 【企画】#あなたへの手紙コンテスト に参加させて貰ってます。
手紙・・・手紙・・・とつぶやき続けること数日。人間宛には書けないなぁとなって、あれこれ考えているうちにこんな風になりました。
飛鳥は好きです。何処が好きなんだろうと、ウンウン唸って考えた結果、色んなものを全部含めた「空か!」となった次第です。
最後にくっつけた万葉歌は、書き終えた後に「飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば・・・」のところだけふわっと思い出したからってだけです。「置きて去なば」が、それっぽいなと。
持統天皇だと思って確認したら、元明天皇説が有力だとあって軽くショックを受けてます。覚える道は遠けれど、忘れる道のこの早さ…。
企画の趣旨にあってるかどうか分かりませんが、手紙からの連想ゲームでの産物ということでご容赦を・・・
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