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北村直也『男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け』について語っていました。

(北村直也)映画の取材で1週空いちゃいましたけれども。

(町田和美)あいちゃいましたね。しかも、今日は広瀬さんもちょうど戻って来られました。

(テンパープラザ広瀬)ほんとにご無沙汰しておりまして。

(北村直也)お元気そうで(笑)

(テンパープラザ広瀬)相方に取られちゃうかとそればかり不安で。

(北村直也)Twitterで知ったんですけど、手術までされたんですね。

(テンパープラザ広瀬)いやもう、ほんと大変で。

(町田和美)時期が時期でしたからね。

(テンパープラザ広瀬)いいお医者さんで、ほんと命拾いしたというか。もう、お医者さん、様々という感じで。

(北村直也)健康が身に染みますね(笑)

(町田和美)相方のビリーさんにも感謝で。

(テンパープラザ広瀬)というか、帰ってきたら席があるか、そればかり心配で。

(町田和美)とにかく病み上がりですんで(笑)

(北村直也)今日は「男はつらいよ」シリーズの第17作目、「寅次郎夕焼け小焼け」という作品のお話なんですが。

(町田和美)マドンナ役は太地喜和子さんが。 

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(北村直也)はい。兵庫県たつのの芸者という設定なんです。とにかくこの作品、すごくシンプルなんですけど、ほんとによく出来てまして。ファンの方に投票してもらうと、必ず1位か2位に輝く作品なんです。

(テンパープラザ広瀬)愛されてるんだ。

寅さんシリーズで屈指の名作

(北村直也)愛されてるんですよ、シリーズの中でも特に。ストーリーが先ほども言いましたが、シンプルでわかりやすいんですけど、1人1人の役者さんがもう際立ってまして。笑いどころと泣きどころ、でもシリーズの王道をきちんとおさえてて、もうすべてがまとまってる。だから「男はつらいよ」初心者の方におすすめするとしたら、やっぱりこの作品ってなるんですよ。

(テンパープラザ広瀬)あ、そういう定番になるほどの。

(北村直也)そうなんです。型を外してないんですね。とにかくもう人情につぐ人情をテーマとした作品なんですよ。それが最後の最後まで続くんです。だから、何度でも見れちゃうんです。

(町田和美)なるほど。

(北村直也)柴又に帰ってきた寅さんが、いつものように喧嘩して家を飛び出して行って、その先の飲み屋で、ひどい身なりの老人、これが宇野重吉さんが演じておられるんですが、その老人が支払うお金を持ち合わせてなくて、寅さんがお代を肩代わりしてあげるところから話は始まるんですね。

(テンパープラザ広瀬)なんとまぁ。

(北村直也)人がいいねって話なんですけれども、まずそういった人情から始まるわけですよ。でまぁ、その流れから寅さんは、この見ず知らずの薄汚いような老人をとらや(くるまや)に連れていって、一晩泊めてやるんですね。

(町田和美)笑

(北村直也)おいちゃん、おばちゃんからしたら、とんでもない話ですよ。いくら甥のこととは言え、喧嘩して飛び出して行った寅さんが夜遅くに酔っ払って戻ってきたと思ったら、どこの誰かもわからないような老人を連れて帰ってきて、またそれを泊めてやるとか(笑)。話がもう最初から飛んじゃってるんですけど、とらやの皆なら、そこはまあ、あり得るんですよ、全然。

(町田和美)ほんと無いわ。お気の毒な話ったら。

(北村直也)まぁここで一つ人情なんですよね。でまぁ、この老人、宇野重吉さんという名俳優で寺尾聡さんのお父様なんですよ。

(テンパープラザ広瀬)ルビーの指輪の。

(北村直也)そうです(笑)。寺尾さんの話になるとここはもう避けられないところですが、その通り。ルビーの指輪です。知ってます?

(町田和美)リアルタイムではないですけど、もちろん知ってます。

(北村直也)すごい曲で。むかしTBSで「ザ・ベストテン」という歌番組があったんですけど、12週連続1位になって、最後は、スタジオの椅子の一つがそれを記念してルビー色になって、そのまま番組が終わるまで記念のソファーの一角として残るくらい。もう当時小学生だった私なんか、今でもその事は、はっきり覚えてますからね(笑)

(テンパープラザ広瀬)すごい話だな。

(北村直也)で、まあ、話を戻しますと、寺尾聡さんはそういった凄い方なんですが、今回の宇野重吉さんはそのお父様にあたる方で、しかもこの作品は親子でご出演されています。

(町田和美)え?親子で?

(北村直也)この作品が1976年の作品ですから、ルビーの指輪があたるまだ5年も前の話なんですよ。たつの市の観光課の職員役として出演されているわけなんですけれども。だからまだ光が当たってないというか、役としても全然パッとしないんですよ。その対比でお父様が存在感凄すぎて。

(テンパープラザ広瀬)へえ!そうなんだ。

(北村直也)宇野重吉さん演じるこの老人は、実はただの老人なんかじゃなくて、「池の内青観」というそれはそれは日本を代表するような名の知れた日本画の画家さん、いわゆる重鎮だったんです。

(町田和美)あら、おもしろい!

(北村直也)ここでまぁ、薄汚れた老いぼれが実は神様だったっていうような、まさにどこかに出てくるような分かりやすくて、引き込まれるストーリーなんですよ。それを知らないもんだから、お気の毒ながら、もう腹が煮えくり帰ってるおいちゃんやおばちゃんなんか、我慢の限界でこの老人を無碍に扱うんですよ。

(テンパープラザ広瀬)そりゃそうだわ。

(北村直也)で、すごい人だってのが、決定的になるシーンがあるんですけども。この老人がとらやさんにお世話になってしまった御礼にと、スケッチブックか何かにさらさらっと描いた画が、神田の古物商ですごい額で売れたりして。まぁ、このシーンはシリーズの中でも私がとりわけ大好きなシーンのひとつなんですが、とにかく見応えありますよ。そんなこんなで、すごい人だったってのが分かるんですが、もう時すでに遅しで、お金づるの老人がいよいよ出て行ったってことをきっかけに庶民のさもしい大喧嘩の末に寅次郎が出た旅先が兵庫県のたつのなんですね。

(町田和美)また喧嘩なんだ。

(北村直也)ちょうど話は、たつのの観光課が、たつの市のいいところを青観先生に描いてもらって市をアピールしたいってことで、先生をお招きして接待なんかをするわけです。

たつのでの出会いとお金の話

(テンパープラザ広瀬)はいはい。

(北村直也)そこで、まぁ偶然にもというかストーリーとして寅さんと青観先生が道すがら再会するわけなんですよ。で、寅さんはもうあんな感じですから、「よぅ、じいさん、元気だったか」みたいにやるもんで、側からみたら「この人、日本を代表する池の内青観先生にこんな口の利き方できるっことは、この人こそすげえ人なんだ」ってなるわけですよ。

(町田和美)うけるわ(笑)

(北村直也)そしたら「先生もご一緒にどうぞ」ってなって、なんか全く関係ない寅さんまで、市の接待を受けることになるんですね。ま、今じゃこういう描き方はちゃっと問題あるって話にもなるでしょうけれど、その接待の席によばれる地元の芸者さんのひとりが、太地喜和子さん演じる「ぼたん」という話になんです。

(テンパープラザ広瀬)芸者と寅さんか。

(北村直也)もうこの役は太地喜和子さんのハマり役だと僕は思うんですが、そこぬけに明るくて、サービス精神旺盛な、健康的な芸者さんなんですよ。で、そのたつので勘違いでスタートした夢のような日々を送って、寅さんは東京に帰るんですよ。その後、毎日たつのの事を思い出しているところへ、これまた、ぼたんが柴又のとらやを訪れるんですね。

(町田和美)来ちゃうんだ。

(北村直也)そう。でも東京に出てきたのには実は理由があって、ぼたんは折角働いて貯めたお金を、東京の悪い男に騙し取られてるんですよ。で、それはぼたんの過去のお客って話なんですけど、それをなんとかしたいがために、ぼたん自身が勇気を絞って東京に出てきたって話なんですね。

(町田和美)寅さんに会いにきたんじゃないんだ。

(北村直也)恐らく真の理由は、お金ですよ。

(テンパープラザ広瀬)うーん。そっち。

(北村直也)ぼたんが大金を騙し取られたってことで、とらやの皆んなもすごく共感するんですよ。仕舞いには、裏の工場の社長さんなんかも、その悪い男の元へ付き添ってくれたりするんですね。

(町田和美)ほんと、社長さんいつも優しいわ。

(北村直也)優しいですよね。完全にお金の話で他人事なのに、そこに乗ったっちゃうんですよ。でも、そんな簡単にお金なんて戻ってくるわけもないですし、ぼたんもタコ社長もとらやの皆んなも、とにかく途方にくれるわけです。

(町田和美)そりゃそうだわ。

(北村直也)最後のクライマックスは、とにかく無い知恵を絞った寅さんが、池の内青観先生に、ぼたんのために画を描いてほしいと頼み込みに行くんですが、さて青観先生は寅さんの頼みを聞いて画を描いてあげるのかどうか、というのがこの作品の最後の肝になるんですよ。

(テンパープラザ広瀬)なるほど。確かに綺麗なストーリーだな。

大人の秘めた恋

(北村直也)でしょう?すごくわかりやすいんですよ。で、この作品の中盤に、青観先生がたつので昔の恋人をお忍びで訪れるシーンがあるんですね。昔の恋人だから、お互いいい年の老人なんですけど、すごいいいシーンなんですよ。結ばれなかった恋なんでお互いいいままの気持ちで残っているというか。

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(町田和美)大人の秘めた恋っていう感じ。

(北村直也)ほんとそんな感じなんですよ。でももし結ばれていたらどうだっただろうという後悔が無くもないわけです。特にそれは男の方の青観先生は色濃く持っているわけなんですよ。だからひょっとしたら、この映画は、このシーンがキーになってるんじゃないかなって気がしていまして。クラマックスのシーンで最終的に青観先生が取った選択は、このシーンが伏線になってるんじゃないかなと思うんですよ。とにかくそれを思い出しながら見て欲しいですね。

(テンパープラザ広瀬)深いなぁ。。。

(町田和美)ありがとうございます。今日紹介いただいた作品、「男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け」は、大阪ステーションシネマでは【7/31(金)~8/13(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。


<書き起こし終わり>


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