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北村直也『男はつらいよ寅次郎子守唄』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎子守唄』について語っていました。 


(町田和美)今日もよろしくお願いします。

(北村直也)はい。よろしくお願いします。広ぽん、お休みなんですね(笑)

(E・T・ビリー)初めまして(笑)広瀬が体調崩しまして。

(北村直也)でもきっちり相方の方がこうして代役されるんですね。

(町田和美)今後相方が不祥事起こしても大丈夫みたいな。

(北村直也)広ぽん聞いてたら怒りますよ、きっと(笑)

(町田和美)(笑)ビリーさんは、むしろ広瀬さんより「男はつらいよシリーズ」詳しいとか。

(E・T・ビリー)詳しいというか、小さい頃から見てきたと言うか。中学生の頃ですかね、最初テレビで見てハマって。

(北村直也)最初見た作品は何だったんですか。

(E・T・ビリー)「寅次郎夕焼け小焼け」です。

(北村直也)最初に見てしまったら一番ハマるやつですね(笑)今日は、広ぽんの代わりに宜しくお願いします。

(E・T・ビリー)よろしくお願いします。

(北村直也)今日は、第14作目「男はつらいよ寅次郎子守唄」です。子守唄って言うくらいですから、幼子というか赤ん坊が出てきます。


(町田和美)おや。

(北村直也)まぁもちろん、寅さんの赤ん坊ではないです(笑)旅先で知り合った男から赤ん坊を押しつけられるところから話は始まります。この男、若い頃の月亭八方さんなんですけどね(笑)本当にだらしないんですけれど、嫁さんも子供の面倒を見ずに旦那に子供を押し付けるわけで。まぁ寅さんにしたらいい迷惑というくらいの話ですけれども、子供が一番かわいそうですよ。結局寅さんが朝起きたら、横に赤ん坊が手紙と共に残されていたという。

(E・T・ビリー)ひどいですよね。

柴又赤ん坊騒動

(北村直也)どんな事情があってもひどいですよね。寅さんはその、九州は佐賀県の呼子というところから赤ん坊を背負って葛飾柴又に帰ってくるんですよ。まぁ寅さんにしたら助けを求めて柴又に帰って来たわけですけれども、とらや(くるまや)のみんなにとっちゃ大騒ぎなんですよ。もちろん訳も聞かず、いろんな噂が飛び交う訳です。まぁなんとか赤ん坊は無事だったんでよかったんですけどね。

(町田和美)大騒ぎというのは、寅さんの子供?ということで?

(北村直也)そうです。本来すぐに俺の子供じゃないと前もって言えばいいですけど、寅さんにはその「前もって」がないじゃないですか。だから「おめぇ、そんな無責任なことでどうすんだ」ってなるんですよ。

(E・T・ビリー)なるなる。

(北村直也)最終的にその誤解は晴れるんですが、そうなると今度は、とらやのみんなは赤ん坊に対して情が移ってくるんですね。

(町田和美)わかる。

(北村直也)特におばちゃんこと、つねさんはすごくその赤ん坊のことを可愛がって世話してあげるんですよ。

(E・T・ビリー)というと。

(北村直也)裏のタコ社長の言葉になるんすけれど、「おばちゃん、子供が出来なかったから」というちょっとセンシティブな話が出て来ましてね。その言葉と合わせるようにおばちゃんが赤ん坊の世話をしている姿が被さるんですよ。まぁここが山田洋次監督の非常にうまいところなんですけども。登場人物の背景をひとつずつ重ね合わせて行って、物語全体の臨場感を作っていくんですね。

(E・T・ビリー)この先もずっと続くってことが前提かのようにね。

(北村直也)全くその通りですね。山田監督の頭の中には、もうずっとこの作品は絵巻物のようにこの先も続いていくという確信があるんです。覚悟っていうんでしょうか。だからこそこうして色が塗られていない余白なんかに年月をかけて色付けていくんですよ。厚みがどんどん増していくんですね。

(町田和美)すごい。

(北村直也)ちょうど、この作品の冒頭で妹さくらの夫の博が工場で労災を起こすんですね。幸い軽症で済んだんですが、その時通った病院にいた美人看護師さん、これが今回の寅さんのマドンナ・十朱幸代さん演じる木谷京子なんです。

(E・T・ビリー)出た!王道。

マドンナ看護士、十朱幸代登場

(北村直也)みんなこの美人看護師さんと寅さんを合わせないように合わせないようにするんですけれど、結局、とらやを訪れた京子に寅さんは一瞬で一目惚れしてしまうという皆さんお待ちかねのストーリーなんです。

(町田和美)なるほど(笑)で、赤ん坊は?

(北村直也)赤ん坊はというと、結局話の前半部分で、例の寅さんに赤ん坊を押しつけた男性が、とらやを訪れるんですよ。結局さくらやとらやのみんなに、これからはちゃんと子供を育てることをたしなめられて、赤ん坊は父親の元に帰っていくんです。寂しさだけを残して。

(町田和美)あ、おばちゃんが。

(北村直也)そうなんです。赤ん坊はいなくなったのに、天井にぶら下がった子供をあやすおもちゃなんかがそのまんま残ってて、それがおばちゃんの寂しさを際立たせるんですね。

(E・T・ビリー)寂し過ぎる。

(北村直也)おばちゃんは寂しく涙流しながら。このシーンは物悲しいですね。まぁこの作品では前半おばちゃんにフォーカスがあたる感じなんですが、実はおいちゃんこと竜造さんも2代目おいちゃんから3代目おいちゃんにこの作品から変わっているんです。下條おいちゃんですね。

(町田和美)私のおいちゃんはこの下條おいちゃんです。

3人のおいちゃんたち

(北村直也)そうでしょうね。なにせ下條おいちゃんは、この第14作から48作目まで、役を務めあげます。森川おいちゃんが1作目から8作目、松村おいちゃんが、9作目から13作目ですから、下條おいちゃんがシリーズ中、如何に長くご出演されてるかわかります。

(E・T・ビリー)おいちゃん・オブ・ジ・おいちゃん。


(北村直也)その通りです(笑)。でも下條おいちゃんが誕生するまでに実は紆余曲折があるんですよ。初代の森川おいちゃんから松村おいちゃんに替わったのは、森川おいちゃんが病気で亡くなられたからなんですね。僕はすごく初代おいちゃんの、「俺ぁ、知らねえよ」とか「馬鹿だねぇ、全く」という十八番のセリフが大好きだったんですけれども。

(町田和美)みんなそれぞれ特徴をお持ちということで。でも病死されたんですか。

(北村直也)はい。実は、そのあとの松村おいちゃん、「べらんめえ調」のおいちゃんですね、昼からパチンコに行くという。この松村おいちゃんも、病気で降板となるんです。

(E・T・ビリー)あらま。

(北村直也)これはもう封切りまで時間がなくて。実は山田洋次監督の近所に住まわれていた下條さんに白羽の矢が立ったという話なんですよ。ところが、もうこの頃の「男はつらいよ」なんてすでにシリーズ化してますし、その重圧に耐えられるか、下條さんは悩むんですね。受けていいものかと。

(町田和美)そりゃ悩みますよ。

(E・T・ビリー)安易に受けられないですよね。

(北村直也)その背中を押したのが、息子の下條アトムさんなんですよ。

(町田和美)え!そうだったんですか。

(北村直也)山田洋次監督が取材でそう答えられてるんですよ。まぁ、そのご決断あって、「男はつらいよ」の最後のおいちゃんとして、ほんとに最後の最後までご出演されることになるんですよ。もう、人生をこのシリーズに捧げることになるんです。

(E・T・ビリー)そうだったのかぁ。

(北村直也)下條さんのすごいところだと思いますよ。どちらかというと、これまでのおいちゃんと比較すると、静かな感じでじっと耐えてるイメージなんです。寅さんの言動や、いさかいに対しても。時には嗜めたり、言い聞かせたり、正直に悪かったこの通りだと頭を下げることもあるわけなんですね。そんな役柄だったからこそ、この先何十年も同じ「おいちゃん」という役に徹することが出来たわけなんですよ。

(町田和美)なるほど。 

今宵も王道のストーリー

(北村直也)作品としては、前半と後半に話が別れてまして、前半は赤ん坊騒動、後半のそのマドンナ看護師さん、十朱幸代さんが趣味のコーラスサークルに通ってるんですが、そこで歌を教えている先生というか、青年というか、とにかくひげもじゃの男性が十朱さん演じる木谷京子に恋をするというストーリーになってるんですよ。

(E・T・ビリー)面白くなって来たぞ。

(北村直也)そこに妹のさくらもコーラスに通うんですよ。まぁ寅さんもついてくるんですけども。で、まぁ三角関係になってしまうわけですよ、その状況から。

(町田和美)ですよね。

(北村直也)寅さんは、このひげもじゃに自分は負けるわけがないと思ってるもんだから、ひげもじゃの弥太郎青年に恋の指南なんかをしちゃうわけです。で、どうなるかって話になって、この作品もいよいよラストを迎えるという展開になるんですよ。

(町田和美)寅さんがどんな形でふられるかということですね。

(北村直也)いつもながらですが、今回はちょっと切ないですね。とは言いつつも、マドンナの十朱幸代さんこれまたすごくお綺麗ですよ。

(町田和美)さて、今日紹介いただいた作品、「男はつらいよ寅次郎子守唄」は、大阪ステーションシネマ他で【7/17(金)~7/30(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。

(北村直也)どうもありがとうございました。



<書き起こし終わり>



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